2015年10月20日

【カラマーゾフの兄弟】ドストエフスキー



学生時代、いわゆる文学作品を読んだものである。
日本の文豪や海外ではヘミングウェイやブロンテ、セルバンテスやディケンズなどなどである。
ドストエフスキーもその一人で、『罪と罰』も読んで印象深く残っている。
それでも読み漏れたものは数多くあり、暇を見つけては読みたいと思っているが、そうして今回手に取ったのが、「ドストエフスキーの最高傑作」と言われているこの本である。

「兄弟」とあるように、物語の中心となるのはカラマーゾフ家の3人の兄弟。
ドミトリィ、イワン、そして末弟のアレクセイ。
父フョードルは地主であり、長男のドミトリィとの関係はどうもしっくりとこない。
財産の問題や、グルーシェニカという女性を巡って対立しているのである。
金と女という二大欲で対立しているところに、この親子の根本的な問題がある。
それにしても、金はともかく、女を巡って父子で対立というのも、いかがなものかと思わざるをえない。

次男のイワンは中立的だが、どうも心を病んでいるところがある。
事実、物語の終盤ではそれが明らかになる。
一番まともな末弟のアレクセイは修道僧で、そこがこの問題ある一家の唯一の救いかもしれない。
ドミトリィは、一方でカテリーナという婚約者がいる。
カテリーナは、ドミトリィを見限りつつもまだ未練もあるような様子で、にもかかわらずイワンにも接近する。
アレクセイは、敬愛する修道院の長老ゾシマの具合が悪く、家族と修道院とで心配を抱える。

カラマーゾフ家には、スメルジャコフという使用人がいる。
母親は気がふれた乞食で、父親はフョードルだという噂もあり、カラマーゾフ家は物語に相応しい混沌に溢れかえっている。
登場人物が多様で、それに合わせたサイドストーリーも実に複雑な気がする。
そんな中で、父と長男の対立を中心に物語は進んでいく。

物語は、上・中・下と3巻に分かれる大作。
長いのは苦にならないものの、物語は会話で構成され、そしてこの会話が実に冗長。
シェイクスピアもそうであったが、この物語も同様である。
そしてこの会話が回りくどくて読んでいて疲れてしまう。
「ドストエフスキーの最高傑作」と期待していたものの、読んでいて苦痛を感じてしまったのは事実である。

最高傑作であることや評価が高いことは否定するつもりはないものの、正直言って期待したほどではなかったと言える。
個人的に書評家でもないし、所詮素人だし、大作家の傑作の良さなどわかる訳もない。
素人一人が批判したところで、どうということもあるまい。
恐れずに言えば、子供達に勧めたい本だとは思わない。
「罪と罰」には感じるところは多かったが、この作品はイマイチであった。

これはこれ。
次はトルストイにいきたいと思う。

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2014年04月26日

【64】横山秀夫



著者は、刑事モノが得意というイメージのある横山秀夫。
「真相」、「震度0」などの著作を過去に読んだ事があるが、これはその最新作。
舞台は「震度0」と同じく地方の警察署。
主人公は、その中の広報官である。

警察官が主人公となると、「事件を捜査し、犯人を検挙する」というイメージを持つが、広報官はマスコミが相手。
事件を捜査する刑事部と、広報など後方部門を担当する警務部との対立が背景として描かれる。
外部からは窺い知れない警察内部での対立。
前半は、そんな“裏事情”が語られていく。

主人公の三上は、もともとは刑事として腕を振るったが、異動で広報官に任命される。
本人は、刑事部に未練がある。
広報官はマスコミ発表などの際に、警察の代表として全面に出る。
しかし、「すべて知りたいマスコミ」と「教えたくない警察」とでは、利害が対立する。
刑事部も情報提供を惜しむ。
そんな中で、三上は現状を打破すべく、開かれた広報の確立に励んでいる。

家庭では一人娘が家出し、警察官の娘として全国の警察に捜査をしてもらっているが、それが弱みとなって、キャリアの上司に強く意見を言えないでいる。
そして発生したひき逃げ事件。
加害者の名前を公表するか否かで、三上は己の信念と上司の指示とが相反し、地元マスコミとの不本意な対立を招く。

そんな中で、昭和64年に地元で発生した少女誘拐殺人事件、警察内部での符牒「64(ロクヨン)」の激励を兼ねて、長官の視察が発表となる。
長官のぶら下がり取材を手配する様命じられる三上だが、地元マスコミはひき逃げ事件の匿名問題を巡って取材ボイコットを宣言する。
窮地に立たされる三上・・・

普通の警察小説とは、だいぶ雰囲気が違う。
本庁と所轄の対立は、あちこちで語られているが、ここではさらに刑事部と警務部との対立も描かれる。
そして後半のクライマックスでは、やっぱり刑事モノらしく“事件”が起きる。

初めは毛色の違う刑事モノとして読んでいたが、後半は手に汗握る展開。
二転三転するストーリー。
前半に散りばめられたピースが一つ一つ組み合わされていく展開に、一気に引き込まれてしまう。
後半は、「やめられない止まらない」状態となる。

作家は、つくづくよく考えると思う。
今までの警察小説とは異なるものの、本質を押さえた上で別の魅力を引き出している。
本好きの友人たちに勧めている一冊である・・・


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2012年11月24日

【運命の人@ABC】山崎豊子





読もう読もうと思いつつ、随分日が経ってしまったが、山崎豊子の本を久しぶりに手に取った。
前回は『沈まぬ太陽』を読んだが、これはそれ以来である。
『沈まぬ太陽』もそうであったが、この本も実在の事件をベースにしている。
山崎豊子の本は、そういう実在の事件をベースにしたところが面白いと個人的には思うところである。

その事件とは、「外務省機密漏洩事件」。
戦後独立が認められた日本であるが、沖縄は尚も米軍統治下に置かれていた。
時の佐藤栄作首相(本の中では佐橋首相)の下で、着々と沖縄の本土復帰交渉が進む。
しかし、補償費用を巡っては日米で思惑が交錯。
補償費を払ってもらいたいという日本の表の顔。
議会に対しても払えないという立場を崩せないアメリカ。
打開策として、費用は日本側が負担し、アメリカ側が何食わぬ顔でそれを日本に払うという案が採用される。

毎朝新聞の弓成亮太は、政治家にもパイプを持つ敏腕記者であるが、ある時外務省審議官付事務官三木昭子から、日米の密約を記した書類を受け取る。
世紀の特ダネを手にしながら、ニュースソースを守るため記事にできないという葛藤を抱える弓成。
しかし、政府の欺瞞に我慢ができず、野党の政治家にそれを渡した事から書類の存在が公けのものとなり、やがて機密漏洩事件として大きな問題となっていく。

前半はこの機密漏洩事件の顛末が描かれ、後半は傷心の弓成が移り住む沖縄を舞台に、米軍基地との共存に苦しむ沖縄の姿が描かれる。
戦争中は米軍の上陸で大勢の人間が犠牲となり、今なお騒音問題や米兵による暴行事件などに苦しむ沖縄。
前半と後半と、内容的にはまったく異なる物語を、弓成亮太という主人公を中心にうまく結び付けている。

前半は外務省機密漏洩事件が、描かれる。
敏腕記者弓成は、事務官三木昭子とは不倫関係にあり、それが事件に変化球となって左右する。
記者としての「知る権利」と国家の機密が対立した時に、どこまで国家の機密が優先されるのか。
そもそも国家の機密とは何なのか。

外務省の官僚にはエリート意識があって、当然何でも秘密にしたがるだろう。
「自分達しか知らない」という意識は、特権意識にもつながるのは人間の性と言える。
本当に秘密にするべき事と、公けにすることによって国民のコントロールが効く事もある。
新聞記者の知る権利と言っても、今のマスコミのひどさを目の当たりにすれば、要求できる資格などありはしないだろうとも思える。
ストーリーとは離れたところで、いろいろと思うところが出てくる。

後半の沖縄はがらりと変わる。
一つの物語の中で、関連付けを行ってはいるものの、明らかに内容が異なる。
戸惑いを覚えるところではあるものの、沖縄の抱える問題がよくわかる。
米兵による暴行事件、ヘリの墜落事件など、昨今の鳩山元首相の招いた混乱からオスプレイ騒動まで、この本で描かれている事が今もリアルタイムで紙面を飾っているのがわかる。

純粋にストーリーを楽しむ小説でもあり、現代の問題を考えるきっかけになる小説でもあり、まあその両方を楽しめるものであると言えるのだろう。
読み応えは十分あるし、じっくりと読んでみるのもいい本だと思う・・・
  
     
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2012年06月03日

【1Q84 BOOK3】村上春樹




「1Q84 BOOK1」 「1Q84 BOOK2」と続いてきた物語の最終編。
前作で登場してきた謎の人物牛河が、この本では第3の人物として独立した章が与えられる。
容姿の醜い男であり、優秀なれどその容姿ゆえに苦労もある。
弁護士であったのに、裏社会とつながりを持ち、それがゆえに弁護士会を除名になる。
家庭も失い、孤独のまま教団「さきがけ」の調査を請け負うことになる。

独自の嗅覚で天吾と、そしてその先の青豆を追う牛河。
一方で施設にいる父親を訪ねる天吾。
空気さなぎが再び現れる事を期待している。
そして教団から追われ、マンションの一室でじっと息をひそめて待つ青豆。
ドアを叩くなぞのNHKの集金人。

天吾と青豆と牛河と、それぞれの視点から物語は進んでいく。
それぞれの視線から語られる事で、一つの事実を角度を変えてみる事になる。
あわせ鏡のように平行して進む物語。
天吾と青豆と牛河はどのように絡み合うのか、自然とページを送る手が早くなる。

空に浮かんだ月二つ。
物語の中のお話であったはずのリトル・ピープルが登場する。
雷の夜の出来事が、まだ出会わない天吾と青豆とを結ぶ。
1Q84年はどうなるのか。
長い物語がついに結末を迎える。

村上春樹の小説は初めてである。
これ一冊で評価すべきではないところではあるが、不思議な世界観を感じる。
映画では 「ノルウェーの森」を観たが、何となく同じ匂いを感じる事はできる。
その匂いが人気の元なのだろうかと考えてみたりもする。

長い小説であり、どうなるのだろうと気を持たせられたところもあったが、さすが見事な着地という感じである。
そのうち機会を見つけて他の本も読んでみようか。
そんな気持ちにさせられた小説である・・・


「1Q84 BOOK1」
「1Q84 BOOK2」

   
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2012年03月05日

【1Q84/BOOK2】村上春樹



「1Q84 BOOK1」の続編。
前作では二人の主人公天吾と青豆が登場。
それぞれの人物像と物語のイントロが語られた。
天吾は不思議な少女と出会い、その少女が作り上げた物語「空気さなぎ」を加筆補正して文学作品に仕上げる。
それがベストセラーとなる中で、少しずつ事件が進行する。

青豆は仕事の依頼人である老婆から、これが最後だろうという仕事を依頼される。
それは極めて危険な仕事。
空にはなぜか二つの月。
幾度となく蘇る10歳の頃のある少年との思い出。
その少年になぜか今も心惹かれる。

天吾の章と青豆の章が、ここでも交互に繰り返される。
独立平行していた章が徐々に近づき始める。
天吾と青豆の間に共通の過去。
そして現在までの、それが唯一の接点。
二人の物理的な距離が、一瞬限りなく近づく。

二つの月と「空気さなぎ」の物語と、不思議な少女ふかえりとリトル・ピープル。
それらがこれからどう絡み合うのか、天吾と青豆は出会うのか。
1984年と1Q84年は交差するのか。
すべては「Book3」へと続く。

今のところこれが大ベストセラーになった理由もわからない。
果たして村上春樹は、どのような結末を用意してくれているのだろうか。
面白かったら続きを読んでみようと思ってBook1を手に取ったが、どうやらシリーズの最後まで読む事になりそうだ。
続きをじっくりと楽しんでみたいと思う・・・


「1Q84 BOOK1」


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2011年10月15日

【1Q84 BOOK1<4-6月>】村上春樹



村上春樹の名前はよく知っている。
そして不思議なタイトルの作品を書く事も。
これまで1冊も読んだことがなかったが、さすがに大ベストセラーになっているし、読んでみるかと、とうとう手を出してみた。

3部作構成らしいが、まあ合わなかったらこれでやめればいいと、気楽に手に取ったBook1。
青豆という珍しい名字の女性と、天吾という名の男性の二人がどうやら主人公。
第1章から青豆の章と天吾の章が交互に描かれる。
どちらも独立していて、何の脈絡も関連性もない。
事前の予備知識ゼロでスタートしたから、この先どうなるのかまったく展開が読めない。
そういう新鮮さが好きである。

すらりとした体系で、マーシャル・アーツのインストラクターを務める青豆。
なんとなく、自分好みの女性を頭の中で作り上げてみる。
天吾は予備校の数学教師で、片手間にモノ書きをしている。
まだ自分の小説は世に出ていない。

青豆は、実は人に言えない秘密の“仕事”をしている。
いわば現代の仕事人であろうか。
そして天吾は新人賞の下読みをしていて、不思議な小説と出会う。
17歳の少女ふかえりが書いた、リトルピープルが出てくる『空気さなぎ』というタイトルの小説である。
文章は稚拙だが、含み持った何かを感じた天吾は、知り合いの編集者に言われるまま、それに加筆修正する事にする。

まったく平行独立して進んでいた二人の主人公の登場する二つのストーリーが、少しずつ共通点を見せ始める。
二つの月。
リトルピープル。
宗教法人『さきがけ』。

タイトルの1Q84は、バックグラウンドとなっている1984年から取っている。
「1984」年ではなく、なぜ「1Q84」なのか。
何かが異なるようだが、それはまだ明らかにはなっていない。
二つのストーリーもいずれどこかで合流するのだろうが、今はまだその気配はない。

面白ければ続きを読もうかと考えていたが、続きを読んでみたくなった・・・


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2010年10月27日

【魔王】伊坂幸太郎

   
「魔王」と聞くと、今でも小学校の音楽の時間に聞いたシューベルトの歌曲を思い出す。
夜道を行く馬車に乗っている親子の会話がその内容である。
クラスのみんなが面白がって、毎回先生にねだって聞かせてもらったのである。
しかし、実は魔王に子供の命が奪われるという恐ろしい曲なのである。

この本を手に取った時、そんなシューベルトの魔王と関係があるとは夢にも思わなかった。
しかし、実は大ありだったのだ。
ストーリーの背景に、実はそのシューベルトの「魔王」が息衝いているのである。
これは 「ゴールデン・スランバー」でも経験した事だが、伊坂幸太郎の音楽系譜と自分のそれとが、なんとなく重なっている気がする。

主人公は安藤兄弟。
兄が主役の「魔王」と弟が主役の「呼吸」と2部に分かれている。
兄は他人に自分の思ってる事を言わせる、「腹話術」と呼ぶ特殊能力がある。
弟は勝負事に負けないという能力がある。
その能力を使って何かするかというと、するのは他愛もない事。
ストーリーにも大きく影響しない。

兄弟の生きる時代背景は興味深い。
犬養という政治リーダーが現れ、日本人の強いアイデンティティーを訴えていく。
アメリカに追随するのではなく、中国との領土問題に怯むことなく、己を強く主張すべきと主張する。
それはあまりにも今の時代に似過ぎているが、本が書かれたのは2004年だ。

後半の「呼吸」では、首相になった犬養が、国民投票によって憲法改正を行おうとしている。
犬養の主張はいちいち耳に心地よく響く。
こんなリーダーが今の日本に現れたら、とついつい本気で願ってしまう。
おそらくこれは伊坂幸太郎の秘めたる思いなのかもしれない、と読みながら思う。
小説という名を借りて、自分の持論を展開しているのだ。

残念ながら国民投票の結果が出る前にストーリーは終わる。
途中であれこれと投げかけられた疑問は、すべて読者の想像に委ねられた。
続きは自分で考えるしかない。
大きく動こうとしている世間と、それに反して生きる安藤兄弟。
伊坂幸太郎らしい、不思議なワールドの中での物語。

安藤兄の言葉がなぜか読後に残る。
「考えろ考えろマクガイバー」
それもいいかもしれない・・・




魔王 (講談社文庫)

魔王 (講談社文庫)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/09/12
  • メディア: 文庫



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2009年12月13日

【終末のフール】 伊坂幸太郎

伊坂幸太郎の作品を初めて読んだのはオーデュボンの祈り (新潮文庫)であった。
東北のどこかに浮かぶ島を舞台に言葉を話す案山子が出てくるというちょっと現実離れした作品だ。
その現実離れ感が伊坂作品の特徴でもある。
ゴールデンスランバー (新潮文庫)もそんな現実離れしたストーリーだったが、今回の「終末のフール」もまたそうである。

この地球に小惑星が衝突し、3年後に人類が絶滅するとなった世界。
そんな世界の中、仙台にあるマンションの住人たちを綴ったのが本作品である。
中のタイトルを見ていくと、
終末のフール
太陽のシール
篭城のビール
冬眠のガール
鋼鉄のウール
天体のヨール
演劇のオール
深海のポール
とすべて韻を踏んでいる。
それぞれに主人公が違い、でも同じマンションなので、それぞれの章で微妙にストーリーは交叉する。

終末を迎えた世界でいったい人々は何を考え、どんな行動をとるのか。
あくまでも現実離れした想像の世界なのであるが、登場人物たちには共感できる部分も多く、これまでの作品とはちょっと違って心動かされるものもある。
自分だったらどうするだろうと考えてしまう。

登場人物たちは努めて冷静に「日常生活」を送る。
8年前に滅亡が発表され、5年間の混乱を経て、冷静ではいられない人々がおそらくは淘汰されてしまったであろうという事が背景にあるのかもしれない。
突拍子もない前提ながらもその前提条件にしたがって起こるであろう事を踏まえているところに、架空の中のリアリティを感じさせる。

死を意識した時、人はどういう行動を取るのか、自分はどうするのか。
そんな事を自然と考えさせられる。
味わい深い小説である・・・


終末のフール (集英社文庫)

終末のフール (集英社文庫)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2009/06/26
  • メディア: 文庫



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2009年09月24日

【重力ピエロ】 伊坂幸太郎

「オーデュポンの祈り」「ゴールデンスランバー」と伊坂幸太郎の作品を読んだが、どれも変わったタイトルだなというのが第一印象だ。
タイトルはできればストーリーとマッチしているのがいいと個人的には思うのだが、関連性があるようでよくわからないというのが伊坂流なのかもしれない。

主人公は兄貴である泉水。
弟の春と二人の兄弟のこれは物語である。
兄弟といっても異父弟である。
すなわち、春は母親がレイプされてできた子供となっている。
レイプされてできた子供が歩む人生というのが一つのテーマとなっている。

というと三浦綾子の「氷点」を連想してしまう。
あれは「自分の子供を殺した殺人犯の娘」を育てるという話であった。
「汝の敵を愛せよ」というキリスト教の精神をテーマに、非クリスチャンには誠にわかりにくい「原罪」というものを見事に表した名作だ。
そんな重いテーマに挑むのかと思いきや、伊坂幸太郎の世界は非常にライトだ。
重力のない空間を漂うピエロのように・・・

そうした重荷を背負った兄弟が、仙台市内で連続して起こる放火事件に巻き込まれていく。
(そういえば「ゴールデンスランバー」も仙台市内の話であった)
昔からの兄弟のエピソード。
付きまとうレイプの影。
兄弟のそれぞれの仕事と父親。
無作為にばら撒かれたエピソードというピースが一つ一つ丹念に繋ぎあわされていく。
終わってみればフワフワとばら撒かれたピースが一つの見事な絵になっている。
どうだ!という力みもなく、気がついたらできていたという軽い感覚が最後まで続く。

最初と最後は同じ文章が綴られる。
謎のタイトルがストーリーと解け合う。
決して重くはなく、かといって浅くもない。
伊坂幸太郎の世界の一つの完成形といった感じがする作品である。



重力ピエロ

重力ピエロ

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/04
  • メディア: 単行本



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2009年09月05日

【ゴールデンスランバー】 伊坂幸太郎

「ゴールデンスランバー」というタイトルを聞いた時、咄嗟にビートルズの曲が頭に浮かんだ。
しかしまさかビートルズの曲の事だとは思っていなかった。
何か他に意味するところがあると思っていたのだ。
けれどもそれはやっぱりビートルズの曲のタイトルから取ったものであった。
ビートルズ最後のアルバムである「アビー・ロード」のB面(昔のレコードは裏表があったのだ)に収録されているメドレーの一曲だ。
好きな曲の一つでもあるからちょっと内容には期待した。

しかしながらその期待は裏切られる。
折に触れて「ゴールデンスランバー」が取り上げられるが、過ぎ去りし時を懐かしむ象徴としての意味だけでストーリー自体には何の関わりあいもなかった。
といって不満というわけではない。
結論から言えばかなりハラハラドキドキのストーリーで面白かった。

舞台は仙台市内。
若き総理大臣がパレードの途中で何者かによって暗殺される。
そして一人の容疑者として青柳雅彦が浮上する。
しかし当人はまるでその事を知らない。
そればかりか周りはすべて彼が犯人であるという前提で動いていく。
それはあまりにも巨大な陰謀に思える・・・

伊坂幸太郎の作品としては「オーデュポンの祈り」を読んだ事があるが、一見ありえなさそうなストーリーがリアルに進んでいく様子は何となく似通っている。
ケネディ大統領暗殺犯として知られるオズワルド。
しかし、現在までにその暗殺事件については様々な事実が判明し、むしろオズワルドは犯人ではなかったという説が有力である。
だがオズワルドは逮捕直後に殺害され、真相は今もって大統領令で2039年まで封印されている。

主人公の青柳雅彦も「オズワルドにされる」という恐怖から自首もできない。
絶対絶命の状況下で一体どういう結末になるのか読む方も見当がつかない。
次々とありえない展開が連続し、最後まで一気に読ませてくれる。
自分が同じ立場だったらどう行動するだろうか。
しかも警察でさえ頼りにならないとしたら・・・
そんな想像をしながら読むと面白い。

納得の直木賞受賞作品である。


ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/11/29
  • メディア: ハードカバー



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