2020年05月11日

【犬にきいてみろ】池井戸 潤 読書日記1148



 テレビドラマにもなった著者の『花咲舞が黙ってない』シリーズの短編である。

 冒頭、花咲舞がお見合いに来ている。らしくない状況であるのは本人もよく認識しているのだが、断りきれなくてのもの。相手は親の代からの町工場を経営している平井勇磨。初めての対面で男の場合だと、どうしても話は仕事の方に行く。舞は銀行員でもあり、自然と話は仕事のことで深まって行く。すると、突然、平井は舞に相談に乗ってほしいと持ちかける。そこへ偶然、同僚の相馬健と出会い、その流れから2人で平井の相談に乗る形で物語は進む。

 平井の会社は赤字決算となってしまっており、平井はそれに悩んでいる。相馬と舞が後日平井の会社を訪れ、決算書を見せてもらう。すると、売り上げは減っているのに、むしろ工場の製造コストが上がっていることが判明する。聞けば、親の代から支えている工場長がワンマンで、社長の平井も持て余していてモノが言いにくい状況だという。そこで2人は工場を訪ねることにする。

 工場長は先代から支える古株で、しかも先代が主要取引先である大日マシナリーから三顧の礼で迎えたという人物。自分が主要取引先とのパイプも握っており、ワンマン化しているのである。しかもそんな状況下、平井の下には工場長の不正を臭わす告発状まで届いている。そこで相馬と舞は密かに工場を調べ始める・・・

 元銀行員だけあって、著者の著書には銀行系、ビジネス系が多い。それゆえにビジネスマン的には興味深い。中小企業を経営している立場からすると、「赤字の原因はなんであり、それをどう解消するのか」という過程に興味津々となる。ましてや、不正となるとどこの企業でも可能性はある。どんな展開になるのか先が気になるところである。

 同じ会社といっても、工場は独立して本社から離れており、そこは1つの王国。早期と舞は手がかりを求めて工場の社員に聞いて行くが、みんな口は堅い。ところが元工場経理マンが、「犬に聞いてみろ」とヒントをくれる。これがタイトルの由来。果たしてそれはどういう意味なのか。ヒントの意味に気づいた舞が、真相に迫って行く。

 短編ゆえに短くまとまっていて、あっという間に読めてしまう。しかも、ビジネスマンにはきちんとビジネス視線の興味を満たしてくれる。短編といえども侮れない。単純にエンタメとして読んでも、ビジネス目線で読んでも面白い。やっぱり池井戸潤の作品であるとそれなりに満足させてくれる一冊である・・・




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2020年04月02日

【ノーサイド・ゲーム】池井戸潤 読書日記1136



《目次》
第一部 ファースト・ハーフ
 プロローグ
 第1章 ゼネラルマネージャー
 第2章 赤字予算への構造的疑問
 第3章 監督人事にかかる一考察
 第4章 新生アストロズ始動
 第5章 ファーストシーズン
 エピローグ
第二部 ハーフタイム
第三部 セカンド・ハーフ
 プロローグ
 第1章 ストーブリーグ
 第2章 楕円球を巡る軌跡
 第3章 六月のリリースレター
 第4章 セカンドシーズン
 第5章 ラストゲーム
 ノーサイド

 お気に入りの作家である池井戸潤のまた新たな作品。池井戸潤の作品は企業を舞台としたサラリーマンを主人公とした作品が多い。だから余計に面白いというところがある。そして本作品は、それにプラス企業スポーツという要素が加わる。具体的にはラグビーであるが、ちょうど昨年、ラグビーのワールドカップが日本で開催されて盛り上がったのはまだ記憶に新しいところ。企業スポーツといえば、社会人野球を扱った『ルーズヴェルト・ゲーム』があったが、今度はラグビーというわけである。

 物語の舞台は、トキワ自動車という上場企業。主人公の君嶋隼人は経営企画部に所属しているが、冒頭でカザマ商事という企業の買収案件を巡って常務取締役営業本部長の滝川と激しくやりあう。買収を進めようとする滝川に対し、「価格が高すぎる」と反対したのである。結果として買収案は取締役会で否決されるが、恨みを買った君嶋は横浜工場総務部長職に左遷されてしまう。そして着任した君嶋は、その職がトキワ自動車ラグビー部アストロズのゼネラルマネージャー職を兼ねていることを知る。

 トキワ自動車ラグビー部は、プラチナリーグに所属する古豪であるが、成績は低迷しており、かつちょうど監督が退任して後任を決めなければいけない状態。また、年間16億円という巨額の赤字を垂れ流しているという問題を抱えている。ラグビー素人の君嶋がゼネラルマネージャーに就任することは異例であり、右も左もわからぬまま君嶋は職に就く。しかし、巨額の赤字に対する滝川を中心とする役員の視線は厳しく、かろうじて社長の島本の支持でもっている状態。早急な対策が求められている。

 普通であれば、左遷人事の後に興味もないスポーツチームのゼネラルマネージャーを任されれば、ふてくされるかもしれない。どう行動するかは、人それぞれであるが、君嶋は「やるからにはきっちりやる」という性格のようで、目の前に迫った監督人事と予算編成という問題に対し、ただ前任者の前例をそのまま踏襲するのではなく、独自の観点から真正面から取り組んでいく。小説ではあるが、自分自身のサラリーマンであるし、「自分だったらどう行動するだろう」と考えながら読んでしまう。そこが池井戸作品の面白いところなのかもしれない。

 ところでアストロズの年間16億円の赤字というのが、そもそも構造的な問題と説明される。コストは仕方がないものの、問題はほとんど収入がないということ。そしてその原因が、日本蹴球協会の「アマチュアリズム意識」にあるということがわかってくる。読みながらこれはどこまでフィクションなのだろうかと思えてしまう。プラチナリーグとは当然、今のトップリーグのことだろうし(監督人事のところで出てくるのはすべて実名・実例である)、となると今の日本ラグビーフットボール協会も同じ問題を抱えているのだろうかと思えてしまう。となると、正面から協会を批判しているに等しい。「いくら小説でも」と思ってしまう。

 2015年のワールドカップで、日本代表は南アフリカの代表に奇跡的な勝利を収めた。そして昨年のワールドカップでは、長年夢物語と思われていた決勝トーナメント進出を果たした。この物語はその間の期間の物語。フィクションとは思えないリアリティの中で物語が展開する。そして驚くのは、試合の描写。そもそもスポーツを言葉で描写するのは難しいと思う。しかし、ただでさえ「よくわからない」と言われるラグビーを実に巧みに描いていく。経験者であれば、試合シーンを鮮明に脳裏に描き出せるくらいである。「ひょっとして池井戸潤は経験者だろうか」と思うくらいである。

 ストーリーは、君嶋がゼネラルマネージャーに就任した年を「第一部 ファースト・ハーフ」、翌2年目を「第三部 セカンド・ハーフ」とし、その間を「第二部 ハーフタイム」とラグビーの試合になぞらえて描いていく。アストロズの活躍だけでなく、君嶋のビジネスマンとしての仕事上での活躍も描いていく。池井戸作品はみなそうだが、面白くて一気に読んでしまった。どの作品も本当に面白い。期待通りの一昨である・・・

 
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2019年07月18日

【下町ロケット ヤタガラス】池井戸潤 読書日記1050



第1章 新たな提案と検討
第2章 プロジェクトの概要と変遷
第3章 宣戦布告。それぞれの戦い
第4章 プライドと空き缶
第5章 禍福スパイラル
第6章 無人農薬ロボットを巡る政治的思惑
第7章 視察ゲーム
第8章 帝国の逆襲とパラダイムシフトについて
第9章 戦場の聖譚曲
最終章 関係各位の日常と反省

 『下町ロケット ゴースト』と連続で出版されたシリーズ第4作であるが、実はこれは『下町ロケット ゴースト』と合わせて、いわば前後編ものと言えるもの。冒頭は『下町ロケット ゴースト』のラストと重なっていて、天才エンジニア島津裕が佃製作所から去って行くシーンから始まる。

 トランスミッションへの進出に乗り出した佃製作所だが、盟友ギアゴーストが突然の造反し、ダイダロスと手を組んでしまう。一方、帝国重工の財前は新しい部署で無人農薬ロボットを手がけることになる。そして佃製作所にそのトランスミッションの供給を要請してくる。帝国重工が打ち上げた準天頂衛星ヤタガラスが新しい農業を切り開く一翼を担う。しかし、帝国重工も一枚岩ではなく、内製化を推進する的場が強引に佃製作所を外してしまう。

 事はギアゴーストとダイダロスが進める「ダーウィン・プロジェクト」と帝国重工の「アルファ1」との対決となり、世間の注目を集めて行く。ともに日本の農業の未来を背負うが、「アルファ1」は大型エンジンのダウンサイジングでの対応が上手くいかず、対決の場と用意されたイベントで醜態を晒してしまう。一方、順調な滑り出しに見えた「ダーウィン」も不気味な故障例が次々と報告される。

 このシリーズの面白いところは、義理人情に厚い下町の中小企業が、大企業の論理や経済優先の論理に反して、ハート対ハートのつながりを示していくところだろう。前作で佃製作所に窮地を救ってもらったギアゴーストは、手のひらを返して佃製作所と対立するダイダロスと手を組む。帝国重工はその優越的地位を利用し、様々な分野で圧力をかけ、そして中小企業の切り捨てをも厭わない。そうした中にあって、佃航平を中心とした佃製作所のメンバーや帝国重工の財前は信頼関係を重視して付き合っていく。

 日本の農業も高齢化が懸念されているが、ここで展開される無人農薬ロボットが実現すれば、高齢者でも楽に農業が続けられるし、重労働から解放された農業には若い人も集まるのかもしれない。読みながらそんな日本の農業の未来のことを考えていた。現状はどうなのかわからないが、いずれ実現する近未来の姿なのだと思う。

 物語は、大企業の中で中小企業のことなど歯牙にもかけず、自らの欲望のまま動く人物がいて、またそんな大企業に復讐心を持つ者がいて、日本の農家のことを考えて理想に向けて頑張る者がいる。世間的にもダーウィン対アルファ1の対決が興味を惹くが、佃はひたすら日本の農業の理想に焦点を合わせる。仕事は違えどこういうスタンスを自分も持ちたいと思わずにはいられない。単純だが登場人物たちの行動する姿に何度も目頭が熱くなる。これがこのシリーズの何と言っても醍醐味であろう。

 第4作まで続いてきたシリーズであるが、こうなるとまだまだ続いて欲しいと願わずにはいられない。「次」を大いに期待したい一作である・・・
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2019年03月11日

【下町ロケット ゴースト】池井戸潤 読書日記1006



第1章 ものづくりの神様
第2章 天才と町工場
第3章 挑戦と葛藤
第4章 ガウディの教訓
第5章 ギアゴースト
第6章 島津回想録
第7章 ダイダロス
第8章 記憶の構造
最終章 青春の軌跡

 『下町ロケット』『下町ロケット2 ガウディ計画』と続いてきた池井戸潤の「下町ロケット」シリーズ第3弾。物語の中心となるのは、おなじみの佃製作所。その佃製作所だが、取引先である帝国重工が海外子会社の大規模な損失発生により窮地に追い込まれ、宇宙事業の継続が危うくなる。そうなると、エンジン用バルブを供給している佃製作所にも影響が出る。「次」を考える佃社長はトランスミッションに目をつける。
 
 しかし、いきなりトランスミッションを作るのはハードルが高く、まずはトランスミッションメーカーにバルブシステムを供給することを思いつく。そして紹介されたのが、急成長中の中小企業ギアゴースト社。元帝国重工の伊丹と島津が中心になって設立した会社であり、島津は女性ながら帝国重工時代は天才エンジニアと呼ばれていた存在。早速、佃製作所はギアゴースト社の新規のコンペにエントリーする。
 
 業績不振から宇宙事業からの撤退が現実味を帯びる帝国重工。ギアゴーストは大手バルブメーカーの大森バルブからコンペで便宜を図るべく圧力をかけられ、さらにはトランスミッションメーカーのケーマシナリーから特許侵害の内容証明郵便が送られてくる。このシリーズ、いつも中小企業が理不尽な圧力に苦しまされるところが多い。読んでいても腹立たしく思えてくる。

 今回はあまり大きな危機には陥らない佃製作所は、ギアゴーストのサポートに回る。社内では銀行出身の経理部長殿村が、父親が倒れたため、週末実家の農業を手伝わざるを得なくなる。一方、ギアゴーストのコンペに出品するバルブシステムの製作に若手が挑む。ギアゴースト社の特許侵害の影にある意外な事実。判官贔屓の心にうまく訴えかけてくるストーリー展開は、相変わらずである。

 佃製作所の業績にも影響する帝国重工の宇宙事業「スターダスト計画」はどうなるのか。頼みの財前も異動となり、暗雲が立ち込める。一方、特許侵害で身売りの危機に陥るギアゴースト社。倒産覚悟で意地を通すか、それとも身売りしてすべてを失うか。その難しい選択は、「自分だったらどうするだろうか」という思いにさせてくれる。単なるエンターテイメントにとどまらず、池井戸作品はビジネスの教科書としてもいいくらいである。

