2015年05月30日

【ペテロの葬列】宮部みゆき 読書日記547



宮部みゆきは、『火車』『レベル7』といった初期の頃から贔屓にしている作家である。
その作風も、ミステリーから時代劇と幅広く、面白い作家だと思う。

そんな宮部みゆきの最新作は、『誰か―Somebody』『名もなき毒』に続くシリーズモノである。
と言っても、前作から8年も経つと、ストーリーもだいぶ忘れてしまっている。

主人公は杉村三郎という今多コンツェルングループ広報室に努めるサラリーマン。
といっても、ただのサラリーマンではない。
グループ会長の娘婿という表には出ない肩書きを持って社内に通じている人物。
いわゆる「逆玉の輿」を実現した男である。

そんな杉村は、広報の仕事で上司とともに千葉に隠居する元取締役を訪ねていく。
インタヴューが終わり、帰路に就くが、帰りの田舎のバスで何とバスジャックに遭遇する。
犯人は、驚くことに老人。
だが銃を所持しており、老人と言えども侮れない。
老人の要求通り、廃工場に止められたバスで人質になる杉村他の乗員乗客。

老人はある3人の人物を名指しし、連れてくるように要求する。
老人の弁舌に引き込まれていく杉村ら人質のメンバー。
やがて事件は警察の突入と老人の自死とによって幕を閉じる。
一見落着かと思われていた矢先、杉村ら人質たちに、いずこらか「慰謝料」が送られてくる。
それは老人がバスの中で人質たちに約束していたものであった・・・

バスジャック事件とその余波を物語の主軸として、さまざまな枝軸を加えてストーリーは進む。
バスジャック事件人質たちのストーリー、『名もなき毒』で登場した私立探偵北見の家族を巡る事件、杉村が調査で出会う人たちの物語。
そういう幾重にもわたる物語を加えながら、主軸のドラマが進んでいくから、この本も分厚いものとなる。
もっとも最後のドラマだけは、なくても良かった気もする。

気がつけば、物語の世界に引き込まれていた。
今回は「詐欺」が一つのキーワードとなっている。
豊田商事事件とは、もう随分前の事件だが、いまだにオレオレ詐欺に代表される詐欺事件は後を絶たない。
やや強引とも感じる最後の方の物語の展開。
詐欺事件との関連から、結論めいたものを導くためだったかもしれないが、不自然さを感じたところがあった。

仔細なところはともかく、全体としては十分面白い。
やはり宮部みゆきは、このシリーズや『模倣犯』などのようにややダークな事件が絡んできた方が面白いと思う。
このシリーズ、さらなる続編はあるのだろうか。
あるとしたら、もう少し短い間隔でないと、登場人物たちの繋がりを覚えておけない。
それだけをこっそりお願いしたい、と思わずにはいられない作品である・・・

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2014年01月30日

【ソロモンの偽証第V部 法廷】宮部みゆき 読書日記397




いよいよ第3部。
城東第三中学校の体育館で学校内裁判が開始される。
主役は3年生の生徒たち。
先生たちや親たちや、刑事の礼子もジャーナリストの茂木も傍聴にやってくる。

判事を務めるのは、学年トップの秀才井上。
その井上が開廷宣言をする。
検事はこの物語の主人公とも言うべき藤野涼子。
弁護人は、他校の生徒である神原和彦。
期間は5日間である。

裁判とは言ってもそこは中学生のそれ。
実際の裁判ほど厳格ではないが、そうは言っても「中学生にこんな発言はできないよなぁ」というシーンが幾度も出てくる。
それはそれ、フィクションの世界と割り切ってみるつもりではあるものの、やっぱり気になってしまう。
性格だろうか。

次々に登場する証人。
やはり「告発状」を書いた生徒の証言とか、物語の核心に近い人物の証言は興味深い。
様々な証人たちの証言が組み合わされて、事件の姿が次第に浮かび上がってくる。
やがて中学生を主人公に据えた事が、裁判の形に自由度をもたらせている事に気がつく。
普通ならあり得ないパターンも、この形なら許される。

クライマックスに大きな爆弾が仕込まれていそうな気がしていたが、やはり案の定、一度、二度と爆発する。
気がつけば、不思議と感動モードに入っている。
最後の陪審員判決は心温まる内容だ。

3冊でそれぞれ700ページを越える大作で、読むのに骨が折れた。
書く方もよくぞここまで書いたものだと思う。
宮部みゆきは、いろいろなテイストの小説を書く。
ミステリーだったり、時代劇だったり、この小説のような何のジャンルか良くわからないようなものだったり。
それぞれに特色がある。

今度はどんな作品が出てくるのだろう。
ちょっと楽しみにしたいと思う・・・
   

  
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2014年01月12日

【ソロモンの偽証第U部 決意】宮部みゆき 読書日記395



『ソロモンの偽証 第I部 事件』に続く第U部。
前回は事件のイントロ。
城東第3中学校の屋上から一人の生徒柏木卓也が飛び降りて自殺した事に端を発し、物語が進展する。
ついにはもう一人の同級生浅井松子が事故死するに至り、主人公藤野涼子はある決意をする。

時に1991年夏。
3年生の卒業課題として、自分たちの学校で起こった事件の疑惑を晴らすべく、藤野涼子は学校内裁判を提唱する。
果たして柏木卓也は、大出俊次に殺されたのか。
中学生の裁判に、何の拘束力もないのは事実ではあるが、自分達で疑惑を晴らそうというもの。

始めは、誰も嫌われ者の大出俊次の弁護などやりたがらないだろうと、涼子自らが弁護人を希望する。
しかし、そこに柏木卓也と同じ塾に通っていたという神原和彦が現れ、弁護人となる。
先生たちの反対を押し切り、裁判は実現に向けて動き出す。
夏休み中の5日間、学校の体育館で開かれる学校内裁判。
第U部は、そこに向けた生徒たちの動きが綴られていく・・・

なかなか面白い発想のストーリー。
気がつけば715ページを一気に読んでしまっていた。
この手の小説を読む場合、普通は主人公に感情移入し、あたかも自分が主人公になったかの如くストーリーを追いかけるものなのかもしれないが、さすがに中学生が主人公となるとそうもいかない。
「大人の目」で物語を追いかけてしまう。

そうすると、必然的に気になってしまう。
みんな中学生なのに、やけに実際の裁判の事に詳しいな、と。
あたかも実際の裁判官や検事や弁護人の如き言動。
49歳のおじさんだって言えないような言動が出てくると、どうも中学生という設定に違和感を覚えてしまう。

そこは、「頑張って」気にしないように努めて読み進めていく。
物語には当然大人たちも登場する。
藤野涼子の両親。
父親は警察官である。
津崎校長、担任の森内先生。
ジャーナリストに大出俊次の両親に弁護士。
そして重要参考人となる三宅樹里の両親。
大人たちの言動は、感情移入とは別に、よく「理解できる」。
さすが大人同士。

いつのまにか、子供たちの学校裁判を見守る立場で読んでいる事に気づく。
順調に進むかに思われた裁判だが、何だか思わぬ方向に進んでいきそうな気配が漂う。
引き続き、第V部に期待したいと思う・・・


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2014年01月05日

【ソロモンの偽証第T部事件】宮部みゆき 読書日記393



宮部みゆきの長編3部作の第1部。
ページ数は第1部で741ページとかなり読み応えがある。
前知識なしで読み始めたため、どうなるかわからない展開がなかなかいい。

冒頭、何やら意味あり気なエピソードが出てくる。
クリスマス・イヴの晩。
一軒の電気屋の前の公衆電話ボックスに佇む一人の男の子。
時は1990年。
まだ携帯電話のない時代である。
このエピソード、きっとあとで何かで出てくるのだろうと思う。

そして舞台は変わる。
物語の中心となるのは城東第三中学校。
一人の生徒柏木卓也がクリスマスの朝、学校の裏庭で死んでいるのが発見される。
発見したのは、同級生の野田健一。
そして、物語の主要メンバーが登場する。
同じ同級生で、刑事を父に持つ藤野涼子、幼馴染み同士の倉田まり子と向坂行夫、三宅樹里と浅井松子のコンビ、問題児の大出俊次、井口充、橋田祐太郎等々。

長編のスタートとあってそれぞれの登場人物たちが紹介される。
中学生たち以外にも、少年課の刑事、校長先生以下の教師、デレビ局のレポーター、各生徒たちの家族。
それぞれ順番に登場し、一人の生徒の死を巡る背景が描かれていく。

よく学校の問題としていじめが取り上げられるが、ここでもそれは出てくる。
そして隠ぺい体質と言われる学校の事情も描かれる。
確かに、外部から見れば隠ぺい体質と言われても仕方ないが、それでも学校側には学校側の事情がある。
生徒のプライバシーに関しては、公表などできない。

警察の事情、ありがちな保護者と学校の関係。
個人的には物語の背景となるこれらの事情が興味深いところであった。
そして柏木卓也の死を巡る疑惑が出てくる。
自殺なのか他殺なのか。
ストーリーが幾重にも織り込まれていく。

織り込まれた糸が、最後にどのような全体像を見せてくれるのであろうか。
この後を楽しみに読みたいと思う・・・

   
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2011年02月25日

【長い長い殺人】宮部みゆき 読書日記139

長い長い殺人 (光文社文庫) [文庫] / 宮部 みゆき (著); 光文社 (刊)
     
ふらりと手に取った一冊。
宮部みゆきはミステリーを書きつつ、時代物も書き、冒険ものもこなすといった多才さを持っている。
でもやっぱりジャンルで言えば、ミステリーが一番好きである。

この物語はある殺人事件をテーマにしているが、ちょっと変わっている。
それは物語の語り手が「財布」というところだ。
この発想が面白い。
財布だから大概はポケットに入っているわけで、したがって直接「見る」というよりも「聞く」事によって知った事を語っていくのである。

それも一つの財布ではない。
「刑事の財布」、「強請屋の財布」、「少年の財布」、「探偵の財布」・・・と全部で11の財布が登場する。
そしてそれぞれの財布もまた個性があって、語り口もそれぞれの個性に合わせたものとなっている。

語り手が財布だからと言って、違和感は何もない。
まあ映画化でもしたら難しいのかもしれないが、読む上では気にならない。
ごくごく普通にストーリーに引きこまれていくのである。
この本の特徴はこの語り手だけかもしれない。
ストーリー自体はそれほど面白味があるとは思えないからだ。

冒頭で殺人事件が起こる。
殺された男の妻に不倫疑惑が起こる。
そして相手の男の妻もまた事故で死んでいる。
保険金目当ての交換殺人ではないか。
二人は瞬く間に疑惑の人となる。

そしてあらたに男の二番目の妻となった女性と二人に絡む女性が殺される。
4つの殺人事件の関連は?
そして疑惑の結末は?
それを財布たちが語ってくれる。

実はこの本は宮部みゆきの初期の作品だと言う。
けっこう読み逃している作品が多いのだな、とあらためて思う。
そう言えば「火車」も昔読んだが記憶が薄れてきている。
もう一度読み返してみるのも面白いかもしれない、そんな風に思わせられた一冊である・・・


    


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2010年08月21日

【日暮し】宮部みゆき 読書日記93


     
現代ミステリーと時代劇と二つのジャンルで活躍する宮部みゆき。
「時代劇はちょっと・・・」と敬遠する向きも多いと思う。しかし、時代劇に抵抗がない人にとっては、宮部みゆきの時代劇もまたオツなものである。本作は、 「ぼんくら」の続編である。したがって、登場人物はそのまま 「ぼんくら」の人物が、エピソードを引きずって登場する。 「ぼんくら」を読んでいないとしっくりとこなかったりするかもしれない。

最初に短編的なエピソード、「おまんま」「嫌いの虫」「子盗り鬼」「なけなし三昧」が続く。それぞれ独立したエピソードである。そうして、 「ぼんくら」とそれらのエピソードが統合されて、「日暮らし」という長編エピソードへと続いていく。

時代劇と言っても刀を振りまわすチャンバラシーンは一切出て来ない。
同心として唯一刀をさしている主人公の井筒平四郎だが、彼も 「ぼんくら」と呼ばれる通り、刀を振りまわすほど覇気に満ちた人物ではない。
そうしたところが、ストーリー全体にわたるほんわかした雰囲気を醸し出している要因かもしれない。

豪商湊屋を元にした出来事が周囲に波及していく。
描かれる人間模様は現代と変わらない。
読んでいると江戸の下町の情景が頭に浮かんでくる。
今と違って将来の保証など何もない時代。
みんなその「日暮らし」。
のどかでもあり、厳しくもある。

湊屋の主人にあてがわれた郊外の邸宅で暮らす葵が殺される。
現場に居合わせたのは小さい頃訳あって別れ別れになった子供の佐吉。
この時代らしく湊屋の手配で事件は表に出ないで終わる。
同心や岡っ引きに金を払って頼めば、お咎めなしとなって身内から犯罪者を出さなくて済む。事件はそれで終わっても良かったのだが、佐吉の無罪を信じる平四郎と甥の弓之助が事件の解決に乗り出す。

江戸の情景を思い浮かべ、下町の人たちの人情に触れながらストーリーを追う。
スリリングな現代ミステリーとはスピード感がまるで違うが、こういう味わいがあってもよい。
二つの世界を描き分ける宮部みゆきという作家はやっぱり面白いと思う一冊である・・・



日暮らし(中) (講談社文庫)

日暮らし(中) (講談社文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/11/14
  • メディア: 文庫



日暮らし(下) (講談社文庫)

日暮らし(下) (講談社文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/11/14
  • メディア: 文庫






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2010年07月20日

【ぼんくら】宮部みゆき 読書日記87


ぼんくら(上) (講談社文庫)

ぼんくら(上) (講談社文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/04/15
  • メディア: 文庫




ぼんくら(下) (講談社文庫)

ぼんくら(下) (講談社文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/04/15
  • メディア: 文庫



    
 良質のミステリーを生み出すかと思えば、一転して時代劇の世界にも踏み出してしまう宮部みゆき。これは良質のミステリーに対するもう一方の世界である時代劇の物語である。

 「ぼんくら」とは主人公である同心平四郎の事。
名前の通り家業を継ぐ必要のない四男坊であったのが、兄の死などによってお鉢が回ってきてしまい、同心になったという生い立ち。
めんどうはなるべく避け、日々つつがなく暮らしたいと考えている。
そんな彼だからこそ「ぼんくら」なのである。

 さて、舞台となるのは鉄瓶長屋と呼ばれる長屋。
江戸の長屋と言えば庶民の代表的な住居。
建物自体はあちこちで目にした事があるが、人々の暮らしぶりというとそうもいかない。
ストーリーはともかく、そんな長屋の暮らしぶりが事細かく描かれていて、江戸風物詩ともいうべき部分にも興味がいってしまった。

 例えば各長屋には、ここでは重要な役割を持つ差配人という役職の人がいて、担当長屋の細々とした事を大屋になり代わって担っていた。
差配人は人生経験豊富で、すなわちそれなりの年齢の人がなるのが慣例で、店子が出ていく、入ってくるとなると忙しくその手配をしたり、店子にもめ事があれば相談に乗り、などの役割を果たしていたらしい。
さらに便所の肥は農家に売るのだが、その代金は差配人のものになる、などといった風俗習慣の数々はなかなか興味深い。

 宮部みゆきの時代劇ものはこれが初めてではないが、以前読んだ「幻色江戸ごよみ」も「初ものがたり」も派手な剣劇は登場しない。
庶民の日常の中での出来事が中心となっている。
ここでも平四郎が刀を抜く事はないし、ちょっとした捕り物シーンが申し訳程度に出てくるだけである。それが宮部流時代劇の味わいなのかもしれない。ちなみに、「初ものがたり」に出てくる岡っ引きの茂七親分は、この物語でも名前が出てくる。こうした人物相関もまた面白い。

 舞台となる鉄瓶長屋で起こった殺人事件。
ところがそれが身内によるものと判明。
責任を感じた差配人が姿を消し、そこから物語はさまよい始める。
いったい何が起こっているのか、それがわからない。
読み手も平四郎とともに謎解きに付き合わないといけない。
しかし、謎解きといってもミステリーと呼べるようなものでもなさそう。

 いったいこれは事件なのか、なんなのか。
真相はどうなっているのか。
大事件が起こっているわけでもなさそうなのだが、真相だけは気になる。
そしてエンディング。
江戸庶民の暮らしに触れてみながらちょっとした謎探しができる、そんな小説は藤澤周平とはまた違った魅力を感じるのである。
 これからも楽しみに味わっていきたいと思わせてくれる一冊である・・・




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