2017年07月06日

【やり抜く力−人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける−】アンジェラ・ダックワース



原題: GRIT The Power of Passion and Perseverance
PART1 「やり抜く力」とは何か?なぜそれが重要なのか?
第1章 「やり抜く力」の秘密
第2章 「才能」では成功できない
第3章 努力と才能の「達成の方程式」
第4章 あなたには「やり抜く力」がどれだけあるか?
第5章 「やり抜く力」は伸ばせる
PART2 「やり抜く力」を内側から伸ばす
第6章 「興味」を結びつける
第7章 成功する「練習」の法則
第8章 「目的」を見出す
第9章 この「希望」が背中を押す
PART3 「やり抜く力」を外側から伸ばす
第10章 「やり抜く力」を伸ばす効果的な方法
第11章 「課外活動」を絶対にすべし
第12章 まわりに「やり抜く力」を伸ばしてもらう
第13章 最後に

 原題にある「GRIT」とは、ここでは「やり抜く力」と訳されているが、元々の意味は「(困難にあってもくじけない)勇気,気概,闘志」ということであるらしい。そしてこの本の主張を一言でまとめるのなら、「成功に必要なのは才能ではなく、やり抜く力」ということ。本書は、そんな「グリット」研究の第一人者による解説である。

 米国陸軍士官学校は通称ウエストポイントと称される米国陸軍の最高峰の士官学校であるが、その狭き門は毎年全国の優秀な生徒14,000人が目指し、わずか1,200名が入学できるレベルなのだという。にもかかわらず、その過酷な訓練で5人に1人は中退するのだという。肉体的・精神的に最も過酷な環境に最後まで耐え抜けるのはどんな人か。調査によれば、それは「ネバー・ギブ・アップ」という態度であったという。

 「やり抜く力」に必要なのは、「情熱」と「粘り強さ」。才能があっても関係ない。しかし、世の中のほとんどの人は、努力よりも才能を上と見てしまう。言われてみれば確かにその通りである。紹介されているニーチェの言葉が興味深い。
 「芸術家の素晴らしい作品を見ても、それがどれほどの努力と鍛錬に裏打ちされているかを見抜ける人はいない。その方が好都合と言っていい。気の遠くなるような努力のたまものだと知ったら感動が薄れるかもしれないから」
なるほどである。

そして示される公式。
「才能」✖︎「努力」=「スキル」
「スキル」✖︎「努力」=「達成」
どちらにも「努力」が入っていることに注目したい。別の言葉では、「情熱とは1つのことに専念すること」と説明されている。いい言葉である。また、とにかくやり抜けばいいというものでもない。目的は重要度を考え、低いものは諦めてもいいが、高いものは安易に妥協すべきではないとする。

 そんなやり抜く力は、ある程度は遺伝の影響らしいが、大事なのは関係する遺伝子は1つではないこと。諦める必要はなさそうである。そして環境。1人が賢くなると、まわりも賢くなっていく。バスケが上手くなるコツは、自分よりややスキルの高い仲間と一緒にプレーすることだという。環境が変われば変わるし、また必要に迫られても変わる。

 やり抜く力の4つの特徴は、「興味」「練習」「目的」「希望」。やり抜く力の強い者は、他の者より練習時間が長い。時間だけでなく、「高い目標設定」「集中と努力」「改善と反復」も重要なファクターだとする。そんなやり抜く力を自分が身につけるのも大事だが、子供のやり抜く力はどう育てればいいのだろうか。そんな疑問が親としては当然思うが、それにも答えは用意されている。

・最後までやる習慣をつけさせる
・厳しくしつつも温かく支える
・自分で決められる感覚を持たせる
・親が愛情深くどっしりと構えている
それぞれ具体的に説明されているので大変参考になる。しかし、最も大事なのは次の考え方。
「自分が人生の目標に対してどれくらいの情熱と粘り強さを持って取り組んでいるか。子供が自分を手本にしたくなるような育て方をしていると思うか」
思わず考えさせられてしまう。

 何事も大事なのは才能ではなく、「やり抜く力」だとする考え方は、自分が凡人だと思っている身には救いとなる。同時に言い訳もできなくなる。「やれるかやれないか」ではなく、「やるかやらないか」。希望を持って物事に取り組みたいと思う。
 実に勇気の湧いてくる一冊である・・・

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2017年06月15日

【一言力】川上徹也



第1章 要約力
第2章 断言力
第3章 発問力
第4章 短答力
第5章 命名力
第6章 比喩力
第7章 旗印力

著者はコピーライター。タイトルの「一言力」について、著者は「短く本質をえぐる言葉で表現する能力」と定義する。一言主という「良いことも悪いこともすべて『一言』で言い表す神様」の話など紹介し、いかにもコピーライターらしい話なのだと思わせてくれる。そんな一言で本質を言い表すのに必要な能力を著者は7つ提示する。それが各章になっている。

最初の『要約力』は、文字通り短くまとめる能力。「言葉メタボ」「言葉のダイエット」などの言葉は早速ながら面白いと思う。このうち「具体的要約」について、ヤフートピックを紹介してくれる。ニュースを13字で要約しているヤフーのトップページでおなじみのやつである。例えば桃太郎の物語を13字で要約する。
「桃太郎、仲間と鬼退治に成功」
なかなか見事である。

これを「抽象的要約」にすると、
「少年が仲間と旅立ち何かを得る」
とする。そしてこれは商品企画などに応用できるとする。なるほど、である。この要約力を鍛えると得られるものは、
・仕事において何が重要かわかる
・上司や得意先の求めているポイントが何かわかる
・仕事をどのように進めて行くのが効率的かわかる
とする。話し言葉を15秒で要約する習慣をつけるというのも参考になる。

『断言力』は、
「会議を始めたいと思います」→「会議を始めます」のようにすること。「断言はサービス」という考え方が新鮮である。断言することはリスクを負うこと、リスクを負って断言するからこそアドバイスする意味があるというのは、納得である。
『発問力』は問い掛け。意見が対立した時や思いが伝わらない時、一言で視点やその場の空気を変えることができるとしているが、これは自分の経験からもよくわかる。スピーチの冒頭を質問で始めるのもツカミとしては有効だという。

『短答力』は、受けの妙。その面白さは、「視点が面白い」「表見が面白い」に分けられる。これが身につくと、かなり強力だ。ネーミングでは、3つのS(ショート、シンプル、ストレート)が大事だとする。
『比喩力』は、「距離が遠いものの中に共有点を見つけることが、第一歩。
『旗印力』で問われる「刺さるスローガン」は、「短く」「優しく」「覚えやすい言葉で」が基本だとする。

さすが普段から考え、鍛えているだけにためになる。読んだだけではすぐに身につくものではないが、やはり普段からの心がけが大事だろう。こういう本を手に取ったということは、すなわちこういうことに興味があること。「余計な一言」は得意だが、「相手を唸らせる一言」をこれからはぜひ身につけたい。そのためにも、ここに書かれている基本は意識してみたいと思う。そんな興味深い一冊である・・・


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2017年06月14日

【なぜあなたの仕事は終わらないのか】中島聡



1. なぜ、あなたの仕事は終わらないのか
2. 時間を制する者は、世界を制す
3. 「ロケットスタート時間術」はこうして生み出された
4. 今すぐ実践 ロケットスタート時間術
5. ロケットスタート時間術を自分のものにする
6. 時間を制する者は、人生を制す

著者は、もともとプログラマーとしてマイクロソフトでWindows95の開発に携わり、ドラッグ&ドロップ、右クリックの概念を現在の形にした人物であるという。現在は、起業した会社の経営をしつつ、『Life is beautiful』というブログをやっているブロガーでもあるらしい。マイクロソフトを退社する時には、CEOのスティーブ・バルマーが慰留に来たというし、ベンチャー・キャピタルが150万ドル出資してくれるほどであったというから、相当な方のようである。

そんな著者が語る時間術。まずはダメな例として、「ラストスパート志向」の人が紹介される。著者の部下にいたらしいが、これは文字通り締め切り間際になって徹夜をしたりしてラストスパートで仕事を終わらせようとするタイプで、著者の部下以外にも一般的なような気がする。原因は、最初の見積もりで、テストで言えば後半の難しい応用問題を甘く見て、最初の簡単な問題をのんびりやるからだと言う。この例えはわかりやすい。試験対策としては、最初に全体を見ての時間配分であることは経験上わかっているから、なお分かりやすい。

上司の指示も問題になると言う。「なるはや病」なるものが紹介される。これは「なるべく早くやってくれ」と言う時間の期限が曖昧な指示。著者は「なんの根拠もないただの形式的なもの」と言うが、ここは疑問に思う。「なるはや」の指示を出す立場としては、部下の手元の仕事量を慮るからだ。「早くやってほしいけど、急ぎの仕事があるならそれを優先して良い」と言う意味で、これはこれで立派な根拠がある。

一方、ミズーリ州の病院の例が印象に残る。手術の予定が常に狂うのが日常で、これを改善するには@医師の残業を増やすA手術室を増やすかと考えられるところだが、この病院は「手術室を常に1つ開けておく」という解決策をとってうまくいったという。スラックと呼ばれるたるみ、つまりバッファーであるが、それを持つことによって改善したということは、個人的に感じた大きなヒントである。

仕事が終わらない理由は、@安請け合いしてしまうAギリギリまでやらないB計画の見積もりをしないであるとする。そして、著者は自身の経験をもとに、プロトタイプを作る効果を再三強調する。多少のバグを無視してとりあえず大枠を作る。Windows95は、発売当時3,500のバグがあったという。待ち合わせの30分前にスタバでコーヒーを飲むという著者のスタンスも大事だろう。

著者はさらにこの本で、「ロケットスタート時間術」なるものを提唱する。
・まずは時間は絶対に守るものと考える
・最初の2日間でほぼ完成まで持っていく
というのがその考え方で、余裕がある(最初に)全力疾走し、締め切りが近づいたら流すという。早く仕上げても次の仕事を振られるので、忙しくなるだけという説明には苦笑してしまう。ちょっと心が軽くなる。

時間術もさることながら、著者の考え方も参考になる。
・仕事は頼まれなくても自分から喜んで残業するほど楽しいかどうかで選ぶべき
・やりたい仕事があったら上司に頼む前にまずやってみる
・今やっている仕事の中で、本当にやりたい仕事につながる共通点を見つけ出す
・「無理だ」という人の多くが、実はそのことについて実際にはほとんど何も調べていないし、考えてもいない
・自分がやりたいことが何なのかわからない人は先人に聞く

「好きなことをやる」ということは、あちこちでいろいろな人が主張している。それを否定するつもりはないが、なかなか難しいと思う。それよりも今やっていることを好きになる方が早い気もする。自分に当てはめてみると、そう思うのである。
「時間術」というよりも、仕事のやり方全般についての著者なりの経験に基づく話と理解したい一冊。昼寝は18分が良いというところも参考になる。
それなりの実績のある人の話はやはり為になると改めて思う一冊である・・・




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2017年05月17日

【レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い? 特許・知財の最新常識】新井信昭



はじめに 「知財」は本当に、あなたに関係ないものですか?
第1章 特許出願は「アイデアを盗んでください」と、全世界に宣言すること
第2章 アイデアは、「見せない、出さない、話さない」
第3章 知財の法廷に、大岡越前はいない
第4章 アイデアの「現場」に魔の手が迫る
第5章 「知財コミュニケーション力」と言う武器
第6章 アイデアの「絶対領域」で勝利をつかめ!

 著者は知財コミュニケーション研究所の代表を務め、自ら「知財コミュニケーター」と称する知財の専門家。そんな著者が、意外に知られていない特許の現実と特許との付き合い方を伝授した一冊である。普段、なんとなくのイメージで捉えている特許であるが、実情を知っておくのも何かの役に立つと思って手にした一冊である。

 まず「知的財産とは」という解説から入る。それは、「お金を儲けるために人間が考えたアイデア」とする。そして特許は、それを保護する手法であるが、そこに大いなる誤解があると言うのがその主張。タイトルには、サントリーの伊右衛門とコカ・コーラという二つのブランド飲料が採り上げられているが、これはその特許戦略の違いの代表例としてである。すなわち、伊右衛門は特許を取得していて、コカ・コーラは特許を取得していないのである。

 特許とは、「知財に着せた透明な防護服」と著者は言う。それはすなわち、特許を申請すれば、特許公報に掲載されその内容は全世界に公表されることを表 している。「アイデアに国境はないが、特許には国境がある」と言う言葉は衝撃的である。「技術は外から手に入れてくる」が国際ルールで、事実、ハイアールなどは日米欧の特許公報を調べ上げ、それが自国で特許申請されていないことを良いことに、自社技術として取り入れているのだと言う。

 自国内で特許を取ったとしても、中国ではそれが自由に使えると言うことで、それで自社の金型技術が流出し、注文もすべて中国に持っていかれたメーカーの事例が採り上げられている。特許は、申請するのに30〜50万円の費用がかかり、さらに維持するのに5〜10万円の費用がかかるというのも、知られざる事実。その上、世界中で申請しておかないと本当の意味で、知財防衛にはならないと言うのは、ショッキングな事実である。

 コカ・コーラはそれゆえに特許を取らず、厳格に秘密保持をしているとのことである。
では、特許は取らない方が良いのか?
それについて、著者は出願を見極めるポイントを挙げる。
1. その特許が現在または将来の自分のビジネスに役立つかどうか
2. 自分のアイデアをもとに作られた製品を見ただけで他者がそのアイデアを真似できるかどうか
3. 自分のアイデアをパクった者が現れた時、裁判で戦う覚悟と勇気と費用があるかどうか

 さらに最も大事なことは、「特許を取りたい理由」だと言う。そうなのだろうと思う。著者は、アイデアを守るための原則は、「見せない、出さない、話さない」ことだとする。言われてみればごもっとも。そして、技術を有する会社の社長なら自ら、あるいは社員に知財検定3級の取得を勧める。特許を取れば良いと盲目的に考えるのではなく、公開してでも特許を取るか、特許を取らずに秘匿するかの「オープンクローズ戦略」の重要性を説く。

 具体的な事例も取り上げられていて、実にわかりやすい。残念ながら私の勤める中小企業は技術とは無関係。特許など無縁の世界ではあるが、こうした事実を知っておくのも何かの肥やしだと思う。知っておいて損はないところである。世の中、こうした事例は他にもあるかもしれない。盲目的にイメージで捉えるのではなく、関係あるものならしっかりと認識したいと思う。雑学にしておくのは、ちょっと勿体無い。技術系の仕事の人なら、一読しておくべき一冊である・・・




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2017年03月22日

【「言葉にできる」は武器になる。】梅田悟司



「内なる言葉」と向き合う
正しく考えを深める「思考サイクル」
プロが行う「言葉にするプロセス」

著者は電通のコピーライターとのこと。著者の作品である「世界は誰かの仕事で出来ている(ジョージア)」、「この国を、支えるひとを支えたい(同)」、「その経験は味方だ(タウンワーク)」などは、私も目にしたことがある。そんな言葉のプロが言葉について語った一冊。私もブログをやったりしており、興味をそそられたところである・・・

まずちょっとした衝撃だったのが、
「言葉が意見を伝える道具なら、まず意見を育てる必要がある」
という言葉。考えてみれば当然ではあるが、どうしても「うまく喋ろう」「うまく書こう」とすると、表面的な言葉のみにとらわれてしまうところがある。伝わる言葉を生み出すためには、自分の意見を育てるプロセスこそ重要であり、その役割を言葉が担っているという説明は説得力が高い。

さらに「言葉は思考の上澄みに過ぎない」と著者は語る。言葉には、「外に向かう言葉」と「内なる言葉」の2種類があって、自分の頭の中に生まれている「内なる言葉」に「幅や奥行きを持たせる」=「よく考える」ことが必要だとする。確かに、言われてみれば「うまく喋ろう」「うまく書こう」とする時は、どうしても「外に向かう言葉」をあれこれ駆使するイメージを持ちがちだが、中身がなければそれもむなしい努力だろうと思う。

さらに「伝わる」と(人を)「動かす」とを考えると、その間には「志」があるという。志を共有していれば人は「動きたくなる」。それを著者はサン・テグジュペリの言葉を使って説明する。
「船を造りたいのなら男どもを森に集めたり、仕事を割り振って命令したりする必要はない。代わりに広大で無限な海の存在を説けばいい」
要は「内なる言葉」に意識を向け続ける習慣こそが重要なのである。

「幅と奥行きを広げる」と言っても簡単ではない。それに必要なのは下記の7つ。
1. 頭にあることを書き出す:とにかく書く、頭が空になると考える余裕が生まれる
2. T字型思考法で考えを進める:「なぜ」「それで」「本当に」を繰り返す
3. 同じ仲間(言葉)を分類する
4. 足りない箇所に気付き、埋める:MECE
5. 時間を置いてきちんと寝かせる
6. 真逆を考える
7. 違う視点から考える:複眼思考

後半は具体的なトレーニング方法となる。思いを言葉にする手法として2つの戦略があって、「言葉の方を知る」ことと「言葉を生み出す心構え」をすることだとする。言葉の型は下記の通り。
1. たった一人に伝われば良い:ターゲッティング、「あなたに」「伝えたい」「ことがある」
2. 常套句を排除する:相手と二人の間での言葉にする
3. 一文字でも減らす:削ることで言いたいことを際立たせる
4. きちんと書いて口にする:リズム
5. 動詞にこだわる:躍動感
6. 新しい文脈をつくる:意味の発明
7. 似て非なる言葉を区別する:意味の解像度を上げる

「時間を置いてきちんと寝かせる」とか「一文字でも減らす」などは、先日読んだ『書く力』にも同様の記載があった。やはり真実なのだろうと実感を持って思うところである。自分の興味を持っているところでもあるし、一読してすぐに身につくというものでもないが、これから心掛けていきたいというヒントになった。

確かに「言葉にできる」は武器になると思う一冊である・・・



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2017年02月22日

【アリさんとキリギリス−持たない・非計画・従わない時代−】細谷功



第1章 キリギリスの復権
第2章 ストックとフロー
第3章 閉じた系と開いた系
第4章 二次元と三次元
第5章 川下と川上
第6章 アリとキリギリスの共存は可能か

 著者は、ビジネスコンサルタント。この著者の本は、以前【地頭力を鍛える 問題解決に活かす『フェルミ推定』】を読んだことがある。すっかり忘れていたが、なかなか面白い本であった。この本は、「思考やそのベースとなる価値観との対立構造」について、「新と旧」、「保守と革新」、「自由と規律」、「新参者とエスタブリッシュメント」という対立構造の根底に潜む価値観とその要因を「アリとキリギリス」に例えることで探る本と説明されている。

 「人があるべき論や善悪を語るときには、知らないうちに自分が育った環境や価値観を引きずりそれが唯一絶対のものだと思いがち」という指摘は、実生活でもすごく実感している。その通りである。著者は、これについて、「あるのは善悪ではなく、前提となる価値観の違いだけ」とする。価値観の違う世界で、別の価値観を表現してしまうことを吉幾三の歌の歌詞に例え、「銀座で山を買う」と表現する。
・創造性の教育のために効率的で画一的な方法を考える
・新規事業の意思決定のために過去のデータと事例を使った説明を求める
といった具体例が挙げられるので、分かりやすい。

 有名なイソップ童話の「アリとキリギリス」では、「アリを見習うべし」とされているが、本書では「違いを理解すべし」とし、あくまでもアリとキリギリスは並列で良し悪しではないとされる。しかし、一方で現代はキリギリスが活躍できる時代とする。そういう変化が9例ほど挙げられるが、中でも個人的には「知識から思考へ」というところに重きを置きたいと思う。AIの進化はますますこの傾向に拍車をかけるだろう。

 アリとキリギリスの違いは大きく分けて次の3点。
1. 貯めるアリと使うキリギリス(ストック重視かフロー重視か)
2. 巣があるアリと巣がないキリギリス(内と外、集団思考か個人思考か)
3. 二次元のアリと三次元のキリギリス(次元とは行動の自由、アリは制約の中で最善を尽くそうとし、キリギリスは制約を変えてしまおうとする)

 具体的な例だとはっきりわかる。ストックとフローでは、
1. アリはお金を貯めてから使おうとし、キリギリスは使えばそれによって入ってくると考える。
2. 知識のアリ、思考のキリギリス
3. 過去を見るアリ(前例思考、前例がないからやらない)、未来を見るキリギリス(前例がないからやる)

 内と外では、アリはチームワークを得意とするが、キリギリスは個人プレーである。一見、チームワークが勝るように思えるが、仲間意識はセクショナリズムと表裏一体という指摘は、その弱点を示す。確かに、見方は様々である。「仕事」と「遊び」についてもしかり。アリはワークライフバランスとして分けて考えるが、キリギリスはワークとライフはそもそも表裏一体と考える。

 自分はどちらのタイプだろうかと、自然と例を見ながら考えている。どちらかといえば、自分はキリギリスタイプである。「規則は絶対ではなく、見直しも選択肢の一つ」だし、「選択肢を与えられるよりも自分で作り出す」方だ。だが、どちらのタイプかと決めるのも無益であるとする。例えば起業家は、会社を立ち上げるまではキリギリスであることが求められるが、会社を成長させ規模を大きくしていく際にはアリの要素がいるとしており、一人の中でも変化があるとする。自分はどちらだということに意味はないのであろう。

 なかなかこれも面白い本である。相手のタイプがわかると、対応も変わってくるかもしれない。自分がキリギリスで、相手がアリであればその反応も納得できる。腹も立たずに冷静に対応策を考えられるかもしれない。著者の言うように、どちらが優れていると考えるのではなく、違いを理解すると言うところがミソなのだろう。
今後のコミュニケーションに参考になりそうな一冊である・・・



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2017年02月21日

【自分の時間を取り戻そう−ゆとりも成功も手に入れられるたった1つの考え方−】ちきりん



序 「忙しすぎる」人たち
1 高生産シフトの衝撃
2 よくある誤解
3 どんな仕事がなくなるの?
4 インプットを理解する 希少資源に敏感になろう
5 アウトプットを理解する 欲しいモノを明確にしよう
6 生産性の高め方@ まずは働く時間を減らそう
7 生産性の高め方A 全部やる必要はありません
8 高生産性社会に生きる意味
終 それぞれの新しい人生

 ブログを始めとして、この人の意見には傾聴する価値が大きいと思い、その著作には注意を払っているが、そんな中でまた手にした一冊。この本は、著者曰く、「今後の社会を生きていくために、そして人生を楽しむために私たち全員が身につけるべき根幹の能力とは何なのか」をテーマとするもので、『自分の頭で考えよう』『マーケット感覚を身につけよう』に続く第3弾なのだという。特に『マーケット感覚を身につけよう』は、私にとって衝撃的とも言える内容だったので、大いに期待して手にした次第。


 冒頭、4つのタイプの人物が登場する。
部下を持ったばかりの「デキる男正樹」、妻と母との両立に「頑張る女ケイコ」、何とか現状を変えようとして「休めない女陽子」、成功の裏で「焦る起業家勇二」。
それぞれが悪戦苦闘する姿が描かれるが、どのタイプも至る所にいそうなタイプである。そこから、「忙しすぎる」という問題について切り込んでいく。

 この背景には、
1 長い時間働くことによって問題を解決しようとしている
2 すべてのことを「やるべきこと」と考え、全部やろうとしている
3 何もかも完璧にやろうとしている
4 不安感が強すぎてNoと言えなくなっている
5 とにかく頑張るという思考停止モードに入ってしまっている
と分析する。そしてその本質的な問題として「生産性が低すぎる」ことを挙げる。この「生産性」がこの本のキーワードである。

 例えば著者は、タクシー業界を差し、「ものすごい数のタクシーが空のまま走っている」ことを、「何という生産性の低いビジネス」と語る。言われてみればその通りだが、そういう視点は持ったことがなかったので、実に刺激的である。最近登場したUberは、無駄な時間が発生しないとするが、これから社会の高生産性化は不可避で、生産性の高いものが残り低いものが淘汰されていくだろうとする。

 グーグルやアマゾンが税金を回避していて問題になっているが、「グーグルが1,000億円を自分たちで人工知能やゲノム解析や自動運転の研究開発に使うのと、アメリカ政府に納税して無人攻撃機や爆弾代として使われたり、日本政府に納めて地方再生の資金としてバラまかれたりすることを比べたら、お金という資源の生産性はどちらが高いか」という著者の問いには深く考えさせられる。

 江戸時代は国民の9割(数千万人)が農民だったが、しょっちゅう飢饉が発生していた。現代は農業従事者は200万人だが、米の自給率は100%を維持しているとして、それが「生産性の向上」だと説明する。将来はさらに20万人でまかなえるとするが、ドローンで農薬を散布してなどという説明をされると、さもありなんと思えてくる。

 さらに衝撃的なのは、「生産性がゼロ以下の人たちは働かないでベーシックインカムをもらって暮らせるようにする」という考え方。ベーシックインカムとは、生活保護みたいに支給される現金であるが、これを福祉としてではなく、「生産性向上への反対論者に邪魔をされたくないから」という考え方から著者は主張する。こういう考え方は、私には出てこない。

 さらに、一例としてあるガン患者に対しなかなか治療の成果が出ない中、IBMのAIであるワトソンに遺伝子情報を読ませたところ、ワトソンはわずか10分で診断を下し、抗がん剤の変更を提案し効果を得たことを挙げ、これからの社会の変化を示唆する。電子書籍の登場によって、「紙の本」という言葉が使われるようになってきたが、今後は「人間の医師」「人間の薬剤師」という風になっていくとする。

 高生産性社会になっていく中、我々は何をすべきだろうかと必然的に考える。「働く時間を増やすのは暴挙」とするが、この本を読めばそれはよくわかる。「一人で全部やれ」思想はすでに自分は脱している。「すべて完璧にやる」も同様。それにとどまらず、いろいろと考えてみようと自然と思う。すべての人が豊かな生活を手に入れるためにも、社会の高生産性シフトは福祉よりも重要とする著者の主張もその通りだと思う。そんな働き方を(すでに半分くらいはできているつもりだが)、さらに心掛けていこうと思う。

 またしても、刺激と学びの多い一冊である・・・

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2017年01月28日

【Q思考】ウォーレン・バーガー



原題 : A More Beautiful Question
Introduction 「美しい質問」だけが美しい思考を生む
第1章 「Q」で思考にブレイクスルーを起こす-次々と問いを重ねる思考法
第2章 子どものように「なぜ」と問い続ける-質問し続けるアタマをつくる
第3章 「美しい質問」を自分のものにする-Q思考の「3ステップ」をマスターする
第4章 ビジネスに「より美しい質問」を与えよ-あなたの仕事を劇的に変える「Q」
第5章 「無知」を耕せ-問いであらゆる可能性を掘り起こす

 これまでにも例えば『パワー・クエスチョン』などのように、良い質問が問題解決につながるといった趣旨の本を何冊か読んできている。もう語り尽くされてきた感があるが、さらにまた同様の本かと思うとちょっと違う。原題は“A More Beautiful Question”、「美しい」というフレーズがなぜか気に入った本である。

 まずこの本で強調するのは、「思考」。「美しい質問だけが美しい思考を生む」としている。「良き質問が問題解決につながる」といった従来の本とはちょっと違う。世の中のルールを変えるほどの偉業を成し遂げた人たちの共通点は、「疑問を抱き質問をすることが抜群にうまい」ということだとする。アイデアは常に疑問から生まれ、質問によって脳にも負荷がかかるのだとする。

 そんな質問する能力をどうしたら伸ばせるのか。著者は3つのアプローチを説く。
「なぜ」
「もし〜だったら」
「どうすれば?」
これまでの「質問本」では、どうしたら的確な問いができるのかという問題があったが、この本ではそのヒントがふんだんに溢れている。

・自分で行動しなければ、疑問はボヤキになる
・正しい問いは「洗練された思考」になる
・イノベーションとは時間をかければ答えられそうな新しい疑問を見つけ作り出そうという行為のこと
具体的な問いとその成果たる企業の事例も数多く紹介されている。
・なぜこんな延滞料金を払わなければならないのか→ネットフリックス
・なぜ写真ができるまでこんなに待たないといけないのか→ポラロイド
・アニメはもっとかわいくできるのではないか→ピクサー

 まずは目の前にある問題を質問の形で明瞭にしてこれを認識し、系統立てて考え工夫する、そして文脈を掴んでいくとする。
Q(question)+A(action)=I(innovation)
Q(question)-A(action)=F(filosophy)
という公式は、なるほどである。

 小さい子供は、数多くの質問を口にする。だが、小学校に入り中高と進むにつれ、質問は減っていく。もちろんそれだけ多くの知識を得ているということもあるだろうが、それ以上に「こういうものだ」と教えられることにある。知識は押し付けても身にならないと著者は言う。確かにその通りである。

鋭い「なぜ」を生み出すには、「一歩後ろに下がる」、「知っていることをやめ不思議がる」ことが必要だと言う。デジャヴならぬ「ヴジャデ(自分がよく知っているものを見ている時に突然それを新鮮に感じてしまうこと)レンズ」で眺める訓練をすると新しい可能性が広がると言う。トヨタに習って「5なぜの法則」も効果的だとする。

そのほか、
・既存のアイデアからスマートな再結合わする
・他人に話してみる
・描いてみる
・人に見せる
・否定的意見を最大限利用する
といったことも効果的。

ビジネスにより美しい質問を与えるには、
・存在理由を問うところから始める
・定期的に「過去の理想」を振り返る
・誰がどのように使い、何を求めているかを知る
・今残っている「不都合」を解決する
・自分たちは何をしているのかを掘り下げる
ことがヒントになるとする。

 より美しい質問はどうしたらできるようになるのか、そのヒントも数多く記載されている。それらを一つ一つ自分の身の回りのものに当てはめていけば、かなり思考力は磨かれるのかもしれない。そんなヒントにあふれた一冊である・・・

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2017年01月09日

【心を動かす話し方】堀紘一



第1章 話の中身を決める4要素
第2章 話上手は聞き上手
第3章 話し上手は“本質論者”
第4章 シーン別の効果的な伝え方
第5章 日本人と外国人を惹きつける話し方の違い
第6章 「話が上手い」と感心される人

著者は、元BCGの社長であり、現在はベンチャー企業支援、大企業の戦略策定・実行支援をするドリームインキュベーターの社長を務める人物。ビジネスマンならその名を聞いたことがないという人はいないであろう。実は、著者は本の虫であるらしく、本を読んだりしてインプットした情報をいかにアウトプットするかという話し方をテーマとしたのがこの本である。

まずは話は中身が大切というごく当たり前のような内容から。ここでは知識と関心のある・なしにより4つのマトリックスで考え、その中で、「相手が知らない話」と「相手が関心のある話」の組み合わせが一番相手に伝わるとする。さらに「相手が知らない話」は全体の4割までにするのだという。一度に多くの情報を伝えようとすると相手に理解できない部分が増え消化不良が生じるという。

著者は公演の機会が多いらしく、公演向きの話やコンサルタントらしくプレゼン向きの話も多い。
・話は13分以内にまとめ、それ以上の場合は「だれ場」を適宜入れる
・プレゼンは起承転結ではなく、転結起承とする
・プレゼンシートは3枚以内

また、思わず納得してしまう話も多い。
・口下手は聞く耳を持たないタイプが多い
・説得するのではなく納得してもらう
・本質にはだれもが耳を傾ける
・どうしても説得したいのなら目力
・意見をストレートに伝え過ぎない
・ホウレンソウができるのは仕事ができる人

人はだれしも人見知りという意見は、自称人見知りの私には意外な気もする。人見知りをみんなそれぞれのやり方でなんとか克服しながら努力を重ねてコミュニケーションを取り合っているというが、なるほどそれだと少し気持ちも楽になる。著者もそんな部分があるのだろうかと思うと、少し希望が出てくるところである。

また、人生とはやりたいことを探す旅だと言う。人生の後半になってやっと進むべき道が見つかるケースもあって、若いうちから「やりたいことがない」「将来が見えない」と焦らなくてもいいと語る。このあたりは話し方ではなく、人生訓である。子供達にも教えてあげたいことである。

すべてがなるほどと思う部分ばかりでなく、またちょっと「上から目線」的な語り口が引っかかるところもある。「話し方」と言っても単なるテクニック本と言うわけでもない。それなりの経験を積んできた人の言葉なので、学ぶべき点は多々ある。そうした学ぶべき点を素直に学びたいと思わされる一冊である・・・


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2016年11月03日

【アテンション】ベン・パー



原題:Captivology:The Science of Capturing People’s Attention
第1章 注目の三段階
第2章 自動トリガー
第3章 フレーミング・トリガー
第4章 破壊トリガー
第5章 報酬トリガー
第6章 評判トリガー
第7章 ミステリー・トリガー
第8章 承認トリガー

 著者はシリコンバレーの戦略ベンチャーの共同創業者とのこと。「長期の注目獲得」に関する知見と経験を生かしたコンサルティングをされているようで、それを披露しているのが本書だということである。

 現代は情報発信過多時代であり、その中で、「注目」は希少資源だという。注目は偉大な製品や発想を「世界を変える」ものに変え、才能に恵まれたバンドを「ビートルズ」にするとする。そんな注目をどうすれば得られるか。そのキーは、「注目の三段階」と「七つのトリガー」だという。

 「注目の三段階」とは、「即時の注目=点火」、「短期の注目=藁火」、「長期の注目=焚火」である。大事なのは、いかに長期の注目=焚火を得るかということ。目立つ型破りなことで反応=点火を得、メッセージを作業記憶に振り向け、そして価値あるものを作り出し長期的な注目を獲得するまで持っていくことが重要となる。なんとなく分かりにくいが、「投票用紙の先頭にある候補者は当選しやすい」という例が示され、興味深く分かりやすい。

 そしてそんな注目を得るためのトリガーが、七つあるとする。「自動トリガー」、「フレーミング・トリガー」、「破壊トリガー」、「報酬トリガー」、「評判トリガー」、「ミステリー・トリガー」、「承認トリガー」である。 「自動トリガー」はその名の通り、無意識のうちに注意を向ける傾向を利用するもの。

 人間は太古より安全と生存に関わる光景や音などの感覚的手がかりというものを備えている。ライオンとシマウマとを見れば、自然とライオンに目がいくのは、ライオンが危険な動物だから。例えば女性のヒッチハイカーなら赤い色の服をきていると止まってもらいやすいとか、襲われた時には、「助けて!」よりも「火事!」の方が人を集めやすいとか。各種実験結果から得られる考察が興味深い。

 「破壊トリガー」は、「驚き=surprise」「単純性=simple」「重要性=significance」という三つのSがキーだとする。子供達に統計学を教えるに際し、教室で授業をするのではなく、フィンガーペイントを塗って個々人のジャンプ力を調べることから、統計を実地で教える例が説明されるが、「驚き」は確かに注目を集める要素だと思う。

 JKローリングが偽名で発表した小説が、当初はまったく注目されず、その事実がわかった途端。売り上げが4709位から1位に跳ね上がったという。「人気があると他の人が思っているものが人気がある」とする「評判トリガー」もなるほどである。「ミステリー・トリガー」は、「サスペンス」「感情移入」「予期せぬ展開」「クリフハンガー」という4つの要素からなる。ドラマがハラハラしたところで終わる「クリフハンガー」理論は、よく使われている。

 こうした「注目」は、何気なく使われているが、著者は豊富な事例とともにそれを分かりやすく分類してくれている。日本の事例も「スーパーマリオ」「VHSとベータ競争」「AKB48」などが採り上げられていて、よく研究しているものだと思わされる。何か人々の注目を集めようと考えた時には、これらの理論に基づいて考えてみるといいように思う。

 何かの機会にメモしておきたいと思う一冊である・・・


posted by HH at 18:16| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/自説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする