2016年05月30日

【ザ・チョイス】エリヤフ・ゴールドラット



原題:The Choice
第1章 二つの選択肢
第2章 あらためて、常識とは何か
第3章 なぜ、当たり前のことができないのか
第4章 ものごとは、そもそもシンプルである
第5章 矛盾と対立
第6章 信念を行動に
第7章 調和
第8章 決して、わかったつもりになるな(PART1)
第9章 ウィン・ウィン
第10章 決して、わかったつもりになるな(PART2)
第11章 機会はいくらでもある
第12章 販売期間の短い製品
第13章 限界なき可能性
第14章 明晰な思考とトートロジー
第15章 コンフォートゾーン(PART1)
第16章 人はもともと善良である
第17章 コンフォートゾーン(PART2)
第18章 感情、直感、そしてロジック

『ザ・ゴール』を読んで以来、すっかりファンになってしまったゴールドラット博士の一冊。もうみんな読んでいたものと思っていたら、なんと読み逃していたことを発見し、慌てて購入した次第。

今度の本は、組織や人間関係をよりよくする実践的アプローチの方法を本にまとめようとしたものだと冒頭で説明がなされる。なかなか興味深いイントロである。そして内容は、ゴールドラット博士と娘エフラットとの会話という形で進んでいく。

ゴールドラット博士は、「複雑そうに思えてもものごとはそもそもシンプルである」と語る。にわかには信じられないエフラット。そこでゴールドラット博士は、その一例として、アパレル業界でトップクラスのメーカービッグブランド社の例を挙げる。
マネージャー会議に出席したゴールドラット博士は、今後5年間で10億ドルの利益を目指そうという意欲的な目標を決めて会議が終わると、メンバーに質問する。
「10億ドルではなく40億ドルという目標は達成可能だろうか」と。

今後の目標として立てた数字(それは大抵「!00%達成可能」と言えるシロモノでは当然ない)のさらに4倍となれば、普通の感覚だと「何を言っているのだ」となるだろう。しかし、ゴールドラット博士は、既存の業務のやり方を改善、向上させることで純利益を増加させることはできないかと問いかけ始める。
そして、実は品切れアイテムの存在が、潜在的な売り上げ損失を招いていることを指摘し、実は品切れ商品を一掃するだけで、理論上年間40億ドルを超える利益が出ることを証明する。

そしてその理論を実現するためには、シーズンのはるか前からデザインを発注し、アジアで製造し、店頭に並ぶ一連のプロセスを変えなければならないと導いていく。今まで当たり前と信じて疑わなかった業務フローを、ゴールドラット博士は変えていく。そして会議は、「40億ドルの利益は控えめかもしれない」との言葉で締めくくられる。

この前半部分だけでもなかなか刺激的である。自分たちの業務フローでも似たようなことはないだろうかと考えてみる。「ものごとはそもそもシンプルであり、その考え方が受け入れられれば明晰な思考ができるようになる」と博士は語るが、この理屈は素直にその通りだろうと納得できる。

その明晰な思考を邪魔するものは次の3つ。
・現実は複雑だという概念
・対立は当たり前だと考えてしまう傾向
・問題を相手のせいにしたがること
特に問題を相手のせいにすることは、間違った方向に進むことになるとする。火に油を注ぐようなもので、調和も保てない。明晰な思考とは、「自分の目的とするところに向かって最も効率的な道を選ぶこと」だとし、いかに人と良好で調和のとれた関係を保つことができるかが大事だとする。

具体的な例として、下請け業者との関係が採り上げられる。ブランド企業のニーズとしては、「在庫を減らしたい」というものがあり、あてにならない販売予測に基づく生産体制から実際の消費に合わせた生産体制に移行するには、下請け企業と「ウィン・ウィン」の関係を築かないといけない。それには在庫の回転数を上げる一方で、価格を上げることにより下請け企業にもメリットあるやり方ができるとする。