 既にシリーズ第4弾も発表になっており、物語はTo be continuued感を漂わせて終息する。当然ながらこの続きも必読である。「教科書」として、ビジネスマンにもオススメの一冊である・・・



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2018年05月24日

【アキラとあきら】池井戸潤 読書日記923



第1章 工場と海
第2章 マドンナ
第3章 父と叔父たち
第4章 進路
第5章 就職戦線
第6章 バンカーの誕生
第7章 BUBBLE
第8章 ロザリオ
第9章 父の遺言
第10章 叔父たちの策略
第11章 後悔と疑惑
第12章 挑戦、そして挫折
第13章 内憂外患
第14章 お荷物ホテル
最終章 最終稟議

昨年、テレビドラマ化されていたのは知っていたが、普段テレビドラマを観ることもない私としては、例外なく観ることもなく終わっていたもの。池井戸潤の作品にはハズレが少ないし、改めて手に取った次第。

タイトルにある通り、物語の主人公は2人のあきら。1人は零細工場の息子・山崎瑛であり、もう1人は大手開運会社東海郵船の御曹司・海堂彬。同じ歳で同じあきらでありながら2人の育つ環境は対照的。山崎瑛は、父の工場が倒産し家族は夜逃げの憂き目にあう。そして一方の海堂瑛は、恵まれた環境で育つ。まったく対照的な家庭環境で育った2人が、紆余曲折をへて産業中央銀行へ入行する。

それぞれ対照的な環境で育った2人のライバルともいうべき男が主人公となると、なんとなくジェフリー・アーチャーの名作『ケインとアベル』を思い出してしまう。山崎瑛は父の工場を助けてくれなかった銀行にいつしか嫌悪感を覚えているが、高校3年時にある銀行員の行動で諦め掛けていた大学進学に道が開け、考えを改めさせられる。この経緯はちょっと感動的。相変わらず、池井戸作品は途中も熱い。

一方、御曹司の海堂彬も裕福な家庭とは言え、問題がないわけではない。幼い頃から父と比較されコンプレックスを持っていた叔父2人。相続でそれぞれ東海商会、東海観光と言うグループ企業の経営権を得るが、怪しげな人物と付き合い、言われるがままにスーパーに進出して失敗したりする。これには高校生の山崎瑛も淡い恋とともにそれと知らずに関係してくる。途中の伏線も絶妙だったりする。

やがて2人のあきらは、共に産業中央銀行に同期として入行する。産業中央銀行と言えば、池井戸作品ではおなじみの半沢直樹の所属している銀行である。ちょっと遊び心が効いている。2人はライバルとして対立関係になるのかと思ったら、さにあらず。研修でこそ相対峙したものの、それぞれ活躍し、そして最後にそれぞれの立場で大きな問題と向き合うことになる。

池井戸作品には、主人公の前に立ちはだかる人物が必ず出てきて物語を盛り上げる。この作品では、海堂彬の2人の叔父がその役を担っている。プライドは高いが経営者としては実務能力に欠け、謙虚さもない。この2人がキーマンとなって、東海郵船グループは存続の崖っぷちに立たされる。この手に汗握る展開が心地よい。最後もすっきりと綺麗に定点越えて着地する。見事なフィニッシュである。

他の池井戸作品と同様、この作品も一気に物語の世界に引きずり込んでくれるところがある。分厚い本だが、あっという間に読み終えてしまう感じである。「これぞエンターテイメント!」と言える池井戸潤の一冊である・・・




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2018年05月08日

【花咲舞が黙ってない】池井戸潤 読書日記916



第1話 たそがれ研修
第2話 汚れた水に棲む魚
第3話 湯けむりの攻防
第4話 暴走
第5話 神保町奇譚
第6話 エリア51
第7話 小さき者の戦い

池井戸潤の「銀行員」ものと言えば、テレビで人気を博した「半沢直樹」シリーズがあるが、これは女性を主人公として、やはりテレビドラマで人気となった「花咲舞」シリーズである。ドラマの元ネタは別らしいが、これはドラマのヒット後に書かれたもののようである。内容はすべて短編となっていて、事務部臨店指導グループに属する花咲舞が、一緒に行動する同僚の相馬と行く先々で事件に遭遇するというパターン。銀行内部の事情も描かれていて、元行員としても興味深い。

「たそがれ研修」とはいきなりのタイトルである。著者の所属していた銀行では、45歳くらいになると「転籍」を視野に銀行員人生のその後についての研修がある。銀行員のまま定年を迎えられるのはごくわずかで、基本的に皆50代前半で転籍する。そんな転籍を控えた銀行員の情報漏洩がテーマとなっている。

「汚れた水に棲む魚」は、トラブル続きの支店に指導に訪れた舞は、そこで取引先が暴力団のマネーロンダリングに巻き込まれているのを知る。通帳を細かく観察し、そこに出ている記号から資金の動きを想像するのは、実に銀行員らしい。
「湯けむりの攻防」では、舞たちは別府温泉にくる。ここにも支店があるのであるが、衰退する温泉街を活性化させようと、老舗旅館の経営者は設備資金の借入を申し入れしているが、舞の所属する東京第一銀行の本部はその承認を渋っている。

「暴走」は、暴走運転で死傷者を出した事故が起こり、犯人の運転手が実は直前に東京第一銀行でローンを断られていたことが判明する。しかし、実はその時犯人から貴重な情報を得ていたが、それが握りつぶされていたことが判明する。
「神保町奇譚」は、臨店指導の帰りに支店の近くの評判の店に訪れた舞と相馬が、偶然臨席した年配の女性から、亡くなった娘の銀行口座に動きがあったことを知る。話を聞くうちに、その背後にあった出来事が浮かび上がる。

「エリア51」は、銀行でも表に出せない融資の話。トップの一部しか知らない事情のある話で、この手の話は金融危機の際に私の勤めていた銀行でも表に出てきて問題となったから、実に生々しく読んだ。
「小さき者の戦い」は「エリア51」に続く話。相馬が転勤となり、その店に臨店した舞はある不自然な融資に気がつく。そしてそれを辿っていくと・・・というもので、最後を飾るにふさわしい面白さ。

時代は少し前のもので、東京第一銀行は産業中央銀行と合併する準備を進めている。産業中央銀行の人間として若き日の半沢直樹も登場する。企画部の昇仙峡玲子なるキャラクターもユニークで、読者を気軽に楽しませようというサービス精神が溢れている感じである。半沢直樹シリーズとはまた一味違うテイストで、これはこれでなかなか面白い。今後シリーズ化されるのかどうかはわからないが、シリーズ化されるなら読んでみたいと思う。

シリーズ化されたとしたらどうなるのだろうか。半沢直樹は、若い日から始まり、だんだんと出世していっている。それはまるで、「島耕作」のようであり、サラリーマンらしい面白さだと思う。それに対し、花咲舞は女子行員。男に比べると出世し難いという問題もあり、そこのところが興味深い。ストーリーとともに楽しみにしたいところである。

いずれにせよ、池井戸潤の銀行シリーズとして楽しめる一冊である・・・



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2017年10月14日

【仇敵】池井戸潤 読書日記846



庶務工員
貸さぬ親切
仇敵
漏洩
密計
逆転
裏金
キャッシュ・スパイラル

すっかり「お気に入り作家」と化した池井戸潤であるが、まだまだ読んでいない作品はある。少しずつ読破していきたいと思っているが、これは比較的初期の作品。文庫本化したようなので手にした次第。

物語の舞台は銀行。元銀行員ゆえに、「銀行モノ」はお得意なのだろうから必然的に銀行モノが多くなるのも理解できる。そしてこの本の主人公は、半沢直樹のような出世街道を歩いている行員ではなく、「庶務行員」。言い方は銀行によっていろいろだと思うが、要は銀行の雑務を一手に引き受ける雑用係的な存在である。どこの銀行でも行けば制服を着てロビーにいる年配の人である。

主人公は、東都南銀行武蔵小杉支店でそんな庶務行員をしている恋窪商太郎。恋窪は、同行で庶務行員として、駐車場 での子顧客誘導やロビーでのサポートなどを日々行なっている。といっても恋窪はまだ年齢も40台と若い。実はもともと大手の東京首都銀行のエリート行員だったのだが、行内で不正に私腹を肥やす役員との対立に破れ、銀行を追われたという経歴を持っている。

そんな経歴を知る東都南銀行武蔵小杉支店の若手松木は、担当の融資先で困ったことがあると「クレジットファイル」を持って、恋窪に相談に行くということをしている。「クレジットファイル」とは銀行の融資先顧客ファイルのことで、これもいろいろと言い方はあるが、この名称は池井戸潤の出身行の呼び方である。

最初に松木が恋窪のところに持ち込んできたのは、取引先の手形割引の明細についての相談。ある融資先の手形割引の残高が増えていて、しかもその銘柄がその融資先にとっての「仕入先」からだという。通常手形割引の銘柄は「販売先」のものになるはずで、これはおかしなこと。銀行員からすると、「イロハのイ」に当たる常識であるが、融通手形の可能性もあり注意を要することである。松木とともにこの疑問を調べて行く恋窪。そして意外な事実に行き当たる。

恋窪は元は優秀な銀行員だったとは言え、今は銀行内では地位の低い庶務行員。上司の課長から細かい仕事を言いつけられ、嫌味を言われ、黙々と雑用をこなす。しかし、いざ松木に頼られると、明晰な頭脳と今だ東京首都銀行に在籍していて恋窪を慕う元部下の協力を得ながら問題を解決して行く。なんとなく「必殺仕事人」の中村主水を彷彿とさせられる。

そして、日々の小さな問題を解決しつつ、背景では恋窪が東京首都銀行を追われる原因となった役員が相変わらず力を持ち、彼と癒着する白山総業の中島容山が暗躍する。途中、死者が出たりして池井戸作品ぽくないところもあるが、そこはまぁ良しとしておきたい。庶務行員というところに視点を当てて、面白いストーリーを紡ぎ出すものだなと思う。

半沢直樹シリーズと比べるとインパクトは劣るものの、銀行モノとしては程よく楽しめる。これはこれで単発ものとして楽しみたい一冊である・・・



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2017年09月09日

【陸王】池井戸潤 読書日記832



第1章 百年ののれん
第2章 タラウマラ族の教え
第3章 後発ランナー
第4章 決別の夏
第5章 ソールを巡る旅
第6章 敗者の事情
第7章 シルクレイ
第8章 試行錯誤
第9章 ニュー「陸王」
第10章 コペルニクス的展開
第11章 ピンチヒッター大地
第12章 公式戦デビュー
第13章 ニューイヤー決戦
第14章 アトランティスの一撃
第15章 こはぜ屋の危機
第16章 ハリケーンの名は
第17章 こはぜ屋会議
最終章 ロードレースの熱狂

新刊が出れば欠かさず読んでいる池井戸潤の作品。元銀行員の池井戸潤らしく、その小説はビジネスものが多く、読みながら物語の楽しさを味わうとともに、仕事でのヒントになることもある。そんなところが池井戸潤の小説の面白いところだろう。

物語の舞台となるのは、代々にわたって足袋を製造してきたメーカーこはぜ屋。社長の宮沢は、足袋と言う斜陽産業に限界を感じていて、経理を担当する富島と資金繰りに頭を悩ませる日々。メイン銀行も当然厳しい対応。支店長もいい顔をしないが、しかし担当の坂本だけは何とか支援をしたいと考え、宮沢社長には新事業を考えるようにと提案する。

坂本の紹介でシューズインストラクターの有村を紹介された宮沢は、足袋は実は人間本来の走り方に適しているという話を聞く。そして宮沢は、ランニングシューズの製造を決意する。こうしてこはぜ屋の新事業を縦糸として物語は進んでいく。こはぜ屋を取り巻く人々の人間模様が物語の横糸となる。

宮沢社長の息子大地は就職に失敗し、就活をしながらこはぜ屋で働いている。大学駅伝で脚光を浴びたものの、怪我で低迷している茂木裕人。外資系シューズメーカー大手のアトランティスでは、ランナー想いでランナーの信頼が厚いが冷遇されているベテラン村野尊彦。その上司で数字しか頭にない営業部長小原。新素材の特許を持っているが、会社を潰してしまった飯山。それぞれの人生のドラマが描かれる。

池井戸潤のビジネス小説には一つのパターンがある。中小企業が、大企業の不当な圧力に抗して奮闘していくと言うものである。『下町ロケット』は、大手のナカシマ工業から特許訴訟を起こされ、主要取引先から取引を打ち切られた佃製作所が、ロケット開発に関する特許と技術力を武器に戦っていく物語。『ルーズベルト・ゲーム』も大手のミツワ電気による合併工作を跳ね返していく物語。いずれも弱いものが強いものに立ち向かっていく姿に心打たれる物語である。このドラマもそれを踏襲している。

足袋の製造メーカーが、ランニングシューズに挑戦なんて現実的に考えても難しそうである。ところがこのドラマの中では、それが自然な形で展開される。リアリティを伴っているわけで、それが故に面白いとも言える。大手シューズメーカーアトランティスの妨害はドラマを盛り立てる演出としても、シューズ開発のプロセスや経理部長の反対や、儲かっていない会社に対する偏狭な支店長の態度は、現実に普通にありうるものである。

開発を続けるこはぜ屋がアッパー素材を開発しているベンチャーを見つけ、うまく提携する。ところがそこにアトランティスが横槍を入れる。アトランティスが、その素材を大量に買い取るが条件となるのが独占取引(こはぜ屋排除)をそのベンチャーに申し入れる。ベンチャーとしては、願ってもないオファー。しかし、こはぜ屋に対する義理がある。経済メリットと義理との間で社長は悩むが、こう言うビジネスジャッジも自分だったらどうするだろうと考えてみるのも面白い。

就活をしている大地は、面接に落ち続ける。大地の仕事に対する態度などからすれば、その理由も何となくわかってくる。そして飯山とともに新事業に打ち込んでいくうちに、大地自身も仕事に対する考え方が変わってくる。その結果、面接でもいい感触を得られるようになるが、それも当然だろう。こうしたビジネスシーンの数々は、現実のビジネスでいいヒントになる。ストーリーの面白さだけが魅力ではない。

途中ウルウルすることが多々あり、何かを目指す人たちの熱い姿には心打たれるものがある。感じ取れることはストーリーの面白さだけではない。読む前の期待を全く裏切られない内容。これからも目が離せない作家の一冊である・・・

 


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2016年10月29日

【下町ロケット2】池井戸潤 読書日記723



第1章 ナゾの依頼
第2章 ガウディ計画
第3章 ライバルの流儀
第4章 権力の構造
第5章 錯綜
第6章 事故か事件か
第7章 誰のために
第8章 臨戦態勢
第9章 完璧なデータ
第10章 スキャンダル
第11章 夢と挫折

池井戸潤を初めて読んだのは、何を隠そうこの本の前作『下町ロケット』であった。その続編ともあって、早く読みたかったが、ここに至って読むことができた次第である。

物語の舞台は前作と同じ佃製作所。ある日、大手メーカー日本クラインから開発依頼を受ける。しかし、図面のみに基づく開発依頼で、なんの部品かは伏せられている。しかも予算も割に合わない。別ルートからの情報で、どうやらそれは人工心臓の部品らしいと判明する。佃製作所は、完成後の量産を受注できるという口約束で赤字の開発を引き受ける。佃社長は、社内の開発担当として中里を指名する。

その人工心臓の開発は、心臓外科分野では日本でトップクラスのアジア医科大学の貴船外科部長が中心となっており、日本クラインが共同開発に当たっている。しかし、人工心臓「コアハート」の開発を進める日本クラインは、佃製作所に開発依頼したバルブの量産をサヤマ製作所に発注してしまう。

一方、かつて貴船に師事していたものの、手柄を横取りされた上、北陸医科大学に赴任させられた医師一村は、地元企業のサクラダと人工心臓弁の開発を進めている。技術的な壁に当たった両者は、その開発を佃製作所に依頼する。帝国重工とのロケットエンジン部品の発注を巡りサヤマ製作所と競う佃製作所に心臓弁の開発依頼は困難であったが、一村とサクラダの開発にかける思いに動かされた佃製作所は、その開発プロジェクト「ガウディ計画」に参加することにする・・・

こうして中小企業ながら技術力を売りにする佃製作所は、今度は医療分野に挑戦する。とは言え、前作もそうであったが、中小企業の佃製作所は大企業の論理に煮え湯を飲まされ、また有利な立場を利用しての嫌がらせやパワーゲームが展開される。力のない佃製作所は、唯一の武器である技術力と熱い思いでこれに立ち向かう。判官贔屓も手伝って、自然と佃製作所を応援する気持ちが湧いてくる。熱い思いに目頭が熱くなることしばしばなのも前作同様である。

佃製作所の技術者であった中堅社員の中里は、それまでの不満もあり、日本クラインからの開発案件について、量産の受注に失敗すると、ライバルであるサヤマ製作所の引き抜きに応じて転職する。会社もさることながら、サラリーマンとしてどう身を処すべきか。今回はそれについても考えるヒントをくれる。小説だから「正義は勝つ」的なところはあるが、現実に置き換えると判断は難しいと思わなくもない。

それにしても、小説というのは思わぬ副次的な効果を持つものだと思わなくもない。この本のメインテーマは医療機器。その認可の仕組みだとか、それにまつわる問題点だとか、知らず知らずのうちに知識を得ている。最終的な認可は厚労省であるが、実質的な審査を行うのはPMDAという組織。医療機器の審査は当然ながら命を扱うものだけに慎重を期すべきであるが、度が過ぎればいつまでも実用化はできない。それが世界との格差=「デバイスラグ」という問題にもなるのである。

かくして佃製作所のチャレンジは、試練の大嵐の中続いていく。黙っていても物語に引き込まれていく。いつも電車の中で本を読む人は、読まない方が賢明だと三日のうち二日も乗り過ごした経験者として保証したい。期待は裏切られることなく大いに満たされる。周りにも勧めたい一冊である・・・

  
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2016年06月25日

【オレたち花のバブル組】池井戸潤 読書日記675



第1章 銀行入れ子構造
第2章 精神のコールタールな部分
第3章 金融庁検査対策
第4章 金融庁の嫌な奴
第5章 カレンダーと柱の釘
第6章 モアイの見た花
第7章 検査官と秘密の部屋
第8章 ディープスロートの憂鬱

『オレたちバブル入行組』に続く半沢直樹シリーズの続編。
前回、自己中の支店長に「倍返し」して営業第二部の次長になった半沢直樹。ある時、上司から呼び出され、本来は法人部が担当するはずの伊勢島ホテルの担当を言い渡される。伊勢島ホテルは、東京中央銀行から200億円の融資を得た直後、120億円の運用損を発表して問題となっていた先である。頭取直々の担当指名ということで、半沢は渋々担当を引き受ける。

時に東京中央銀行には、金融庁検査が予定されており、大口融資先である伊勢島ホテルはその検査の目玉とされている。検査で伊勢島ホテル向けの貸し出しが「分類」されてしまうと、銀行は多額の引当金を積まなければならなくなり、決算へのインパクトから頭取の首さえ危ういという重大な事態。

金融庁から送り込まれてくるのは、エースとされる黒崎という検査官。時にAFJ銀行の検査では辣腕を振るい、同行を破綻に追い込んでいた。検査での「分類」を阻止すべく、早速動き出す半沢だが、肝心の伊勢島ホテルからは十分な協力が得られず、取引店の担当もなぜか非協力的。例によって、「前門の狼後門の虎」状態の半沢は、その困難の中、「分類」絶対阻止というインポッシブルなミッションに向かう・・・

今回、それと並行して半沢の同期である近藤の姿が描かれる。近藤も優秀だったものの、かつて猛烈支店長の下で精神が疲弊し、今は京橋支店の取引先であるタミヤ電機に出向している。しかし、総務部長とは名のみで、悪化する業績下、事業計画すら作ろうとしない社長と非協力的な年上の部下、そして借入の申し出にいい顔をしない支社の担当者との間で、苦悩している。

二つの物語が微妙に絡み合い、今回も勧善懲悪スタイルで痛快な物語が進んでいく。個人的に面白いのは、やはり銀行の内幕を知り尽くした元銀行員の著者ならではの描写だろう。AFJ銀行が金融庁検査でやり込められる一幕は、UFJ銀行の実話そのままであるし、金融庁検査に際して、銀行は不都合な資料を隠す「疎開」行為を行うし、「旧T」と「旧S」という旧行意識のぶつかり合いは、今の三菱東京UFJ銀行の合併当初の行内の実話であるし、そうした伏線がまた物語を盛り上げる。

実際の銀行を知っていると、「そんなことはありえないな」と思わせるエピソードや説明に出くわすことがあるものの、池井戸潤の小説にはさすがにそんな部分はない。そこが読んでいてリアリティがあって面白いところだろう。半沢直樹の活躍も、時として自分より上の役員に歯向かったりして、実際のサラリーマンの立場としてはなかなかできるものではない。しかも勝敗はいつも当落選上で、薄氷の勝利といったもの。負ければ二度と浮かばれない理不尽な人事が待っているわけであり、実際には難しいだろう。だからこそ、読んでいて面白いのかもしれない。

テレビシリーズで大人気となった半沢直樹シリーズであるが、テレビの方はどうもイマイチであった。しかし原作の方は傑作であると思う。改めて、読んでいない人には一読の価値あるシリーズである・・・

posted by HH at 16:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 池井戸潤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする