2013年02月17日

【ヒア・カムズ・ザ・サン】有川浩 読書日記312



《目次》
ヒア・カムズ・ザ・サン
ヒア・カムズ・ザ・サンParallel

タイトルを見て真っ先に連想したのは、ビートルズの歌である。
ビートルズの歌をタイトルにするというと、伊坂幸太郎の 「ゴールデン・スランバー」や村上春樹の「ノルウェイの森」などがあるが、この本のタイトルもたぶん、(意味はないのだろうが)ビートルズの曲から取られているのだろう。

この本の物語はちょっと変わっている。
主人公は出版社で編集の仕事をしている真也30歳。
真也には不思議な力があり、物や場所に残された人の記憶が見えるのである。

そして同僚のカオル。
アメリカからカオルの父が20年振りに帰国する。
この同じ前提条件で、内容の異なる2つの話が納められている。
言ってみればパラレル・ワールドストーリーである。

最初の「ヒア・カムズ・ザ・サン」では、カオルの父はアメリカでHALの名前で成功したライター。もともと日本のテレビドラマの脚本家として活躍していたが、プロデューサーと方向性を巡って対立。妻子と別れ、アメリカに渡ったという経緯がある。

真也の所属する雑誌『ポラリス』では、大物脚本家へのインタヴューと20年振りとなる家族との対面を雑誌に載せようと、色めき立つ。ぎこちない親子の対面の席で、真也はHALが落としたカオルへの手紙を偶然拾う。その瞬間、その手紙に残された“カオルの父”の想いが真也に流れ込んでくる・・・

次の「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」では、カオルの父はダメおやじとなる。見栄っ張りで夢見がちで、日本では脚本家として自立できず、藁をもすがる思いでアメリカに渡る。しかし、やっぱりそこでもどうしようもない暮らしをしている。しかし、家族には見栄を張り、成功しているが如く振舞う。

カオルはそんな父を嘘つきとして毛嫌いする。婚約者の父は自分の父と考えた真也は、カオルの父を自分の家に連れて帰り、再渡米の日まで滞在させる。しかし、カオルの父の手紙に触れた時、そこに秘められた事情が真也の心に流れ込んでくる。それは、外からは伺い知れない事情・・・

同じ設定から似たようでいて、それでいて異なる二つの物語を紡ぎだすところは、さすが作家なのだと思う。どちらが好きかと問われれば、まったく好みの問題であるが、個人的には「Parallel」の方がちょっと切なくていいなという気がする。

どちらも20年という親子の断絶の後に、少し明るい陽が射しこんできたようなところがある。長い冬のあと、ようやく迎えた暖かい陽ざしを歓迎するジョージ・ハリスンの詞にピッタリと嵌る内容だとわかる。

有川浩の本はこれが3冊目であるが、どれもハズレがない。
そういう意味で、まだ読んでいない本にも手を出してみたいと思うところである。

    
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2013年01月27日

【県庁おもてなし課】有川浩 読書日記307



ことのはじまり
1. おもてなし課、発足。−グダグダ。
2. 『パンダ誘致論者』、招聘−なるか?
3. 高知レジャーランド化構想、発動。
4. 順風満帆、七難八苦。
5. あがけ、おもてなし課。−ジタバタ。
6. おもてなし課は羽ばたく−か?

有川浩の本を読んだのは、 「フリーター家を買う」が最初である。シンプルだが、明るいストーリー展開が気に入り、その他の著作も気になっていたのだが、今回その一冊を手にした。

舞台は高知県庁。県庁の観光課の中に新設された「おもてなし課」。観光立県を目指し、県外観光客を文字通り「おもてなし」する心で県の観光を盛り立てようというコンセプトでネーミングされた課である。主人公の掛水史貴は、入庁3年目のおもてなし課では一番の若手。

その「おもてなし課」が、観光発展イベントとして、「観光特使」という制度を始める。
高知県出身の著名人に観光特使となってもらって、県の魅力をPRしてもらおうというものである。そして掛水は、著名人の一人、作家の吉門喬介に連絡を取る。まずは特使名刺を配ってもらおうと考えていた。

しかし、「お役所仕事ペース」で事を進めようとした掛水は、矢継ぎ早の吉門の指摘にタジタジとなる。「民間感覚」の欠如を痛感した掛水は、それを補うべくなぜかアドバイスをくれる吉門に食い下がって行く。そして、そのアドバイスの一つに従い、明神多紀をおもてなし課のバイトとして採用する。

さらに、吉門の紹介でかつて県庁に在籍し、『パンダ誘致論』を展開して役所を追われた観光コンサルタントの清遠和政をアドバイザーとして招き入れる。その清遠は、高知県民が当たり前過ぎて見落としている地元の魅力を最大限引き出す「高知レジャーランド構想」を提案する・・・

高知県の観光事業を進めて行くべく奮闘する掛水。その奮闘を縦糸に、そして多紀とのロマンスや吉門、清遠和政、さわ親子らとの人間関係を横糸にして物語は進んでいく。 「フリーター家を買う」もそうであったが、有川浩の文章はシンプルかつさわやかだ。次第に形になって行くプロジェクトは、しばし本物かと錯覚するほどのもの。掛水と多紀、吉門とさわの物語も含め、ストーリーも面白い。

実際に高知県庁に「おもてなし課」はあるそうであるが、物語にあるような構想はまだないようである。それがちょっと残念な気もするが、思わず高知に旅行に行きたくなってしまう一冊である・・・

     
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2011年07月01日

【Story Seller】伊坂幸太郎他 読書日記170


             
首折り男の周辺:伊坂幸太郎
プロトンの中の孤独:近藤史恵
ストーリー・セラー:有川浩
玉野五十鈴の誉れ:米澤穂信
333のテッペン:佐藤友哉
光の箱:道尾秀介
ここじゃない場所:本田孝好

7人の作家が織りなす短編集である。
テーマは別にないようである。

冒頭は伊坂幸太郎。
首をへし折って殺すという殺し屋とその殺し屋に良く似た男。
学校でいじめられている少年と、殺し屋が隣に住んでいると信じる夫婦が登場。
荒唐無稽な設定が得意の伊坂幸太郎であるが、ここではちょっと抑え気味。
最後のオチがさらりと効いている。

『プロトンの中の孤独』は自転車競技にかける男の話。
個人競技の感があるも、実はチームスポーツでもある自転車ロードレース。
ピークから力の衰えた主人公と才能ある孤独な走り屋の同僚の物語。
コンパクトにまとまっていて面白い。

タイトルでもある『ストーリーセラー』は 「フリーター家を買う」の有川浩。
才能ある作家とその夫。
夫婦愛が胸に沁み入る物語。

『玉野五十鈴の誉れ』はちょっと変わっている。いつの時代の話なのかちょっとよくわからないが、地元の名家小栗家に君臨するお祖母さま。
男子が生まれず、失意の中で育てられた純香にあてがわれた専属女中玉野五十鈴。奇妙な旧家の中での物語。
ちょっと背筋が寒くなるオチが何とも言えない。

『333のテッペン』は東京タワーを舞台にした物語。
でもなんだかよくわからない。
まあ短編だし、こういう話もあっていいのかもしれない。

『光の箱』は7つの話の中で、個人的には一番気に入った。
高校生の頃の淡い思い出。
久しぶりに開かれた同窓会。
別れたままの彼女に会えるだろうかと淡い期待を胸に、童話作家が故郷を訪れる。
ちょっとほのぼのとして良い感じだ。

『ここじゃない場所』は同級生がテレポートしたと信じた主人公リナの冒険談。
ちょっとどうかなと思える部分もあるが、コンパクトにまとまっている。
各人のPRとしてはこういう作家盛りだくさんの本もいいかもしれない。
この本をきっかけに道尾秀介の他の作品を読んでみたくなった。
各作家の「入口」としていいかもしれない一冊である・・・


      
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2011年04月03日

【フリーター家を買う】有川浩 読書日記145

フリーター、家を買う。 [単行本] / 有川 浩 (著); 幻冬舎 (刊)

少し前にテレビドラマでやっているのを見かけ、原作があると聞いて読んでみようと思った本である。
著者の本を読むのはこれが初めてである。

主人公は二流私大を出て、就職したばかりの若者武誠治。
入った会社の宗教じみた研修に引いてしまい、あっさり退職。
簡単に考えていた再就職が実は困難で、やむなくアルバイトで食いつなぐ。
いいかげんな性格で行き当たりばったりの生き方は、父親とも激しく対立する。
ところがやがて母親が重度のうつ病を発症。
それまで知らなかった事実を姉に突きつけられ目が覚める・・・

主人公武誠司がタイトルにある通りフリーターとなり、そして母親のため家を買おうとしていく姿をストーリーは追う。
ストーリーは非常にシンプルだ。
波瀾万丈もなく、進んでいく。

目覚めたあとの誠司の頑張りは目を見張る。
ちょっとしたビジネスストーリーだ。
ありがちな恋愛もここでは主眼ではなく、さり気なく触れられる程度なのも好感が持てる。
何せ家を買う話なのだ。

若者が頑張る姿はそれだけで胸を打つものがある。
特にいいかげんだった頃の誠司は、どこにでもいそうなイマドキな若者なのだ。
と言う事は、いいかげんに見える今の若者たちも、きっかけさえあれば大変身するのかもしれないと思わせてくれる。

仕事での頑張り、対立していた父親との関係、姉や母親との関係、そうして成長していく誠司の姿が胸を打つ、ちょっとシンプルだが、満足できる一冊である・・・


    
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