窮状を呈した関係に直面した時、相手を責めるのではなく、ウィン・ウィンの関係が必ず存在すると信じて取り組むべきという指摘は、何事にも応用できそうである。アパレルやパンの小売がこの本では事例として採り上げられているが、いろいろな業界に応用ができそうな気がする。ゴールドラット博士になった気分で、自分の仕事についてあれこれ考えてみるのも有益かもしれない。

単なる読み物としても面白いし、ビジネスのヒント探しにもなる。『ザ・ゴール』を含めて、何度も読み返したいシリーズである・・・


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2016年03月11日

【ブロックバスター戦略】アニタ・エルバース



原題:BLOCKBUSTERS

序章  ショービジネス成功のカギはブロックバスター
第1章  ブロックバスターに勝負を賭ける
第2章  ブロックバスターを売り出して管理する
第3章  スーパースターに投資する
第4章  スーパースターは自らの力をどのように行使するか
第5章  デジタル技術はブロックバスターの優位に終焉をもたらすか
第6章  ブロックバスター戦略は広告手法を変える
終章  エンタメ業界の戦略は他のビジネスでも通用するのか

著者は、ハーバードビジネススクールのリンカーン・フィレーン記念講座教授なのだという。
よくわからないが、史上最年少で終身在職権を取得したというから、かなり優秀な方なのだろう。
この本は、そんな著者の人気授業に関したテーマであるようである。

「ブロックバスター」とは、聞きなれない言葉であるが、「街の区画(ブロック)を破壊するほどの強力な爆弾」というのが語源らしく、そこから転じてメガヒット映画を指す俗語であるらしい。
読み進んでいくと、具体的内容が分かってくる。

まずワーナーブラザーズとNBCの例が採り上げられる。
『ハリーポッター』『ダークナイト ライジング』『シャーロック・ホームズ』『ハングオーバー』等のメガヒットを飛ばすワーナーブラザーズに対し、NBCはヒット作を生み出せずに苦戦する。
両者の違いは、戦略の違いそのもの。

NBCは、莫大な投資を控え、多数の作品に少しずつ賭けてコストを厳密に管理し、利鞘を求めていった。
一方、ワーナーブラザーズは、ブロックバスターを狙って大きくつぎ込み、その他大勢につぎ込む費用を大幅に抑えた。
その結果、2010年のワーナーブラザーズの年間余剰金のうち、60%以上が高額をつぎ込んだ上位3作品から生じ、70%が上位4作品から生じたという。
80:20の法則に相通じるものがある。
著者は、「少額を多くの対象に賭ける方が大きなリスクを負う」と語る。

こうした例が、映画だけでなく、音楽業界のレディー・ガガにも当てはまるとして紹介される。
レディー・ガガの場合、限定リリース戦略ではなく、ワイドリリース戦略をとり、長い準備期間を設けて世間の注目を集め、一気に販売することで発売後一週間で110万枚を売り上げたという。

スポーツの世界では、スターに投資する例で説明される。
スペインのサッカークラブ「レアルマドリード」は、大金をかけて一流の選手を集め、そして世界一の高収入を上げるクラブになっているという。
「スーパースター獲得戦略」というべきもので、これが獲得費用の高騰につながっている。

これに対し、アルゼンチンの貧乏チームボカ・ジュニアーズの戦略は、地元で有望な選手を集めて育成し、ヨーロッパの金持ちチームに選手を「販売」することで収益を上げているという。
個人的には、この戦略のほうが賢いと思えてしまう。

こうした「ブロックバスター戦略」が、映画界のトム・クルーズ、ビデオコンテンツのフールー、そしてサービス&ファッション業界と語られる。
これが自分の働く業界でどう応用できるかというと、何となくヒントのようなものが見えた感がある。
そんな身近な例に当てはめて考えてみると、読んだ価値はあるのではないかと思える。

考えてみれば、いろいろとありそうなブロックバスター戦略。
考えるヒントになる一冊である・・・


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2016年03月02日

【イノベーションと企業家精神】P.F.ドラッカー



原題:INNOVATION AND ENTREPRENEURSHIP
第1章 イノベーションと企業家精神
第2章 イノベーションのための七つの機会
第3章 予期せぬ成功と失敗を利用する/第一の機会
第4章 ギャップを探す/第二の機会
第5章 ニーズを見つける/第三の機会
第6章 産業構造の変化を知る/第四の機会
第7章 人口構造の変化に着目する/第五の機会
第8章 認識の変化をとらえる/第六の機会
第9章 新しい知識を活用する/第七の機会
第10章 アイデアによるイノベーション
第11章 イノベーションの原理
第12章 企業家としてのマネジメント
第13章 既存企業における企業家精神
第14章 公的機関における企業家精神
第15章 ベンチャーのマネジメント
第16章 総力戦略
第17章 ゲリラ戦略
第18章 ニッチ戦略
第19章 顧客創造戦略
終 章 企業家社会


ご存知ドラッカーの本が、「エッセンシャル版」という形で出たため、早速手にした一冊。タイトルからして深そうである。
「企業家精神とは気質ではなく行動」と冒頭から説明がある。
その原理とは、「変化を当然のこと、健全なこととすること」と続く。
一方、イノベーションについては、その範囲は広く「技術というより経済や社会に関わる用語」とする。
これだけを聞くとなんのことやらと思うが、例示されていものを読むとその意味がよくわかる。

イノベーションには七つの機会がある。
1. 予期せぬことの存在
2. ギャップの存在
3. ニーズの存在
4. 産業構造の変化
5. 人口構造の変化
6. 認識の変化
7. 新しい知識の出現
である。

いろいろと細かく実例で解説されているが、要は常に何かを求めているかがカギになると思われる。
「昨日と同じ今日を明日も過ごす」というスタンスでは到底イノベーションとはほど遠い。
ニューヨーク最大の百貨店メイシーの会長から、その昔家電の売れ行きを抑えるにはどうしたら良いかと相談された例が印象的である。
メイシーの主力である婦人服の売り上げを家電が大幅に上回り、それに「危機感」を抱いての相談であったが、それを本当に笑えるだろうかと思う。

プロイセン王は、鉄道の出現に際し、「ベルリンからポツダムに乗馬を楽しめるというのに、金を払って1時間しか乗れないものを使うものなどいないであろう」と断じたという。
答えを知っているから笑えるだけと言えなくはないだろうかと思う。

「エッセンシャル版」であるはずだが、その範囲は19章にもわたり幅広い。
よくぞまあこれほど実例を伴ってまとめ上げているものだと思わざるをえない。
ただ、ここに書いてあるのは過去の例であり、将来どんなイノベーションが可能なのかは書かれていない。
この本からそのエッセンスを学び、自ら見出していくほかない。

時代はどう動いていくのか、自分の属している業界にはどんな特徴があって、みんなが当然だと思って疑問にも思っていないこと、そして外から見れば不自然なことはないか、常に意識を持ってアンテナを高く張っていないと、「昨日と同じ今日を明日も無為に過ごす」ことになりかねないし、当然イノベーションなど起こせるわけがない。
一読して終わりという本ではなく、折に触れて手に取ってみたい一冊である・・・


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2014年05月28日

【人は一瞬で変われる】鎌田實



第1章 小さなきっかけが「変わる力」を引き出す
第2章 「がんばらない」で自分を変える
第3章 明確な目標があれば人は変われる
第4章 形から、経験から、中身も変わっていく
第5章 「誰かのために」が自分を変える

著者は諏訪中央病院の名誉医院長。
テレビにも出演している著名人である。
タイトルにある通り、「自分を変えたい」と思っている人に「変わることができる」と説いたのが本書である。

第1章では、人は小さなきっかけで変わっていくという事例が紹介される。
慢性骨髄性白血病で99%助からないと言われた少女。
お姉さんが「1%もある」と可能性を説き、やがて助かるどころか日本初の骨髄バンクを設立するまでになる。

暴力沙汰を起こした生徒、不登校の生徒が変わる。
「なんとかなるかもしれない」が口癖のドクターが、リハビリ患者を変えていく。
一冊の絵本が感動を引き起こし、読む人を変えていく。
行動を変える(=行動変容)とは、自分の中に眠っているものを引き出すだけのことである。

自分を変えるのに努力は不要。
芸能人の藤村俊二は、嫌なことからヒョイと逃げてしまう(それでついたあだ名が“オヒョイ”)が、それが良いと紹介される。
頑張らずにだらだらで良いと言われると、何だか安堵する。

他人の要求も自分の要求も大切に考え、うまくバランスが取れるタイプBの性格の人は癌になりにくいとか。
人に優しく自己犠牲的なタイプCは、心の中に感情を留めてしまい、かえってダメらしい。
自分はどう見てもタイプCだから、少しは我がままになっても良さそうである。

自分を変えるには、頑張らなくても良いが、明確な目標は必要。
徒競走はビリでも、エベレストに登ってしまった女性がいる。
小さな成功を繰り返し、健康と仕事と両方で改善してしまった中小企業の経営者がいる。
たかの友梨ビューティークリニックで有名なたかの友梨氏の半生は凄いの一言である。

その他にも弁護士の大平光代氏など、劇的に人生を変えた人の例が紹介されているが、概して変わるのにドラマチックな出来事や人に真似のできない努力は必要ないと説かれているのが、耳に心地よい。
誰にでもできそうであるし、実際そうなのであろう。

だからと言って、「では変わらなきゃ」と焦る必要もなさそうだ。
この本全体を通じて流れる感覚からすると、そんな感じがする。
変わりたいと思うのなら、「少しだけ変わる」ところから目指しても良いかもしれない。

個人的に今一つの転機に来ている。
たぶん今の出来事にカタがついたら以前とは考え方も行動も変わるだろう。
そんなタイミングだったせいか、心にスムーズに溶け込んできた一冊である・・・

http://www.kamataminoru.com/index.html
http://kamata-minoru.cocolog-nifty.com/

  
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2013年10月03日

【スタンフォードの自分を変える教室】ケリー・マクゴニガル



原題:The Willpower Instinct/Based on a wildly popular course at Stanford University
第1章 やる力、やらない力、望む力
第2章 意志力の本能
第3章 疲れていると抵抗できない
第4章 罪のライセンス
第5章 脳が大きなウソをつく
第6章 どうにでもなれ
第7章 将来を売りとばす
第8章 感染した!
第9章 この章は読まないで
第10章 おわりに

著者はスタンフォード大学の心理学者。
写真を見るとかなりの美女でもある。
そんな著者が、「意志力を磨けば、人生が変わる」として、スタンフォード大学で行っている講義を書籍化したものである。
「意志力の科学」という名のその講座は、大人気を博しているという。

何かをやり遂げようとする時、欠かせないのが意志力。
それには「やる力」「やらない力」「望む力」という3つの力があるという。
思考・感情・行動のそれぞれをコントロールしようとする複数の自己のせめぎ合い。
それが人間の脳の働き。
意志力を強めるには、自己認識と自己コントロールのシステムを強化する必要がある。

意志力をてきめんに高めるのに良いのは、呼吸のペースを1分間に4回から6回までに抑えることという。
確かに、深呼吸すれば心は落ち着く。
そしてエクササイズを加えれば、さらに自己コントロール機能が上がる。
どんなエクササイズをどのくらいやれば良いのか、それを決めるのは自分自身。
そして睡眠。

しかし疲れていると、誘惑に対する抵抗感は落ちてしまう。
そして、「良い事をすると、悪い事をしたくなる」。
「頑張ったご褒美」という甘い囁き・・・
メニューにヘルシーなサラダが載っていると、なぜか太りそうなモノを頼んでしまう。
「あとで取り返せる」と思う心の働き・・・

ストレスを感じると、脳はそれを発散させようと気分直しのチョコレートケーキへと向かわせる。
タバコの警告表示がかえって喫煙を増加させる。
明日の大きな報酬より目の前の報酬に飛び着いてしまう。
肥満が広まるように、怠惰な意志は人から人へと感染する。
こうした例をわかりやすく解説してくれる。

そして合わせてその対処策。
「未来に行って『将来の自分』に合う」という対応策は、自分に効果がありそうである。
お手本になる人を求めても良いし、周りに何かを宣言してもいい。
何かを「やらない」ようにするより、形を変えて何かを「やる」ようにするという方法も気に入った。
それは例えば、「遅刻をしない」ではなく、「5分前に到着する」というものである。

個人的には意志力はかなりのモノだと思っていたが、「意志力」を化学的に説明し、弱い人にも強くするように導く方法は、なかなか面白い。
講座が人気講座になるというのも頷ける。
アメリカの大学には、書籍化されるような面白い講座が多い。
できれば直接参加してみたいものである。
(英語の壁が大きいが・・・)
それが叶わぬうちは、せめて本だけでもエッセンスを楽しみたい。
そんな楽しみを与えてくれる一冊である。

  
ケリー・マクゴニガル.jpg
   
   
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2013年07月11日

【天才数学者、株にハマる】ジョン・アレン・パウロス



原題:A Mathematician plays the stock market
第1章 何が市場で「正しい」のか?
第2章 投資家の行動は合理的か?
第3章 テクニカル分析は役に立つか?
第4章 市場はどこまで効率的か?
第5章 ファンダメンタル分析は役に立つか?
第6章 リスクといかにつき合うか?
第7章 分散投資は有効か?
第8章 株価変動はカオスか?
第9章 投資理論はパラドックス?

著者はアメリカのテンプル大学教授であり数学者。
2000年の初め、株価が勢いよく上昇していた頃、ワールドコム社の株式を購入。
はっきりとは言及されていないものの、かなりの資金をつぎ込んだようである。
一時は大きくもてはやされた同社であるが、その後見事に破綻。
著者は大損をこいたらしい。
そしてさすが、学者。
その苦い経験を基に書いたのが本書である。

投資に関するさまざまなトピックに対し、学者らしい解説を与えてくれているが、それがまた感心するとともに愉快。
例えば、投資家の心理的弱点として、「消極的に降りかかった損失は積極的に関与したために起こった損失ほどには後悔の念をもたらさない」というのがある。
昔からの投資対象に固執してそれが25%下がった人は、25%下がる直前に同じ投資対象を購入した人ほどには狼狽しない。
それがゆえに、著者も下がりゆくワールドコムの株を持ち続けたという事なのだろう。

「心の会計簿」という考え方も面白い。
コンサートに行く途中で100ドルのチケットをなくした人は、チケットを買いに行く途中で100ドルの現金をなくした人よりも、新しいチケットを買う可能性が小さいというもの。
つまり、金額はどちらも同じだが、コンサートという勘定科目から200ドル出すのは使いすぎだと考える傾向があるのだという。
頷ける話である。

株式ニューズレター詐欺という話も面白い。
もしも株式に関する手紙が毎週届き、10週連続であたっていたら、次のレターに沿った投資勧誘に応じるだろうか、というものだ。
これは実は可能な事で、例えば初めの週に6万4千の読者の半分に上昇、半分に下降という予測のレターを出す。
次の週はその予測が当たった半分に対し、また半分ずつ上昇と下降の予測を出す。
これを繰り返せば、数は減るものの、10週連続で当たる確率100%のレターを受け取る読者ができるのだという。
「市場はどこまで効率的か?」という章の中の話なのであるが、こうした興味深い話が登場する。

株式投資をやっていれば、どこかで学んだかもしれない「心理」や「テクニカル分析」「ファンダメンタル分析」といった話が、学者らしい解説で語られる。
あれこれ理屈をこねてみても、次の株式投資で勝てる保証はまったくない。
いくら学者でも、株式市場の前では素人だと、当たり前のように思う。

「他人の不幸は蜜の味」ではないが、自分の損でないから、安心して読み進む事ができる。
この本の印税で、著者はどのくらい失ったロスを回復できたのだろう。
そんな興味が湧いてくる。
フルにカバーできたかどうかは知らないが、多少の穴埋めは出来ただろうし、「転んでもただでは起きぬ」精神は素晴らしい。

この本を読んでも株式投資で勝てるようにはならないが、勉強にはなる。
ちょっと難しい部分もあるが、良い勉強にはなる本である・・・

     
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2013年05月03日

【影響力の武器】ロバート・B・チャルディーニ



第1章 影響力の武器
第2章 返報性−昔からある「ギブ・アンド・テーク」だが
第3章 コミットメントと一貫性−心に住む小鬼
第4章 社会的証明−真実は私たちに
第5章 好意−優しい泥棒
第6章 権威−導かれる服従
第7章 希少性−わずかなものについての法則
第8章 手っとり早い影響力−自動化された時代の原始的な承諾

著者は米国を代表する社会心理学者の一人だという。
普段何気なく暮らしているなかで、我々は様々な影響を受けている。
この本はよくわかっているようでいて、我々が知らないでいるそんな「影響力」を解説している本である。

なかなか売れない宝石に業を煮やしたオーナーが店員に値下げを指示。
ところが店員は間違えて値上げしてしまう。
途端に宝石は売れてしまう。
住宅を売るのに初めにわざと魅力のない物件を見せる「コントラストの原理」。
至るところで使われているように思える。

初めに親切にされると、次に頼み事をされた時に承諾してしまう「返報性のルール」。
ハーレ・クリシュナ教会の勧誘者が道行く人に花をプレゼントする。
プレゼントされた人は驚くものの、次に寄付を求められると応じてしまう。
そう言えば昔海外旅行に行った時、突然見知らぬ女性からバッチをつけられ何やら話かけられた事があった。
すぐに寄付を求めているとわかったが、「I don’t know what you are saying」とたどたどしく言ってごまかした。
あれも今考えると、「返報性」のルールを無意識のうちに切り抜けていたわけだ。

「返報性のルール」は、相手の頼み事を拒否したあと次の頼み事で譲歩してしまうという「拒否したら譲歩」法にも通じる。
家電量販店で3年保証を勧められた客が、次に1年保証を勧められると高い確率で応じてしまうという例が、読者から報告されている。
これもよくある。

街中で助けを求めても誰にも助けてもらえない事がある。
これは社会的証明の原理に関わることであるが、その場合は誰か一人を特定して助けを求めれば効果的だという。
人は自分と似ているところがある人に好意を持ち、仲間意識が協力を生む。
「優しい刑事と怖い刑事」の組み合わせによる取り調べが効果的な理由である。

補欠選手が食べていた時は注目されていなかったのに、マイケル・ジョーダンが食べ始めたらチームメイトみんながエナジー・ブースター・バーを食べ始めたのは、「権威の原理」。
残り少ないとわかった時、買う気になる「希少性の原理」。
我々は知らず知らずのうちに、随分と影響を受けているものである。

この本は「騙されないようにしよう」という趣旨ではないが、知っているのと知らないのとでは、必然的に大きな差が出てきそうな世の中の法則の話である。
どうせだったら、知っていたい。
一読の価値ある一冊である。


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2013年02月15日

【人生の科学】デイヴィッド・ブルックス




原題:The Social Animal

「人生の科学」とは何とも大げさなタイトルである。
もちろん、それは邦題で原題とは異なるものの、内容的にはおかしな邦題ではないと思う。
二人の夫婦を主人公とし、二人が生まれた時から、「死が二人を分かつまで」の人生の折々に触れ、様々な学問を当てはめていく。
二人の人生を辿りながら、それらを学んでいくというスタイルである。

例えば夫のハロルドが赤ん坊の頃、偶然父が落としたボールを見てハロルドが笑いだす。
喜んだ父はまたわざとボールを落とすと、ハロルドがけたたましく笑う。
飽きもせずそれを繰り返す。
よくありがちなシーンである。
そこから笑いに関する解説がなされる。
「笑いは、話が面白いから起きるというよりも、その状況が心地の良いもので、また他の人も同じように感じていると察知した時に自然に起きるものである」という具合である。

そのあと幼いハロルドを例に、脳の発達の様子が語られる。
「僕はトラだ」とふざけるハロルドを取り上げ、人間の脳の凄さが語られる。
なぜなら5041の平方根を一瞬で答える事は、コンピュータには簡単だが、「僕はトラだ」と叫ぶ事は簡単ではない。
なぜならその手の想像には、「一般化」と呼ばれる「ある物事の特徴を察知しデータに合致させる」という複雑な作業が必要になるからだという。

有名なマシュマロ実験も取り上げられている。
これは子供が目の前のマシュマロを我慢できるかどうかの実験で、より長い時間我慢できた子供は、できなかった子供よりもテストなどの能力が優れているというものである。
人間の性格は長い時間をかけて徐々に決まっていくものだという事も紹介される。

妻のエリカはアジア系アメリカ人。
そこからは文化という事が語られる。
そして大学を卒業したエリカはビジネスの世界に進むが、そこで行動経済学を学ぶ。
「無意識の偏見」と題されたこの章は、人間の様々な行動が語られる。

やがてハロルドとエリカは出会い、結婚する。
二人の仕事は動的なエリカと静的なハロルドといった具合に異なる。
「科学と知恵」の章では、「無意識」について取り上げられる。
「あなたは今幸せですか」という質問を、晴れた日にするのと雨の日にするのとでは違ってくるように、無意識は人の思考に影響を与える。

「ペンとメモ帳を買って値段が合わせて1ドル10セントだったとする。
メモ帳の方がペンよりも1ドル高いとすると、ペンの値段はいくらか」という問題を出されると、無意識は「ペンは10セント」だと思うという部分はなるほどというものだ。
正解は5セントなのだが、よく考えないと理解できない。

エリカとハロルドは時に夫婦の危機を迎えながらも長く寄り添う。
そして「最後に幸せだった」という人生を歩むのであるが、ハロルドの死に際しては、無意識こそ人間の中核であるとされる。
サブタイトルに「無意識があなたの一生を決める」とあるが、無意識の役割についての一貫した解説が最後までなされる。

少し変わった物語風の理論書とも言える。
ページ数もあり、読み応えはあるが、試してみるのも良いかもしれない一冊である。

     
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2013年01月31日

【悪の論理で世界は動く!】奥山真司




第1章 世界は悪の論理で動いている
第2章 日本の国益は技術だけで守れるのか
第3章 世界の常識「地政学」とは何か
第4章 日本の属国化を狙う中国
第5章 日本を捨てるアメリカ
第6章 属国か独立か、日本が迫られる選択肢

著者はイギリスで「地政学」を研究している学者さん。
「地政学」と言われても、何となくわかったような気がするが、詳しくは「民族や国家の行動パターンを地理的な条件からモデル化した理論」だと言う。
と言われてもあまりピンとくるものではない。
ただ、それが国家を動かしているものである事は確かなようである。

当たり前のようだが、世界各国はそれぞれ自国の国益を限りなく追及している。
しばし日本人が「平和ボケ」だの外交下手だのと言われているが、それも無理からぬ事だと思えてくる。
アメリカの同盟国とは言うものの、そういう扱いを受けていない。
そうした理由が語られていく。
しばし、冷や水を浴びせられるような気がする。

世界は「戦略の7階層」で国益を考えているという。
「戦略の7階層」とは、
・世界観:日本とは何者か、どんな役割があるのか
・政策 :だから、こうしよう
・大戦略:国家の資源をどう使うか
・軍事戦略:今ある軍の力でどう勝つか
・作戦 :いつどこで戦いをするのか
・戦術 :勝つためにどう戦うか
・技術 :戦闘に勝つためにどのような技術を使うか
というものである。

日本に戦略がないのは、ここで言う「世界観」がないからだと言う。
それがなければ、技術があってもダメだという。
「その技術を使って何をするのか」、そういう世界観、政策が必要なのだと。
日本人はアシモを見てただ喜ぶだけだが、欧米人はロボット兵を想像すると言う喩えはなかなか頷かされるものがある。

そんな中で最後に語られる「日本に残された3つの選択肢」はなかなか考えさせられる。
@アメリカとの同盟関係を維持する
A中国の属国になる
B独立

@は簡単だが、いずれアメリカの膨大な負債を押しつけられる。
Aとなれば再び陽の目を見る事はない。
Bが望ましいが、課題は多い。
Bについては、最大の課題が政治力であるとし、インドや北欧との連携が提唱される。
核廃絶に対する取り組みや、その後のとるべき方策が掲げられている。

今は必要はないのだろうが、やはり普段からこういう事は考えておかないといけないのだろうと思う。
それは地震が来てから地震対策を考えても遅いのと同じように、である。
そういう意味では、読むべき価値ある一冊であると言えるだろう・・・



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2013年01月13日

【完全なる経営】A.H.マズロー



マズローと言えば「欲求の5段階説」として有名だ。
高校の倫理社会の授業で習ったものだが、一般にもその説が広く知られている。
本書はその元となった原点とも言える一冊。
ただし、もともときちんと一冊の本になっているわけではないようで、本人による手記をまとめたものになっている。
その他に各界の人に対するインタヴューやコラムが挟まれていたりして、少々混乱する部分がある。

元となった手記は40年近く前のものらしい。
最初に注意書きとして現代では異なる感覚の記述があるとされているが、さっそくそれを目にする。
「真の達成のためには価値あるりっぱな仕事が要求される。くだらない仕事を見事にやりとげたとしても、それを真の達成と呼ぶことはできない」
たしかに、「職業に貴賎はない」という感覚からすると、違和感を覚える。

読み進めていくと、そこここで混乱する。
本人の記述の合間合間に解説が入る部分がある。
本人の手記かと思っていたら解説だったりして、しかもその解説は正しいのかという疑問もあったりする。
もともとが本ではなく、手記の集まりだという制約があるからなのだろうが、混乱するという事は確かである。

本人による記述なのか引用なのかが曖昧ではあるが、いくつか目についたものを上げてみる。
「アイディアは共有すべきもので、盗まれる事を気にして隠してはいけない。
アイディアについて話す過程そのものが想像力を刺激し、一握りのアイディアを何十倍にも増やす事もある」
「強力なリーダーはできるだけ集団で討議する場に顔を出さない方がよい・・・親が優れているというのは、子供にとって必ずしもありがたいことではない」
一貫して主張するのは、やはり自己実現であるが、その他にもこうした頷ける記述も多い。

肝心の欲求の階層説については、今の自分の環境にも当てはまるものだと気がつく。
人間は絶えず不平を鳴らす存在であり、どの職場でも不平はある。
ただその不平の内容が問題で、劣悪な職場環境や待遇などいった「低次の不平」なのか、他者からの尊敬や自尊を求める「高次の不平」なのかであり、低次の不平が満たされればそれは高次の不平へと変化し、どんなに恵まれた状況でも不平不満が解消される事はない。
経営者としては、従業員の不平が続くからといって幻滅する事はなく、「現在の不平が動機付けのレベルが向上した結果生じたものか」を問わねばならないという。
まさに「マズロー」である。

最後には社会改善論も提示されているが、経営管理も広く社会に当てはめて考える事ができるというものだろう。
それによると、「社会は分業で成り立っており、誰もが等しく必要な存在である。お抱え運転手、ごみ収集人、事務員・・・その他ありとあらゆる人間が必要なのである。このことはまた、誰もが自尊心をもって自分の仕事に当たれるということでもある」
先の記述とは矛盾するが、こちらの方がしっくりくる。

混乱部分はあるものの、「欲求5段階説」程度の知識しかなかったところからすれば、より「マズロー」を深く理解できる事は間違いがない。
あらゆる組織の「経営」に関して、改めて実感する部分なども含まれている。
こういう原点に触れてみるのもいいものだと、あらためて思わされた一冊である。



posted by HH at 23:01| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/理論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする