2017年03月13日

【確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力】森岡毅/今西聖貴



序 章 ビジネスの神様はシンプルな顔をしている
第1章 市場構造の本質
第2章 戦略の本質とは何か?
第3章 戦略はどう作るのか?
第4章 数字に熱を込めろ!
第5章 市場調査の本質と役割-プレファランスを知る
第6章 需要予測の理論と実際-プレファランスの採算性
第7章 消費者データの危険性
第8章 マーケティングを機能させる組織
巻末解説1 確率理論の導入とプレファランスの数学的説明
巻末解説2 市場理解と予測に役立つ数学ツール
巻末解説3 2015年10月にUSJがTDLを超えた数学的論拠


 著者はUSJのCMO。これまでにUSJシリーズ(と勝手に呼んでいる『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?-V字回復をもたらしたヒットの法則』『USJを劇的に変えた、たった一つの考え方』)を読んでいる方。過去2冊にいずれも学ぶべき点が多く、また出版を予告されていたこともあって、迷わず手にした一冊。ここはまた違う切り口で書かれているようである。

 まずこの本における重要概念であるのが、「プレファランス」。聞きなれない言葉であるが、これは、「消費者のブランドに対する相対的な好感度のことで、主に『ブランドエクイティー』『価格』『製品パフォーマンス』の3つによって決定されている」ものらしい。そして市場構造を決定づけているDNAは、消費者のこのプレファランスだという。

 著者は、自らを「数学マーケター」と称している。仮説を数式で表現し、予測数値を導き、実際の数値と検証するというアプローチ利用である。消費者は同じ法則に基づいて消費行動を行っており、それゆえ「数学的アプローチ」が有効なのだという。ブランドもまた同じであり、市場競争とは一人一人の購入意思決定の奪い合いであり、その核心がプレファランスということらしい。

 この消費者のプレファランスこそが市場競争のDNAであり、どの企業も消費者視点を最重視してプレファランスの向上に経営資源を集中させなければならないとする。その経営資源の配分先は3つ。すなわち、「プレファランス」「認知」「配荷」である。ここでいう「認知」の本質はエボークト・セットと呼ばれる消費者の一種の選択肢に入っているか否かであり、実はメディア内認知率を高めるために、著者は『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?-V字回復をもたらしたヒットの法則』を書いたのだという。

 ここから、専門的な解説に入っていき、正直言って苦手な私には苦痛となる。USJを劇的に改善させたのも、様々なツールはあるのかもしれないが、それらを利用しなくとも「映画だけのテーマパーク」から「世界最高のエンターテイメントを集めたセレクトショップ」への転換は導き出せたのではないかと思うところである。また、日本の購買力から考えたら、本来テーマパークのチケットは1万円以上であるべしと考え、TDLが動かないならUSJから動くと値上げに向かった決断は、なかなかできるものではないと思う。

 著者の語る「数学的なアプローチ」は正直言って難解で理解できない。しかし、組織を巻き込んでいくという観点からすれば、「戦略はゴールから考える」「結局どうしたいのか」という点から、「3年以内に1,000万人の集客を達成したい」と目的に掲げ、「諸条件の組み合わせを想像力で描き出して需要予測などのビジネス結果を予測するモデルなどを使ってサイエンスで妥当性を検証していく」という方法は最適であったのだろう。

 巻末には諸々のツールの解説があるが、それは個人的にまったく理解できず、むしろそれ以外の著者の熱い言葉の方がより心に刺さった。
1. 登りたい壁があるならば、まず足場を作る技術が必要
2. 船全体を沈ませないためには「正しくて厳しい道」を選んで進まなくてはならない
3. 戦略を統率するリーダーの最も大切な仕事は戦術で槍を振り回すことではない
4. 「人に良い仕事をさせる」のが私の仕事
5. 人をどこかに連れて行きたい人は誰よりも「熱」を持っていなければならない
6. 合理的に準備して精神的に戦う
やっぱり数学よりも熱の方が個人の好みにはあう。

 とはいえ、組織を動かすにはこの本で書かれている市場調査などを踏まえた提案力・説得力が必要だろうと思う。苦手意識のない人なら、勉強してみる価値はある。専門的に深く入る前に、導入論的に読んでみる価値はあると思う。「ガンマポアソン・リーセンシー・モデル」という言葉に頭がクラクラする人でも、読んで学びが得られる一冊である・・・



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2017年01月24日

【これ、いったいどうやったら売れるんですか?】永井孝尚



第1章 腕時計をする人は少ないのになぜ腕時計のCMは増えているのか?
第2章 人はベンツを買った後どうしてベンツの広告を見てしまうのか
第3章 雪の北海道でマンゴーを育てる?-「商品戦略」と「顧客開発」
第4章 あの行列のプリン屋が赤字の理由
第5章 なぜセブンの隣にセブンがあるのか?-「チャネル戦略」と「ランチェスター戦略」
第6章 女性の太った財布には、何が入っているのか-「プロモーション戦略」と「マーケティングミックス(4P)」
第7章 きゃりーぱみゅぱみゅは、なぜブレイクしたのか?-「イノベーター理論」と「キャズム理論」
第8章 古本屋がふつうの本屋より儲かる理由-「マイケル・ポーター5つの力」と「競争戦略」

基本的に読書は、ビジネス系と小説系とに分けている。ビジネス系は仕事に役立てたいという理由からだし、小説系は純粋に趣味である。そんなビジネス系も、乱読のようでいてあるキーワードには黙って手が出るという傾向がある。その一つが「マーケティング」ある。そんなマーケティングについて、「身近なものからはじめて楽しみながらマーケティング理論がいつの間にか自然とわかるようにした」のが、本書だということである。そんな著者の肩書きは、「マーケティング戦略アドバイザー」となっている。

はじめに、「腕時計をする人は少ないのになぜ腕時計のCMは増えているのか?」というシンプルな問いがなされる。昔は時計といえば、「時刻を正確に知る」という理由であったが、今は「体力を強化する(ジョギング専用ウォッチ)」、「安全に登山する(登山専用ウォッチ)」、「グローバルでビジネスを成功させる(GPSソーラーウォッチ)」なのだという(個人的には「ファッション」だと思えてならないが・・・)。要は、時計によってどんな価値を得られるかということである。

それを「バリュープロポジション」というのであるが、それはまた「お客さんがお金を出す理由」であり、それを考えることが重要だとする。「徹底的にお客さんの立場に立って考えてみること」、「目を皿のようにしてまだ見ぬお客さんのニーズを見つけ出すこと」が必要だとする。この考え方は参考になる。自分の事業に当てはめてみるとどうなるであろうか、しばし考えて手が止まる。

続く顧客ロイヤルティの考え方は面白い。お客さんは何種類もいるとして、その種類を「潜在客」「見込客」「新規顧客」「リピーター」「贔屓客」「ブランド信者」としている。どのお客さんに価値を提供するかを考え、正しいお客さんを選びそのお客さんに常に期待を超える価値を提供し裏切らないこと、その蓄積がブランド価値を作るという。

また、南国のフルーツマンゴーを十勝で作っている例を挙げ、イノベーションを解説する。「真冬にトロピカルフルーツを食べたい」「口臭で人間関係を悪くしたくない」「加齢臭をなんとかしたい」というお客さん自身も気づかないニーズに対応することである。それを考える上で、商品中心のプロダクトアウトは失敗するとする。「お客さんの言いなりになると失敗する」という指摘は重要だ。

商売が収益を上げて継続でき、成功するかどうかは価格戦略次第、マーケティング次第だという。興味を持たない相手にいかに振り向いてもらうか。はなまるの他店期限切れクーポン作戦はなかなか鋭いと感心する。こうしたプロモーション戦略は異性と付き合うきっかけ作りと同じだという。それについては同感だ。

ビジネスで戦うためのたった3つの方法は、
1. 業界で最も低コストを目指す「コストリーダーシップ戦略」
2. 顧客の特定のニーズに対してベストを目指す「差別化戦略」
3. 狭い市場で徹底的な差別化を目指す「集中戦略」
だという。これらは戦略の基本事項として学んでいるが、改めて意識したいところである。

確かに著者の言う通り素人でもわかりやすい内容である。初心者にとっては手軽に基本を学べると言う利点がある。一方、ある程度の基礎がある人なら、自分の仕事に当てはめながら読むといいだろう。事実、自分もいろいろと事業を考えるヒントになったのは確かである。ビジネス系は、そう言うヒントになりそうなものを読みたいものだと改めて思わされる一冊である・・・



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2016年12月14日

【ビジネス・フォー・パンクス−ルールを破り熱狂を生むマーケティング−】ジェームズ・ワット



原題:BUSINESS FOR PUNKS

1章 戦う自由人のための起業論
2章 未来を見る反逆者のための財務論
3章 迷える子羊のためのマーケティング論
4章 新時代の破壊的パンクのためのセールス論
5章 野望に燃える海賊船長のためのチームビルディング
6章 ひたむきな自由人のための時空論
7章 パンク起業家の頭の中

著者は、イギリスで2007年にクラフトビール製造会社「ブリュードッグ」を創業した人物。設立から毎年黒字を計上し、創業者2人と犬一匹で始めた事業は売上高3万ポンドから今や5,000万ポンド(70億円)に至り、従業員も800人以上になっているという。スコットランドの寂れた工業団地の一角にある倉庫で創業した会社が成功を収めた要因は、パンクの精神と哲学だというが、それを語った一冊である。

会社を始めるには、確かな意義=使命が必要だとするが、その使命は「自分たちと同じくらい世の人々をうまいビールに夢中にさせる」ことだという。実にシンプルでわかりやすい使命である。起業にあたっては、自分が情熱を注げる事をしよう、明確な使命を持とうというが、これはどんな事業でも普遍的に当てはまる事だと思う。

パンクロックとは、ただやかましいだけというイメージしかない私には、「パンクロックの精神」なんて言われてもピンとこない。しかしながら、それは「規制秩序の破壊、権威の否定、体制への反抗、虚飾がなくストレート」と解説されと、なんとなくしっかりとしたイメージになってくる。「人の話など聞く必要はない」「自己流でやるべき」「事業計画なんて時間の無駄」などという主張は、それらしい。しかし、それらの特徴は、実はビジネスにはピッタリだとも思う。

「ブリュードッグは商売ではなく、革命」だとする。立ち上げから数年は、売上高を大きくするより、全人類が手を伸ばすような世界レベルのビールを作ることだけに力を入れ、営業は忘れたらしい。このあたり「いいものを作ってさえいればいい」として、売る事を考えなくて衰退した職人の失敗とは相対立する考え方だ。まぁ、真理は必ずしも一つではない。

「顧客ではなく、ファンを作れ」ということは、これができれば強いだろうと思う。事実、ブリュードッグは資金調達に際し、自社のウェブサイトで株を売る手法を取り入れたという。そして3万人以上から1,500万ポンド(20億円)を集める。こういう株主は、まず株を売らないし、著者も「投資家とは思っていない、コミュニティーだ」と語る通り、これほど強力で確実な資金源はないと思う。

さらに販売活動には3つのルールを設けているという。
1. 商品に集中する
2. 隠さずに誠実に
3. 価格競争はしない
そんなところも、強固な支持層を作っている所以かもしれない。

そして何より「社員が愛着を感じないような事業では顧客はそもそも見向きもしてくれない。まず社員のことを考え、顧客のことはその次に考えればいい」とする考え方には、激しく同意してしまう。顧客のことを考えれば、なおさらであると思う。

事業であるから、苦労・困難はあったと思う。しかし、そこは「冷徹な楽観主義」で乗り越えたようである。「問題なんて問題じゃない」「本物の難題に直面している時にしか本当の人格は見えてこない」「自分を信じ、妥協せず、勇気を持って自分のアイデアで信念を実現する」これらの言葉は、困難に陥った時に勇気を与えてくれそうである。

タイトルにあるパンクだが、あまり意識しなくても普通に心に入ってくる。一つの考え方であって、起業に対する情熱は特殊なものではなく、誰でも持とうと思えば持てるものである。サラリーマンであっても、その精神は真似できるであろう。
ブリュードッグのクラフトビールを飲んで、著者のパンクの精神を味わってみたいと思わせられる一冊である・・・

ブリュードッグ.jpg


   
      

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2015年01月18日

【視覚マーケティングのススメ】ウジ トモコ



第1部 少ない投資で大きく儲けるデザイン戦略
PART1 デザインで「商品・サービス」力を上げる
PART2 デザインで「価格」を上げる
PART3 デザインで「売上」を上げる
PART4 デザインで「顧客満足度」を上げる
PART5 デザインで「広告・宣伝」効果を上げる
PART6 デザインで「マネジメント」を変える
第2部 デザイン・センスを磨く5つのポイント
POINT1 文字
POINT2 レイアウト
POINT3 配色
POINT4 トーン&マナー
POINT5 コピー

最近はあらゆる業界で「デザイン」の重要性が説かれている。
そんなこともあって、アンテナを張っていたところ目についたのが本書。
「デザイン」という代わりに「視覚マーケティング」という言葉を使っているところが興味深い。

デザインによってぱっと見た目が変われば、それだけで印象も違う。
それはもう言うまでもない。
だが注意しないといけないのは、デザインを発注する目的。
ブランディングのためなのか、アドバタイジングのためなのか、プロモーションのためなのか発注者自身もよく意識しておかないといけない。

また、広告に対しては何を期待するのかを決めないといけない。
相手を「つかむ」のか、相手を「引く(引いてくる)」のか。
それは「驚かせる」、「感心させる」ということでもある。
中小企業の場合は、「感心」の方が重要である。

デザインの重要性を認識したあとは、デザイン・センスを磨かなければならない。
それは「文字」「レイアウト」「配色」「トーン&マナー」「コピー」に分けられる。
この中で分かりにくいのは「トーン&マナー」。
これはその企業なりサービスに漂う“雰囲気”とか“世界観”と言えるもの。
言葉ではうまく表現できないがゆえに、難しいものがある。

もともとデザインなどは本を読んで学ぶというものでもない。
ゆえに本を読んで学ぼうとするのが、そもそも矛盾していると思う。
トーン&マナーと言われて、何となく理解できるが、では自社のそれは何かと聞かれても答えられない。
重要性は理解できても応用ができない。
そんなもどかしさがデザインにはある。
読んで何を得られたかというと難しいものがあるが、仕方ないのかもしれない。

引き続き感心だけは持ち続けたいと思うところである・・・

posted by HH at 17:37| Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月17日

【100円のコーラを1000円で売る方法】永井孝尚



Round1 アメリカの鉄道会社はなぜ衰退したのか?
Round2 「お客さんの言いなりの商品」は売れない?
Round3 顧客の願望に100%応えても0点
Round4 値引きの作法
Round5 キシリトールガムがヒットした理由
Round6 スキンケア商品を売り込まないエステサロン
Round7 商品を自社で売る必要はない
Round8 100円のコーラを1000円で売る方法
Round9 なぜ省エネルックは失敗してクールビズは成功したのか
Round10 新商品は必ず売れない?

著者は日本IBMのマーケティング・マネージャーとの事。
サブタイトルに「マーケティングがわかる10の物語」とあるように、物語仕立ててでマーケティングが学べる一冊である。

この手の本では、例えば三枝匡の 「V字回復の経営」などを読んだ事があるが、物語仕立てとなる事で、難しい理屈でもスムーズに頭に入ってくるという利点がある。
内容はどちらかと言えば初心者向けであるが、手軽に読めるし、マーケティングをかじった人でも復習としていいのではないかと感じた内容である。

舞台となるのは会計ソフトウェアを専業とする駒沢商会。
物語は、主人公となる宮前久美子が営業から商品企画部へ転勤してくるところから始る。
転勤早々、商品企画部の面々に向かって、「この会社の商品はガラクタ」と言い切ってしまうというかなり強烈なキャラクターである。

そしてその前に立ちはだかるのがベテランの与田。
鼻っ柱の強い久美子の安易な提案を、尽く論破していく。
その過程で、化粧品を例に「市場志向」と「顧客志向」、アメリカの鉄道会社がなぜ衰退したか、何でもお客さんの言う通りにしていればいいという事ではないという事が語られる。

その他、久美子の提案の穴をつく感じで、「マーケット・チャレンジャーとマーケット・リーダーの戦略」、「バリュープロポジションとブルー・オーシャン戦略」、「競争優位に立つためのポジショニング」「チャネル戦略とWin-Winの実現」などの理論がわかりやすく説明されていく。
どれも一冊の本になるくらいの理論だが、久美子の存在によって簡単に理解できてしまう。

本のタイトルは、リッツカールトンで出されるルームサービスのコーラから来ている。
同じコーラでも、自動販売機とリッツカールトンのルームサービスとで10倍もの価格差が生まれ、それが正当化される。
けっして屁理屈ではないマーケティングの重要性が理解できる。

いつのまにかシリーズ化されているこの本だが、初心者向けとバカにするのは適切ではないかもしれない。
与田になったつもりで、久美子を指導できるかどうか、そこまで理論が身についているかどうかと考えてみれば、基礎を学び直す意味でもさらりと読んでみるのも良いかもしれない。

続編も読んでみようかと思う一冊である・・・
   
   
posted by HH at 21:27| Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする