2017年09月09日

【陸王】池井戸潤



第1章 百年ののれん
第2章 タラウマラ族の教え
第3章 後発ランナー
第4章 決別の夏
第5章 ソールを巡る旅
第6章 敗者の事情
第7章 シルクレイ
第8章 試行錯誤
第9章 ニュー「陸王」
第10章 コペルニクス的展開
第11章 ピンチヒッター大地
第12章 公式戦デビュー
第13章 ニューイヤー決戦
第14章 アトランティスの一撃
第15章 こはぜ屋の危機
第16章 ハリケーンの名は
第17章 こはぜ屋会議
最終章 ロードレースの熱狂

新刊が出れば欠かさず読んでいる池井戸潤の作品。元銀行員の池井戸潤らしく、その小説はビジネスものが多く、読みながら物語の楽しさを味わうとともに、仕事でのヒントになることもある。そんなところが池井戸潤の小説の面白いところだろう。

物語の舞台となるのは、代々にわたって足袋を製造してきたメーカーこはぜ屋。社長の宮沢は、足袋と言う斜陽産業に限界を感じていて、経理を担当する富島と資金繰りに頭を悩ませる日々。メイン銀行も当然厳しい対応。支店長もいい顔をしないが、しかし担当の坂本だけは何とか支援をしたいと考え、宮沢社長には新事業を考えるようにと提案する。

坂本の紹介でシューズインストラクターの有村を紹介された宮沢は、足袋は実は人間本来の走り方に適しているという話を聞く。そして宮沢は、ランニングシューズの製造を決意する。こうしてこはぜ屋の新事業を縦糸として物語は進んでいく。こはぜ屋を取り巻く人々の人間模様が物語の横糸となる。

宮沢社長の息子大地は就職に失敗し、就活をしながらこはぜ屋で働いている。大学駅伝で脚光を浴びたものの、怪我で低迷している茂木裕人。外資系シューズメーカー大手のアトランティスでは、ランナー想いでランナーの信頼が厚いが冷遇されているベテラン村野尊彦。その上司で数字しか頭にない営業部長小原。新素材の特許を持っているが、会社を潰してしまった飯山。それぞれの人生のドラマが描かれる。

池井戸潤のビジネス小説には一つのパターンがある。中小企業が、大企業の不当な圧力に抗して奮闘していくと言うものである。『下町ロケット』は、大手のナカシマ工業から特許訴訟を起こされ、主要取引先から取引を打ち切られた佃製作所が、ロケット開発に関する特許と技術力を武器に戦っていく物語。『ルーズベルト・ゲーム』も大手のミツワ電気による合併工作を跳ね返していく物語。いずれも弱いものが強いものに立ち向かっていく姿に心打たれる物語である。このドラマもそれを踏襲している。

足袋の製造メーカーが、ランニングシューズに挑戦なんて現実的に考えても難しそうである。ところがこのドラマの中では、それが自然な形で展開される。リアリティを伴っているわけで、それが故に面白いとも言える。大手シューズメーカーアトランティスの妨害はドラマを盛り立てる演出としても、シューズ開発のプロセスや経理部長の反対や、儲かっていない会社に対する偏狭な支店長の態度は、現実に普通にありうるものである。

開発を続けるこはぜ屋がアッパー素材を開発しているベンチャーを見つけ、うまく提携する。ところがそこにアトランティスが横槍を入れる。アトランティスが、その素材を大量に買い取るが条件となるのが独占取引(こはぜ屋排除)をそのベンチャーに申し入れる。ベンチャーとしては、願ってもないオファー。しかし、こはぜ屋に対する義理がある。経済メリットと義理との間で社長は悩むが、こう言うビジネスジャッジも自分だったらどうするだろうと考えてみるのも面白い。

就活をしている大地は、面接に落ち続ける。大地の仕事に対する態度などからすれば、その理由も何となくわかってくる。そして飯山とともに新事業に打ち込んでいくうちに、大地自身も仕事に対する考え方が変わってくる。その結果、面接でもいい感触を得られるようになるが、それも当然だろう。こうしたビジネスシーンの数々は、現実のビジネスでいいヒントになる。ストーリーの面白さだけが魅力ではない。

途中ウルウルすることが多々あり、何かを目指す人たちの熱い姿には心打たれるものがある。感じ取れることはストーリーの面白さだけではない。読む前の期待を全く裏切られない内容。これからも目が離せない作家の一冊である・・・

 


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2016年10月29日

【下町ロケット2】池井戸潤



第1章 ナゾの依頼
第2章 ガウディ計画
第3章 ライバルの流儀
第4章 権力の構造
第5章 錯綜
第6章 事故か事件か
第7章 誰のために
第8章 臨戦態勢
第9章 完璧なデータ
第10章 スキャンダル
第11章 夢と挫折

池井戸潤を初めて読んだのは、何を隠そうこの本の前作『下町ロケット』であった。その続編ともあって、早く読みたかったが、ここに至って読むことができた次第である。

物語の舞台は前作と同じ佃製作所。ある日、大手メーカー日本クラインから開発依頼を受ける。しかし、図面のみに基づく開発依頼で、なんの部品かは伏せられている。しかも予算も割に合わない。別ルートからの情報で、どうやらそれは人工心臓の部品らしいと判明する。佃製作所は、完成後の量産を受注できるという口約束で赤字の開発を引き受ける。佃社長は、社内の開発担当として中里を指名する。

その人工心臓の開発は、心臓外科分野では日本でトップクラスのアジア医科大学の貴船外科部長が中心となっており、日本クラインが共同開発に当たっている。しかし、人工心臓「コアハート」の開発を進める日本クラインは、佃製作所に開発依頼したバルブの量産をサヤマ製作所に発注してしまう。

一方、かつて貴船に師事していたものの、手柄を横取りされた上、北陸医科大学に赴任させられた医師一村は、地元企業のサクラダと人工心臓弁の開発を進めている。技術的な壁に当たった両者は、その開発を佃製作所に依頼する。帝国重工とのロケットエンジン部品の発注を巡りサヤマ製作所と競う佃製作所に心臓弁の開発依頼は困難であったが、一村とサクラダの開発にかける思いに動かされた佃製作所は、その開発プロジェクト「ガウディ計画」に参加することにする・・・

こうして中小企業ながら技術力を売りにする佃製作所は、今度は医療分野に挑戦する。とは言え、前作もそうであったが、中小企業の佃製作所は大企業の論理に煮え湯を飲まされ、また有利な立場を利用しての嫌がらせやパワーゲームが展開される。力のない佃製作所は、唯一の武器である技術力と熱い思いでこれに立ち向かう。判官贔屓も手伝って、自然と佃製作所を応援する気持ちが湧いてくる。熱い思いに目頭が熱くなることしばしばなのも前作同様である。

佃製作所の技術者であった中堅社員の中里は、それまでの不満もあり、日本クラインからの開発案件について、量産の受注に失敗すると、ライバルであるサヤマ製作所の引き抜きに応じて転職する。会社もさることながら、サラリーマンとしてどう身を処すべきか。今回はそれについても考えるヒントをくれる。小説だから「正義は勝つ」的なところはあるが、現実に置き換えると判断は難しいと思わなくもない。

それにしても、小説というのは思わぬ副次的な効果を持つものだと思わなくもない。この本のメインテーマは医療機器。その認可の仕組みだとか、それにまつわる問題点だとか、知らず知らずのうちに知識を得ている。最終的な認可は厚労省であるが、実施的な審査を行うのはPMDAという組織。医療機器の審査は当然ながら命を扱うものだけに慎重を期すべきであるが、度が過ぎればいつまでも実用化はできない。それが世界との格差=「デバイスラグ」という問題にもなるのである。

かくして佃製作所のチャレンジは、試練の大嵐の中続いていく。黙っていても物語に引き込まれていく。いつも電車の中で本を読む人は、読まない方が賢明だと三日のうち二日も乗り過ごした経験者として保証したい。期待は裏切られることなく大いに満たされる。周りにも勧めたい一冊である・・・

  
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2016年06月25日

【オレたち花のバブル組】池井戸潤



第1章 銀行入れ子構造
第2章 精神のコールタールな部分
第3章 金融庁検査対策
第4章 金融庁の嫌な奴
第5章 カレンダーと柱の釘
第6章 モアイの見た花
第7章 検査官と秘密の部屋
第8章 ディープスロートの憂鬱

『オレたちバブル入行組』に続く半沢直樹シリーズの続編。
前回、自己中の支店長に「倍返し」して営業第二部の次長になった半沢直樹。ある時、上司から呼び出され、本来は法人部が担当するはずの伊勢島ホテルの担当を言い渡される。伊勢島ホテルは、東京中央銀行から200億円の融資を得た直後、120億円の運用損を発表して問題となっていた先である。頭取直々の担当指名ということで、半沢は渋々担当を引き受ける。

時に東京中央銀行には、金融庁検査が予定されており、大口融資先である伊勢島ホテルはその検査の目玉とされている。検査で伊勢島ホテル向けの貸し出しが「分類」されてしまうと、銀行は多額の引当金を積まなければならなくなり、決算へのインパクトから頭取の首さえ危ういという重大な事態。

金融庁から送り込まれてくるのは、エースとされる黒崎という検査官。時にAFJ銀行の検査では辣腕を振るい、同行を破綻に追い込んでいた。検査での「分類」を阻止すべく、早速動き出す半沢だが、肝心の伊勢島ホテルからは十分な協力が得られず、取引店の担当もなぜか非協力的。例によって、「前門の狼後門の虎」状態の半沢は、その困難の中、「分類」絶対阻止というインポッシブルなミッションに向かう・・・

今回、それと並行して半沢の同期である近藤の姿が描かれる。近藤も優秀だったものの、かつて猛烈支店長の下で精神が疲弊し、今は京橋支店の取引先であるタミヤ電機に出向している。しかし、総務部長とは名のみで、悪化する業績下、事業計画すら作ろうとしない社長と非協力的な年上の部下、そして借入の申し出にいい顔をしない支社の担当者との間で、苦悩している。

二つの物語が微妙に絡み合い、今回も勧善懲悪スタイルで痛快な物語が進んでいく。個人的に面白いのは、やはり銀行の内幕を知り尽くした元銀行員の著者ならではの描写だろう。AFJ銀行が金融庁検査でやり込められる一幕は、UFJ銀行の実話そのままであるし、金融庁検査に際して、銀行は不都合な資料を隠す「疎開」行為を行うし、「旧T」と「旧S」という旧行意識のぶつかり合いは、今の三菱東京UFJ銀行の合併当初の行内の実話であるし、そうした伏線がまた物語を盛り上げる。

実際の銀行を知っていると、「そんなことはありえないな」と思わせるエピソードや説明に出くわすことがあるものの、池井戸潤の小説にはさすがにそんな部分はない。そこが読んでいてリアリティがあって面白いところだろう。半沢直樹の活躍も、時として自分より上の役員に歯向かったりして、実際のサラリーマンの立場としてはなかなかできるものではない。しかも勝敗はいつも当落選上で、薄氷の勝利といったもの。負ければ二度と浮かばれない理不尽な人事が待っているわけであり、実際には難しいだろう。だからこそ、読んでいて面白いのかもしれない。

テレビシリーズで大人気となった半沢直樹シリーズであるが、テレビの方はどうもイマイチであった。しかし原作の方は傑作であると思う。改めて、読んでいない人には一読の価値あるシリーズである・・・

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2016年06月16日

【銀行総務特命】池井戸潤



漏洩
煉瓦のよう
官能銀行
灰の数だけ
ストーカー
特命対特命
遅延稟議
ペイオフの罠

池井戸潤の小説をいろいろ読んでみようと思っている。そして選んだのがこの本。元銀行員だけに「銀行モノ」にはちょっと期待してしまうが、これは半沢直樹シリーズとはまた別物であり、その点でも興味深い。

主人公は、銀行内の不祥事処理を専門とする総務部の指宿修平。銀行=信用というイメージとは裏腹に、やはり事件を起こす人達はいる。そうした「陰」の部分はただでさえ興味深いところであるが、それにスポットライトを当てたわけで、それだけでも興味をそそられる。

内容は、指宿修平を主人公としつつ、指宿がいろいろと起こる不祥事を処理していくという短編形式になっている。
銀行の顧客情報が漏れた疑いのある「漏洩」。
煉瓦のような顔をした執行役員が携わった闇を扱う「煉瓦のよう」。
女子行員がアダルトビデオに出演したという「官能銀行」。
行員の家族が誘拐される「灰の数だけ」。
女子行員がストーカーに狙われる「ストーカー」。
総務部特命の指宿の首を取ろうと人事部特命の男が狙う「特命対特命」。
支社長が何者かに刺される「遅延稟議」。
経営破綻した銀行員と老婆の預金を扱った「ペイオフの罠」。

銀行に起こりがちな事件などを扱って、どれもそれなりに面白い。「クレジット・ファイル」と呼ばれる顧客の融資資料をまとめたファイルは、名前もそのままに取り上げられる。流出した顧客情報には、企業の「行内格付」情報まで記載されている。普通の人ならあまりピンとこないかもしれないが、銀行員であれば、その重大性がわかるというもの。「オブリゲーションを負う」などという銀行内の専門用語も飛び出す。ただ、各章とも最後はいずれも結末はあっさりしている。何があったのか、どう言う展開になったのかは読者に想像させるスタイルである。それのせいではないかもしれないが、何となくシャープさに欠ける気がする。

事件を調べると言っても、警察ではないので、そこには当然限界がある。例えば自分の銀行の口座情報は入手できても、他行のそれは入手できない。しかし、そこは他行の「特命仲間」に頼んだりして、うまく情報を手に入れたりする。口座の入出金履歴を丹念に調べ、振込で流出している場合は、流出先の銀行を調べたりするのはよくやることであり、そうした「手口」は一般の人には面白いのかもしれない。

半沢直樹シリーズと何となく「切れ味」が違う気がするのは、この作品がデビューから4作目と初期の頃のものだからかもしれないし、短編集だからかもしれない。いずれにせよ、半沢直樹シリーズとはちょっと切れ味が劣るところは残念な気がする。まぁ全てが痛快というわけにもいくまい。全くつまらないというわけではなく、それは「半沢直樹シリーズと比べれば」という但し書き付である。
これはこれとして、また別の本を試してみようと思うところである・・・


    
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2016年06月05日

【オレたちバブル入行組】池井戸潤



序 章 就職戦線
第1章 無責任論
第2章 バブル入行組
第3章 コークス畑と庶務行員
第4章 非護送船団
第5章 黒花
第6章 銀行回路
第7章 水族館日和
終 章 嘘と新型ネジ

テレビドラマで有名になった「半沢直樹」シリーズであるが、その記念すべき第1作がこれ。既に順番は相前後するが、『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』と既に読んでおり、個人的にはこれがシリーズ3作目となる。

冒頭、1988年の就活シーン(当時は「就活」などという言葉はなかった)。バブル期の売り手市場時代に半沢直樹は産業中央銀行の面接に行き、内定を獲得する。内定後の「拘束」など懐かしい就活シーンである。そして時を経て、半沢は大阪西支店の融資課長をしている。そこで支店長の浅野が取引を取ってきた西大阪スチールが第一回目の不渡りを出し、支店内は深刻なムードに包まれている。

西大阪スチール東田社長とは連絡が取れず、銀行の債権5億円は担保のない裸融資で、全額回収不能の可能性が出ている。西大阪スチールは粉飾決算をしており、支店長の浅野はそれを見破れなかった責任を半沢に押し付けている。だが、その取引は半沢に十分な検討の時間を与えないまま浅野が半ば強引に進めた融資であった。

回収不能となれば当然、支店長も責任を問われることになるが、浅野は巧みに本部人脈を駆使して根回しに走り、すべての責任は融資課長の半沢が粉飾決算を見落としていたことにあるかのように振舞っていく。このままでは銀行でのキャリアの終焉となりかねない事態に、半沢はわずかな回収の可能性を求めて手がかりを探していく・・・

金融のドラマはいろいろとあるが、内容が実情にあってなかったりすると興ざめしてしまうことがある。「こんなの現実にはないよな」となると、いくらフィクションでもトーンダウンしてしまうことがある。その点、池井戸潤は元銀行員だけあって、ストーリーが実にリアリティに富んでいる。出てくる銀行員たちの行動は、多少大げさだったり脚色されてはいても、現実離れしていない。そこが個人的に池井戸潤の銀行モノが好きな理由でもある。

今回の西大阪スチールのようなケースだと、まず債権回収は不可能である。しかしながら、半沢直樹のような行動の結果であれば、幸運の助けも必要だとは思うが、回収できても不思議はない。半沢をハメようとする支店長が、自ら苦況に陥るケースも現実的には規模の大小はあれよくあることだろう。追い詰められていく様子も実にリアルである。

実は、ドラマは最初の2話で違和感を感じて観るのをやめてしまったが、原作ではその違和感を感じなかった。ストーリーは痛快であり、元銀行員という立場から読んでも、よく知った実情が出てきてうれしいところもある。読み応えは十分である。

このシリーズ是非読破しようと思う一冊である・・・


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2016年01月10日

【銀翼のイカロス】池井戸潤



序章  ラストチャンス  
第1章 霞ヶ関の刺客
第2章 女帝の流儀
第3章 金融庁の嫌われ者
第4章 策士たちの誤算
第5章 検査部と不可解な融資
第6章 隠蔽ゲーム
終章 信用の砦

テレビドラマ化され、一躍人気となった「半沢直樹」シリーズの最新刊である。
と言っても、個人的には「半沢直樹」シリーズは、『ロスジェネの逆襲』しか読んでいない。
いずれ全部読んでみたいと思っているが、とりあえずそれぞれ独立しているので、シリーズを読んでいなくともそれほど影響はなさそうである。

『ロスジェネの逆襲』では、東京セントラル証券に出向していた半沢であるが、今回は本体の東京中央銀行に戻っていて、その営業第2部の次長として登場する。
冒頭で部長から呼び出された半沢は、そこで審査部が担当している帝国航空の担当替えを伝えられる。
審査部は、業績の悪化した取引先を直接担当する部署で、このあたりは銀行の内部事情を知っていると理解が早まる。

余談ではあるが、著者の池井戸潤氏は元銀行員ということで、銀行内の描写が妙に生々しい。
クレジットファイルと呼ばれる取引先の資料をまとめたファイルとか、帝国航空のように大企業の問題先に対する対応とか、検査部の存在やその役割、働く行員の実態など「元行員」ならではの描写が、実にリアルである。
今回は特に、東京中央銀行が旧産業中央銀行と旧東京第一銀行とが合併してできた銀行であるとされ、行内では「旧T」と「旧S」という名称でそれぞれの出身行を呼び合うことが説明されているが、これは著者の勤めていた銀行の姿そのままである。

時に憲民党政権が倒れ、進政党政権が誕生する。
新たに国土交通大臣に就任したのは、元人気女子アナの白井亜希子。
白井大臣は、所信表明の場で前政権時に策定された帝国航空の再建プランを否定し、自らが立ち上げた私設タスクフォースによる再建プランをぶち上げる。
そしてタスクフォースの中心メンバーとなるのは、企業再生弁護士の乃原。
乃原は、帝国航空の担当である半沢を呼び出すと、7割の債権放棄を要請する。

読んでいけば、嫌でも日本航空が脳裏に浮かぶ。
実際、民主党政権誕生からJAL再生タスクフォースの立ち上げ、債権放棄をめぐる銀行団との対立など、事実がこの小説のベースになっていることは間違いない。
中身はフィクションであろうが、実際にもこれに近いようなことがあったのかもしれないし、そんな想像をしてみるとまた面白い。

権力を笠に銀行に強力に債権放棄を迫るタスクフォース。
そして「自力再建が可能なのに放棄はできない」と正論で反発する半沢。
銀行内も一枚岩でなく、過去の不正融資が重くのしかかる。
銀行といえば、世間では「貸し渋り」「貸しはがし」でイメージが良くない部分がある。
小説の世界でも悪者になる傾向が強いと思うが、この本は別。
実態を知ってもらえれば世間のイメージも少しは変わると思うが、守秘義務もあってそれもし難い。
そんな銀行に、半沢直樹は救世主かもしれない。

銀行の事情を良くわかっていれば、非常に面白い本であるが、そうでない一般の人にはどれほど伝わるだろう。
あるいはそんな心配は杞憂なのかもしれない。
テレビドラマで話題になった「倍返し」のセリフも登場し、著者の得意な企業ドラマとしては文句なく面白い。
他の半沢直樹シリーズも是非読んでみたいと改めて思わせられる。

半沢直樹シリーズとしても、企業小説としても、単なるエンターテイメントとしても、どんな見方で読んでも面白いと言える一冊である・・・



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2015年11月28日

【民王】池井戸潤



第1章 御名御璽
第2章 親子漫才
第3章 極秘捜査
第4章 キャンパスライフ
第5章 スキャンダル
第6章 我らが民王

お気に入りの作家の一人である池井戸潤。
最近、ドラマ化されてテレビでやっているのを観て、手に取った一冊。

主人公は内閣総理大臣の武藤泰山親子。
お得意のビジネス小説ではなく、今度は政治ものである。
内閣支持率が低迷する中、与党民政党の首相田辺は、突然辞意を表明する。
就任からわずか1年あまりで、前首相から続けて任期半ばでの政権放棄である。
なんだか、既視感溢れるイントロである。

流れから首相に就任した武藤泰山であったが、政局運営は逆風下である。
そんなある日、国会出席中に突然意識がかすみ、気がつくと息子の翔と意識が入れ替わってしまう。
かつて東野圭吾の『秘密』という本があった。
バスの事故で死んだ妻と娘の意識が入れ替わってしまう物語であったが、ここでは父子の入れ替わりである。
しかもそれぞれが生きているから、様々な混乱を巻き起こす。

何せ息子の翔は、遊び盛りの大学生。
それが内閣総理大臣として、国会の審議の場に立つわけである。
案の定、秘書の用意した演説原稿の漢字が読めず、「未曾有」を「ミゾユー」、「踏襲」を「フシュー」などとやってしまう。
これもなんだか既視感溢れる出来事である。

一方、親子の入れ替わりは、同じ民政党の鶴田経産大臣にも起こり、こちらは酩酊会見でマスコミに大バッシングを受ける。
また、野党党首蔵本も同様で、こちらは娘と入れ替わってしまう。
武藤泰山は、官房長官の狩屋と秘書の貝原のサポートを受けつつ、原因究明を指示する。
そしてある組織の陰謀が浮かび上がってくる。

中身が入れ替わるというナンセンス展開であるが、コメディタッチでもあり、気軽にその世界に溶け込んでいける。
コメディであれば、あれこれと重箱をつつくのは野暮というもの。
そしてドタバタで終始するのかと思いきや、武藤親子はそれぞれの姿を通し、政治家のあるべき姿、そして自分自身の目指す道に気がついていく。
そのストーリー展開に、随所で目頭が熱くなる。

今ではすっかり冷え切ってしまった武藤泰山夫婦であるが、かつて若かりし頃は、泰山は日本の未来を担うことの理想に燃えており、そんな泰山に妻の綾は惹かれていたのである。
翔の姿になり、いい加減ではありながら若者らしい感性で周りの人たちと接していた様子を知り、また、泰山の姿となった翔の思うままの行動を見て、泰山は忘れていた感覚を取り戻していく。
そんな姿は、コメディタッチであった展開を忘れさせていく。

ラストの展開は、誰もが政治家にはこうあってほしいと思うであろうもの。
油断していると、涙腺が緩んでしまう。
政治家でなくても、周りに流されるということはよくあること。
「理想は理想、現実はそうではない」というセリフは、世の中に満ち溢れている。

政治家のスキャンダルに鬼の首を取ったように群がるマスコミ。
「スキャンダルより実績に注目すべき」という言葉は、かき消されてしまう。
政治家批判だけではなく、マスコミのあり方、企業のあり方、何気なく描かれているが、よくよく考えれば奥深いことも多い。
さすが池井戸潤と思わざるをえない。

これだからやめられない。
他にもまだまだ沢山ある池井戸潤作品を読み漁ってみたいと思わせられる作品である・・・

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2015年09月26日

【ようこそわが家へ】池井戸潤



第1章 現代ゲーム私論
第2章 名無しさん
第3章 善良なる小市民、悪意の一般人
第4章 真夏の攻防
第5章 名無しさんの正体
第6章 名も無きひとりの人間として

池井戸潤は個人的に「お気に入り作家」の一人に加えている。
なかなか一気に全作品読破というわけにはいかないが、折に触れ読むようにしている。
今回は、ドラマ化もされていたこの本である。

主人公の倉田太一は、銀行からナカノ電子部品という取引先に出向している。
大体銀行は50歳を過ぎるとこうした形で取引先に出向し、そこと水が合えば銀行を退職し、「転籍」という形でそこの社員となる。
だが、水が合わなければ銀行に返される。
さすが銀行出身の作者だけに、こうした舞台設定は興味深い。

ある日倉田は、通勤電車で割り込みをしてきた若い男を注意する。
ところが、それで男から逆恨みされ、後をつけられて自宅を知られ、花壇を荒らされたり郵便ポストに猫を放り込まれたり、車を傷つけられたりと嫌がらせを受けるようになる。
また、勤務先ではやり手の営業部長真瀬の不正に気づくも、決定的な証拠がない中、逆に真瀬の不興を買って居心地の悪い思いをする。

倉田自身は、気弱な人間で、社内ではやり手で声の大きな真瀬に面と向かって声を荒げられると、反論できなくなる。
唯一の部下である西沢からは、頼りないと思われているだろうと思っていてもどうにもならない。
そんな主人公の姿がちょっともどかしくもある。

物語は倉田の家庭と職場と、それぞれで同時並行して起こる問題を扱っていく。
姿の見えないストーカー。
やがて家の中からは盗聴器も見つかる。
職場では真瀬の不正を疑うも、隠ぺい工作に阻まれつつも、次第に不正の輪郭が見えてくる。
家庭では息子が、そして職場では部下の西沢が、倉田をサポートする。

一見、誰にでも起こりうる事態。
特に家庭でのストーカーは、恐ろしいと思う。
車内でケンカを売られ、腕に自信があるからといって安易に買うのはやめようと思わせられる。

いつの間にかストーリーに引き込まれ、読むのをやめられなくなるのは、いつもの池井戸作品の特徴でもある。
またほかのも読みたい、と素直に思う。
次は、今ドラマでやっているやつだろうか・・・

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2015年02月06日

【七つの会議】池井戸潤



第1話 居眠り八角
第2話 ねじ六奮戦記
第3話 コトブキ退社
第4話 経理屋稼業
第5話 社内政治家
第6話 偽ライオン
第7話 御前会議
第8話 最終議案

一般には、「半沢直樹」で有名になってしまったが、個人的には『下町ロケット』以来、この方のビジネス小説にハマってしまっている池井戸潤の作品。

物語の舞台は、ソニックという大企業の子会社である“東京建電”という会社。
そこに努める様々な人物を主人公に、各々の章が描かれていくスタイル。
ただし、根底に大きな事件が流れており、各章の主人公たちがそれぞれその事件と関わり合っていく形を取っている。

第1章の主人公は、万年係長の八角民夫。
東京建電の花形部署である第1営業部の係長であるが、会議ではいつも居眠り。
営業部の中では最も働いていないと誰もが思うが、なぜかお咎めは受けない。
営業部の部長である北川と同期であり、猛烈部長に何か貸しがあるのではないかと噂されている。
そんな八角が、年下の上司である坂戸課長をパワハラで訴えるという事件が起こる・・・

第2話は、下請けでネジを製造している「ネジ六」が舞台。
三代目社長の逸郎が奮闘しているが、コスト削減の圧力は強く、とうとう大口先の東京建電からの受注がなくなってしまう。
ギリギリまで下げた価格をさらに下げろと言われ、諦めたためである。
それから何とか事業維持を図るが、売上低下と資金繰り難から倒産の危機を迎える。
しかしそんな中、突然東京建電から取引再開の打診がある・・・

第3話は社内で不倫をしていた浜本優衣が主人公。
別れを告げられ、27歳の誕生日を一人で祝った後、退社を決意する。
上司に留意され、つい「結婚のため」と嘘をついてしまう。
そんな優衣が、最後に何か証を残そうと、社内にドーナッツスタンドを設けるべく、奮闘を開始する。

東京建電を舞台としつつも、一見何の関係もなさそうな物語が続いていく。
そしてある椅子が壊れたことに関するクレームから、大きな事件へと広がって行く。
社内の不祥事となると、モノによっては世間に公表し、お詫びするという姿が度々テレビで見受けられる。世間に影響が大きな場合は、公表するのが当然であるが、その影響があまりにも大き過ぎて「公表すれば会社が潰れる」となると、人はどうするであろうか。

サラリーマンであれば、どこかで「あるある」とか「いるいる」とか言いたくなりそうな風景。
そして、「自分だったらどうするだろう」と思わず考えてしまうシーン。
巨大な不祥事の前に、正義も思わず沈黙してしまう。

半沢直樹だけが、脚光を浴びてしまっているが、それだけではない。
この人のビジネス小説は本当に面白い。
そして最後は、理不尽なサラリーマン社会の現実と違って、正義がまかり通る。
だからこそ、爽快感が漂うのかもしれない。

他にもまだまだ読んでいない本がたくさんある。
折に触れて読み進めていきたいと思うところである・・・

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2013年03月31日

【ルーズヴェルト・ゲーム】池井戸潤



第1章 監督人事
第2章 聖域なきリストラ
第3章 ベースボールの神様
第4章 エキジビションゲーム
第5章 野球部長の憂鬱
第6章 六月の死闘
第7章 ゴシップ記事
第8章 株主総会
最終章 ルーズヴェルト・ゲーム

ここのところハマりつつある池井戸潤。
働くビジネスマンを主人公にした熱いストーリーが特徴的だ。
今度の一冊は社会人野球。
会社の業績不振で企業スポーツから撤退するニュースをよく耳にするが、この本に登場する野球部の名門青島製作所もその葛藤に苦しむ一社である。

青島製作所は中堅どころの電気製品メーカー。
技術力はあるが資本力が弱く、リーマン・ショック後の経済不況の中で、受注減で苦しんでいる。
リストラを進める中で、年間3億円の予算を使う野球部への風当たりも強くなっている。
野球部員は勤務は午前中のみの特別待遇という事で、よけいに肩身が狭い。
おまけに前年まで監督を務めていた村野は、チームの4番とエースを引き連れてライバルのミツワ電器へと移籍してしまう。

創業者の青島から経営のバトンを受けついだのは、経営コンサルタント出身の細川。
専務の笹井とともに経営の重責を担うが、資本力をバックに攻勢をかけてくるミツワ電器に対し、劣勢に立たされている。
青島製作所の技術力に注目したミツワ電器は執拗に合併を仕掛けてくる。
物語は、細川社長を中心とした経営陣の奮闘と、廃部の危機の中で、エースと4番を引き抜かれた野球部の存続をかけた戦いが平行して進んでいく。
それぞれに、池井戸潤らしい手に汗握るストーリーが展開される。

タイトルの「ルーズベルト・ゲーム」とは、アメリカのフランクリン・ルーズヴェルト大統領が名付けたという「8対7のスコアのゲーム」の事を言うらしい。
このスコアの試合がもっとも面白いという事である。
取ったり取られたり。
青島製作所は、ミツワ電器と事業でも野球でも取ったり取られたりの、まさにルーズベルト・ゲームを展開する。

新監督の大道が、マネーボール理論でチームを牽引するが、これはちょっと中途半端な描き方だったが、新しいエースの沖原を巡る問題などもあって、これはこれで楽しめる。
ミツワ電器に追い込まれた青島製作所が、どう窮地を脱していくのか。
次から次へと襲い来る危機。
最後に8点目を取ってルーズベルト・ゲームをモノにできるのか。
時に目頭が熱くなるストーリー展開。
ビジネス・ストーリーとしても十分面白い。

やっぱり池井戸潤は面白いと実感させられる一冊である。

   
posted by HH at 21:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 池井戸潤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする