2017年08月02日

【GRIT−平凡でも一流になれる「やり抜く力」−】リンダ・キャプラン・セイラー/ロビン・コヴァル



原題: Grit to Great
How Perseverance, Passion, and Pluck Take You from Ordinary to Extraordinary

第1章 なぜ「グリット」が必要なのか
第2章 「才能」という神話
第3章 夢を捨て去れ
第4章 安全ネットなしで
第5章 ウェイトトレーニング=待つトレーニング
第6章 竹のようにしなやかに
第7章 期限は無限
第8章 グリットは善をめざす

つい最近、『やり抜く力−人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける−』という本を読んだが、この本はまた別の「グリット」本。前書が「グリット」研究の第一人者である研究者の手によるものであったが、この本はキャプラン・セイラーグループという広告代理店の創業者2人によるもの。同じような本を読むのはどうかと思ったが、この著者の2人は、かつて読んだ『ナイスの法則』の共同著者と知って俄然読んでみる気になったというもの。

さて、その肝心の中身であるが、「グリットとは、人生で成功を収めるために必要なもの」という定義はだいたい同じ。それは全盛期にもてはやされた言葉であり、それが今復活しているのは、我々が軟弱になっているからと指摘する。そう言えば、我が国でも「為せば成る」という言葉があるが、真理というものはいつの世も同じなのかもしれない。

そんなGRITの4つの要素は、
1. 度胸:Guts
2. 復元力:Resilience
3. 自発心:Initiative
4. 執念:Tenancity
だとする。そしてその利点は、「自分でコントロールできる」ことだという。

そうした定義的なところはともかくとして、それに続くのは具体例。そのあたり『やり抜く力−人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける−』とはちょっとテイストが異なる。この具体的な事例があるおかげで、グリットの実像がわかって来る。

発達障害が残る可能性が指摘されて生まれた女の子の母は、その子の忍耐と粘り強さを讃え、修士号を取得するまでに至らしめる。
ウェンディーズの創業者デイブ・トーマスは悲惨な幼年時代を送ったにもかかわらずウェンデーズの成功を獲得した。

ジェイムズ・パターソンは、諦めずに作品を書き続け、ベストセラー「スパイダー」を書き上げる。
マリン・オールソップは、男性の世界であったオーケストラの世界に果敢に挑戦し、初の女性指揮者となる。
チェスのファビアーノ・カルアーナ、グランドキャニオンで綱渡りに挑戦したニック・ワレンダ。そうした人々の具体例は読み物としても面白い。

・思い切って跳ぶ
・情熱を忍耐に変える
・小さな勝利を祝福する
・前向きに失敗する
グリッドに年齢は関係なく、逆に「歳相応に振る舞う(自分は歳だからと言い訳する)」ことを戒める。

『やり抜く力−人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける−』の著者アンジェラ・ダックワースにも言及していて、これはこれでグリットの具体例を学べるようになっている(でも結局は【為せば成る】なのである)。同じグリット本でもテイストが異なり、重複感は感じられない。これはこれで受け入れたいところ。

とどのつまり、古から大事な真理はそう変わらないものだと言える。そうであるなら、自分もその力を発揮しなければと思う。自分もかくありたいと思わされる一冊である・・・



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2017年04月10日

【伝えることから始めよう】田明



第1章 今を生きる
第2章 どんなこともつながっている
第3章 できる理由を考える
第4章 伝わるコミュニケーション
第5章 自己更新

 もともと何かを成し遂げた人の話は好きである。それもその人ご本人の言葉であればなおさらである。そんなわけで経営者の本は好きなジャンルの本と言える。この本は、ジャパネットたかたの創業者であり、今は引退してしまったがテレビショッピングの名物MCでもあった方の自叙伝でもあり、見た瞬間に読んでみたいと思った一冊。

 はじめに著者の信念でもある「今を生きる」という言葉が紹介される。「過去にとらわれず、未来に翻弄されないで今を生きる」という生き方が、全編を通して流れている。生まれは長崎県の平戸。大阪の大学を出て就職し、それを辞めて故郷に帰り、言われるまま稼業のカメラ店を手伝う。1974年の5月のこと。

 当時は観光地やホテルで、観光に来たお客さんの写真を撮って現像して売っていたという。カラー写真が普及し始めた頃で、著者の実家が平戸で初めてカラー現像所を作ったのだという。平戸のホテルすべてと契約していて、毎晩いくつもの宴会に出かけて行って撮影し、家族総出で現像して販売する。毎日2〜3時間の睡眠時間だったというが、例え手伝えと言われて始めたことでも目の前にあることに夢中になって全力投球できるところが自分のいいところと著者は語る。確かに、何であれこういうスタンスは大事である。

 そうして一生懸命取り組んでいると、課題が見えてくる。ホテルで宴会の翌朝写真を売りにいくが、売れ残りが出る。それを観光地に持って行って売るとまた売れる。朝は買う余裕のない人もいるわけで、課題が出ると不思議なことにそれを達成するためのアイデアが生まれてくると著者は語る。

 どんなことでも一生懸命にやっていれば、その時は何の役に立たなくてもいつか役に立つ時が来る。どんなことでもいつかどこかでつながっていると著者は語る。スティーブ・ジョブズも同じようなことを語っていたが、真実なのだろう。特に著者の生き方から伝わって来るのは「一生懸命」という姿勢。そして失敗してもめげない。「やらなかった失敗はあっても一生懸命にやった失敗はない」と語るが、胸に手を当ててみたくなる。

 結婚して支店を任され、建設現場を回ってフィルムを集め、団体旅行に写真添乗員として参加する。55万円の年商を1年で300万円にできたのは偶然ではないだろう。やがてラジオで宣伝を行い、ラジオショッピングにつながる。これが好評だったが、長崎では放送は年に2回。そこで九州を飛び出て鳥取や岡山でラジオショッピングをやる。佐世保のカメラ店がこんな取り組みをするなど誰も考えなかっただろうし、常識にとらわれず売れるものは何でも売るというスタンスが、今日の成功につながっているわけである。

 何かを人に伝えるときに大切なのは、スキルとマインドとミッションだという。マインドとはパッション(著者の場合は一生懸命だろう)である。大事なことは「伝えること」ではなく「伝わること」。伝えたつもりではダメ、上手くではなく分かりやすく。そして面白く。何を伝えたいのかを明確にし、最初の1分間がとにかく大事。そして伝える相手を意識する。

 ビデオを売る時、テレビにそれを写したという。○○画素だとか性能だとかを説明するよりも、テレビに映った孫の姿を見てみんな買ってくれたという。ボイスレコーダーはビジネスパーソンや学生向けと考えられていたのを、シニアに忘れ物メモと紹介する。ジャパネットたかたのテレビショッピングを見ていても、それは大きく感じるところである。

 逆境にあって守りに入らず、攻めの姿勢で今できる最高の努力をする。自社スタジオの建設など大胆な戦略もその結果なのだろう。社員の満足がなければ顧客満足は得られないと、社員旅行で海外に行ったりしているのは羨ましい限りである。
「夢や目標は途中で変えていい」
「人生何を始めるにも遅すぎることはない」
要所要所で語られる言葉は深い味わいがある。やはり手に取ったのは大正解であった。

 ビジネスパーソンであれば、生き方のヒントになることが大量に詰まっている。読み物としても面白いし、得られるものも多いし、是非とも読むべきだろう。
 ジャパネットたかたで何か買い物がしたくなってしまった一冊である。・・・


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2015年09月22日

【キャロリング】有川浩



第1唱 オラトリオ
第2唱 もみの木
第3唱 コヴェントリーキャロル
第4唱 もろびとこぞりて
第5唱 ホワイト・クリスマス

なんとなく不思議なテイストが気に入って、定期的に手に取っている有川浩の作品。
「キャロリング」というタイトルは、クリスマスに歌う歌キャロルから来ているのだろうと思う。
それが証に、各章は「各唱」となっていて、それぞれクリスマスソングのタイトルがついている。

物語はクリスマスを前に、廃業が決まった子供服メーカーである『エンジェル・メーカー』が舞台。
主人公の大和俊介は、ここで営業マンをしている。
社長の西山英代は、母の旧友。
子供の頃からの知り合いである。

本業の傍らで、会社は学童保育をしている。
その中の生徒の一人6年生の航平は、両親が別居し、やり手のビジネスウーマンである母は、ハワイ赴任が決まっている。
両親の思いとは裏腹に、航平は両親に仲直りしてほしいと思っている。
そしてハワイに行く前に、それを実現させようと、エンジェル・メーカーの社員柊子を巻き込む。

柊子はもともと大和と付き合っていたが、今は別れてしまっている。
そんな関係から、柊子に付き合って、大和は航平が父親に会いに行くのに同行することとなる。
一方、その父親が務める整骨院には、よからぬ連中が借金の督促に来ている。

冒頭では銃を突きつけられる大和の姿。
これはサスペンスかアクションなのかと思っていると、あまりにも冒頭と合わない穏やかな展開のドラマが続いていく。
どう結びついていくのかという興味がずっと続く。

主人公は大和俊介なのだが、航平にも航平の両親にも柊子にも、赤木ファイナンス社長の赤木にもそれぞれの物語がある。
それぞれの物語が絡み合ってドラマを織りなす。
ストーリー的には単純なのだが、随所で目頭が熱くなる。
このあたりは、有川浩ならではだと思う。

わざとらしくないエンディングは、ドラマの続きを自然と想像してしまう。
また次の作品も、と素直に思う。
これからも読み続けたい作家の一人である・・・

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2014年06月20日

【空の中】有川浩



作家の中には名前だけで読んでみようと思う作家が何人もいる。
有川浩は、そういう作家の一人である。
これまでに読んだ『フリーター家を買う』『阪急電車』『県庁おもてなし課』など、どれも満足行く面白さであった。
そんな事もあって、迷わず手に取った一冊。
事前に何の予備知識もない状態であった。

2000年代のある日、国産輸送機開発プロジェクトの試作第一号機として飛び立った“スワローテイル”は、四国沖上空20,000メートルで突如謎の爆発事故を起こす。
搭乗員は全員死亡。
そして、そのしばらくあと、同空域で訓練飛行中のF-15戦闘機がやはり同様に爆発する。
原因は不明。

主人公の春名高巳は、“スワローテイル・プロジェクト”のメンバーであるが、事故調査のため空自に派遣される。
そこで爆発したF-15戦闘機とともに飛んでいたパイロット武田光稀三尉に、当時の状況を聴取する事になる。
初めはあまり語りたがらない武田三尉。
それでも複座のF-15に春名を乗せ、武田三尉は現場空域へと向かう。
そしてそこで信じ難いものに遭遇する。

一方、高知県仁淀川の河口にある田舎町で、幼馴染みの斉木瞬と佳江の物語が同時並行で進む。
瞬の父親は空自のパイロット。
そして、瞬の父親が四国沖の空域で事故死したその日に、瞬は海岸で見た事もない物体を見つけ、佳江とともにそれを家に持ち帰る。
父の事故死を知らされた瞬は、たった一人となってしまった家で、父親の携帯に電話をかける。
繋がるはずのない携帯に、電話が繋がる・・・

物語は、事故調査にあたる高巳と光稀、そして高知の高校生瞬と佳江との二組のカップルを軸に進んでいく。
それは、一見爽やかな恋愛ドラマ風。
しかしそこに謎の生命体が絡み合う。
その点で、物語はSFチックになっていく。

女性でありながら戦闘機のパイロットである光稀。
そして行動的な女子高生佳江。
それぞれ女性のインパクトが強い。
“男の職場”に女として参入し、背伸びして突っ張る光稀。
幼馴染みであるがゆえに、近過ぎて瞬に近づけない佳江。
不器用な二人の女性の姿は、女性作家視点のキャラクターなのだろうかとも思う。
今の時代は何でもアリのような気がする。

謎の生命体を巡る物語と、大人と青年の二つの恋愛物語。
縦糸と横糸とが見事に絡み合う。
個人的に謎の生命体を巡る物語には抵抗感を覚えた為か、どうも他の作品のような読後の爽快感は得られなかった。
ただ横糸の方は、有川浩のテイストが出ていて期待通りだったと思う。

好みの部分は人それぞれ。
評価もまた同様。
高知の瞬と佳江の会話は土佐弁。
これもなかなかの味わい。
巻末には宮じいを交えた後日談があり、おまけの楽しさがある。
縦糸は今イチだったが、それなりに楽しめた一冊である・・・
   
    
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2013年04月06日

【阪急電車】有川浩



宝塚駅
宝塚南口駅
逆瀬川駅
小林駅
仁川駅
甲東園駅
門戸厄神駅
西宮北口駅
そして、折り返し・・・

阪急電車というタイトルであるが、正確に言えばここに登場するのは阪急今津線。
宝塚駅から西宮北口駅までのわずか8駅のローカル線である。
宝塚駅を出発した車両に乗り合わせた人々を主人公にしたこの物語。
着想と物語の展開がとてもユニークである。

個人的にはかつて逆瀬川に行く時に、西宮北口からこの阪急今津線に何度か乗った事がある。
何となく記憶に残っているだけに、情景が思い浮かぶというのも読む楽しみに加わったところがある。
今でも当時と変わらないのだろうか・・・

初めに登場するのは征志。
宝塚中央図書館にたびたび通う征志は、そこで時折見かける本の趣味が似ている女性に興味を持っている。
声をかけるチャンスなど思いもしなかったが、そんな彼女が何と隣の席に座る。

宝塚南口駅から乗り込んできたのは翔子。
会社の同僚の結婚式帰りの翔子は、なぜか結婚式ではタブーとされている白いドレスに身を包んでいる。
おばあさんに連れられた小さな女の子が、その翔子を見かけて「花嫁さん」と声を上げる。
さらにその翔子を見ていたカツヤとミサのカップルが喧嘩を始める。
そしておばあさんがミサに囁く・・・

カツヤと別れたあと、ミサは車内で高校生グループと一緒になる。
彼女たちのほのぼのとした会話に笑いがこみ上げてくる。
終点まであと一駅となって混み合う車内で、同じ大学に通う圭一と美帆が知り合う。
圭一も美帆もそれぞれ高校時代にトラウマを抱えており、大学生活で心機一転しようと考えている。

それぞれに短いエピソードが連ねられ、そして半年後、今度は西宮北口から折り返した電車の中で、それぞれの登場人物の半年後が描かれる。
どのエピソードもほんのり温かい。
普段何気なく利用している電車にも、同じようなエピソードがたくさんあるのかもしれない、と考えてみる。
今度電車に乗ったら、乗り合わせた人々をよく見てみようかなと思ってしまう。

有川浩の小説は、基本的に優しさが伝わってくる。
読んでいて心地良い気持ちにさせてくれる。
また次も、そんな気にさせてくれる作家である・・・


  
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2013年02月17日

【ヒア・カムズ・ザ・サン】有川浩



ヒア・カムズ・ザ・サン
ヒア・カムズ・ザ・サンParallel

タイトルを見て真っ先に連想したのは、ビートルズの歌である。
ビートルズの歌をタイトルにするというと、 伊坂幸太郎の「ゴールデン・スランバー」や村上春樹の「ノルウェイの森」などがあるが、この本のタイトルもたぶん、(意味はないのだろうが)ビートルズの曲から取られているのだろう。

この本の物語はちょっと変わっている。
主人公は出版社で編集の仕事をしている真也30歳。
真也には不思議な力があり、物や場所に残された人の記憶が見えるのである。
そして同僚のカオル。
アメリカからカオルの父が20年振りに帰国する。
この同じ前提条件で、内容の異なる2つの話が納められている。
言ってみればパラレル・ワールドストーリーである。

最初の「ヒア・カムズ・ザ・サン」では、カオルの父はアメリカでHALの名前で成功したライター。
もともと日本のテレビドラマの脚本家として活躍していたが、プロデューサーと方向性を巡って対立。
妻子と別れ、アメリカに渡ったという経緯がある。

真也の所属する雑誌『ポラリス』では、大物脚本家へのインタヴューと20年振りとなる家族との対面を雑誌に載せようと、色めき立つ。
ぎこちない親子の対面の席で、真也はHALが落としたカオルへの手紙を偶然拾う。
その瞬間、その手紙に残された“カオルの父”の想いが真也に流れ込んでくる・・・

次の「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」では、カオルの父はダメおやじとなる。
見栄っ張りで夢見がちで、日本では脚本家として自立できず、藁をもすがる思いでアメリカに渡る。
しかし、やっぱりそこでもどうしようもない暮らしをしている。
しかし、家族には見栄を張り、成功しているが如く振舞う。

カオルはそんな父を嘘つきとして毛嫌いする。
婚約者の父は自分の父と考えた真也は、カオルの父を自分の家に連れて帰り、再渡米の日まで滞在させる。
しかし、カオルの父の手紙に触れた時、そこに秘められた事情が真也の心に流れ込んでくる。
それは、外からは伺い知れない事情・・・

同じ設定から似たようでいて、それでいて異なる二つの物語を紡ぎだすところは、さすが作家なのだと思う。
どちらが好きかと問われれば、まったく好みの問題であるが、個人的には「Parallel」の方がちょっと切なくていいなという気がする。

どちらも20年という親子の断絶の後に、少し明るい陽が射しこんできたようなところがある。
長い冬のあと、ようやく迎えた暖かい陽ざしを歓迎するジョージ・ハリスンの詞にピッタリと嵌る内容だとわかる。

有川浩の本はこれが3冊目であるが、どれもハズレがない。
そういう意味で、まだ読んでいない本にも手を出してみたいと思うところである。

    
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2013年01月27日

【県庁おもてなし課】有川浩



ことのはじまり
1. おもてなし課、発足。−グダグダ。
2. 『パンダ誘致論者』、招聘−なるか?
3. 高知レジャーランド化構想、発動。
4. 順風満帆、七難八苦。
5. あがけ、おもてなし課。−ジタバタ。
6. おもてなし課は羽ばたく−か?

有川浩の本を読んだのは、 「フリーター家を買う」が最初である。
シンプルだが、明るいストーリー展開が気に入り、その他の著作も気になっていたのだが、今回その一冊を手にした。

舞台は高知県庁。
県庁の観光課の中に新設された「おもてなし課」。
観光立県を目指し、県外観光客を文字通り「おもてなし」する心で県の観光を盛り立てようというコンセプトでネーミングされた課である。
主人公の掛水史貴は、入庁3年目のおもてなし課では一番の若手。

その「おもてなし課」が、観光発展イベントとして、「観光特使」という制度を始める。
高知県出身の著名人に観光特使となってもらって、県の魅力をPRしてもらおうというものである。
そして掛水は、著名人の一人、作家の吉門喬介に連絡を取る。
まずは特使名刺を配ってもらおうと考えていた。

しかし、「お役所仕事ペース」で事を進めようとした掛水は、矢継ぎ早の吉門の指摘にタジタジとなる。
「民間感覚」の欠如を痛感した掛水は、それを補うべくなぜかアドバイスをくれる吉門に食い下がって行く。
そして、そのアドバイスの一つに従い、明神多紀をおもてなし課のバイトとして採用する。

さらに、吉門の紹介でかつて県庁に在籍し、『パンダ誘致論』を展開して役所を追われた観光コンサルタントの清遠和政をアドバイザーとして招き入れる。
清遠は、高知県民が当たり前過ぎて見落としている地元の魅力を最大限引き出す「高知レジャーランド構想」を提案する・・・

高知県の観光事業を進めて行くべく奮闘する掛水。
その奮闘を縦糸に、そして多紀とのロマンスや吉門、清遠和政、さわ親子らとの人間関係を横糸にして物語は進んでいく。
「フリーター家を買う」もそうであったが、有川浩の文章はシンプルかつさわやかだ。
次第に形になって行くプロジェクトは、しばし本物かと錯覚するほどのもの。
掛水と多紀、吉門とさわの物語も含め、ストーリーも面白い。

実際に高知県庁に「おもてなし課」はあるそうであるが、物語にあるような構想はまだないようである。
それがちょっと残念な気もするが、思わず高知に旅行に行きたくなってしまう一冊である。

     
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2011年07月01日

【Story Seller】伊坂幸太郎他


             
首折り男の周辺:伊坂幸太郎
プロトンの中の孤独:近藤史恵
ストーリー・セラー:有川浩
玉野五十鈴の誉れ:米澤穂信
333のテッペン:佐藤友哉
光の箱:道尾秀介
ここじゃない場所:本田孝好

7人の作家が織りなす短編集である。
テーマは別にないようである。

冒頭は伊坂幸太郎。
首をへし折って殺すという殺し屋とその殺し屋に良く似た男。
学校でいじめられている少年と、殺し屋が隣に住んでいると信じる夫婦が登場。
荒唐無稽な設定が得意の伊坂幸太郎であるが、ここではちょっと抑え気味。
最後のオチがさらりと効いている。

『プロトンの中の孤独』は自転車競技にかける男の話。
個人競技の感があるも、実はチームスポーツでもある自転車ロードレース。
ピークから力の衰えた主人公と才能ある孤独な走り屋の同僚の物語。
コンパクトにまとまっていて面白い。

タイトルでもある『ストーリーセラー』は 「フリーター家を買う」の有川浩。
才能ある作家とその夫。
夫婦愛が胸に沁み入る物語。

『玉野五十鈴の誉れ』はちょっと変わっている。
いつの時代の話なのかちょっとよくわからないが、地元の名家小栗家に君臨するお祖母さま。
男子が生まれず、失意の中で育てられた純香にあてがわれた専属女中玉野五十鈴。
奇妙な旧家の中での物語。
ちょっと背筋が寒くなるオチが何とも言えない。

『333のテッペン』は東京タワーを舞台にした物語。
でもなんだかよくわからない。
まあ短編だし、こういう話もあっていいのかもしれない。

『光の箱』は7つの話の中で、個人的には一番気に入った。
高校生の頃の淡い思い出。
久しぶりに開かれた同窓会。
別れたままの彼女に会えるだろうかと淡い期待を胸に、童話作家が故郷を訪れる。
ちょっとほのぼのとして良い感じだ。

『ここじゃない場所』は同級生がテレポートしたと信じた主人公リナの冒険談。
ちょっとどうかなと思える部分もあるが、コンパクトにまとまっている。
各人のPRとしてはこういう作家盛りだくさんの本もいいかもしれない。
この本をきっかけに道尾秀介の作品を他にも読んでみたくなった・・・


      
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2011年04月03日

【フリーター家を買う】有川浩

フリーター、家を買う。 [単行本] / 有川 浩 (著); 幻冬舎 (刊)

少し前にテレビドラマでやっているのを見かけ、原作があると聞いて読んでみようと思った本である。
著者の本を読むのはこれが初めてである。

主人公は二流私大を出て、就職したばかりの若者武誠治。
入った会社の宗教じみた研修に引いてしまい、あっさり退職。
簡単に考えていた再就職が実は困難で、やむなくアルバイトで食いつなぐ。
いいかげんな性格で行き当たりばったりの生き方は、父親とも激しく対立する。
ところがやがて母親が重度のうつ病を発症。
それまで知らなかった事実を姉に突きつけられ目が覚める・・・

主人公武誠司がタイトルにある通りフリーターとなり、そして母親のため家を買おうとしていく姿をストーリーは追う。
ストーリーは非常にシンプルだ。
波瀾万丈もなく、進んでいく。

目覚めたあとの誠司の頑張りは目を見張る。
ちょっとしたビジネスストーリーだ。
ありがちな恋愛もここでは主眼ではなく、さり気なく触れられる程度なのも好感が持てる。
何せ家を買う話なのだ。

若者が頑張る姿はそれだけで胸を打つものがある。
特にいいかげんだった頃の誠司は、どこにでもいそうなイマドキな若者なのだ。
と言う事は、いいかげんに見える今の若者たちも、きっかけさえあれば大変身するのだろう。

仕事での頑張り、対立していた父親との関係、姉や母親との関係、そうして成長していく誠司の姿が胸を打つ、ちょっとシンプルだが、満足できる物語である。


    
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