2017年04月12日

【恋のゴンドラ】東野圭吾



ゴンドラ
リフト
プロポーズ大作戦
ゲレコン
スキー一家
プロポーズ大作戦 リベンジ
ゴンドラ リプレイ

東野圭吾の「ゲレンデ」シリーズとでも言える一作。というのも、舞台となっているのが『雪煙チェイス』で舞台となった里沢温泉スキー場であり、『白銀ジャック』と合わせて両作品で登場したパトロールの根津が出てくる(といってもこの作品では脇役である)からである。

しかし、両作品とちょっと雰囲気が異なるのは、この作品は東野圭吾得意のミステリーではないのである。「誰も殺されない」のである。その代わりに展開されるのは男女8人の恋模様。今までの東野圭吾とは一味違うものである。

最初の「ゴンドラ」は、里沢温泉スキー場のゴンドラが舞台。広太は美雪と同棲していて、結婚の話も出ているが、知り合った桃実と二人で一泊のスキー旅行に来ている。美雪との付き合いが描かれる一方で、広太の思いは早くもその夜におよぶ。そして2人で乗り込んだゴンドラに女性4人のグループが乗り込んでくる。そして広太は、そのうちの1人に気がつき愕然とする・・・これはなかなか男の心理としては恐ろしいシチュエーションで、読みながら背筋が寒くなった。

「リフト」は、ゲレンデにやって来たホテルの同僚5人の物語。水城直也は密かに木元秋菜と付き合っている。そして日田栄介は、土屋麻穂に好意を抱いている。女性の扱いがうまい水城は下手な日田のためにひと肌脱ごうとするが、肝心の麻穂は・・・水城も日田もこういうタイプいるよなぁと思わせられる。

「プロポーズ大作戦」は、日田がようやく付き合い始めた美雪に、わずか3ヶ月で早くもプロポーズしようとする。それにふさわしいシチュエーションを水城に相談し、水城はゲレンデを舞台に一計を案じるが・・・
「ゲレコン」は、水城と日田が「ゲレンデでの合コン」に参加する。そこで知り合ったのは、高校時代の友人同士である弥生と桃実。4人はゲレコンのイベントの中で知り合い、ゲレンデで楽しいひと時を一緒に過ごすが・・・

「スキー一家」は、結婚した月村春紀と麻穂が、麻穂の両親とスキー旅行に参加する。麻穂の父親は大のボーダー嫌い。自らボーダーであることを隠して春紀は慣れないスキーをする・・・「プロポーズ大作戦リベンジ」は、日田と桃実を「くっつけ」ようと企む水城と弥生。しかし計画は思わぬ展開をみせる・・・

「ゴンドラリプレイ」は、日田と桃実の関係が接近していく様子が描かれ、そして冒頭と同じように広太らと一緒になる。そしてまた同じようなシチュエーションとなっていく・・・どれもこれもがゲレンデを背景に爽やかな若者たちの有様が描かれる。死者は出ないものの、やはり先を読ませず意外な展開を見せてくれるのは、どこか東野圭吾的である。こういうのもいいかもしれない。

それにしても、東野圭吾はスノーボードが好きなんだろうなと感じさせる。それが何より証拠の「ゲレンデ・シリーズ」であり、描写の1つをとってみてもそう感じさせる。こういうのもアリではないかと思う。今後、こういうテイストの作品が増えるのかどうかはわからないが、これはこれで読んでみたいと思う。

いずれにせよ、これからも東野圭吾作品の感想が増えていくことは間違いないと思うところである・・・



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2017年03月28日

【危険なビーナス】東野圭吾



東野圭吾の作品をまた一つ。今回の主人公は、獣医の手島伯朗。町の医院の雇われ先生で、助手の蔭山元美と二人で細々と診療を行なっている。そこへある日突然、若い女性から連絡がある。女性は矢神楓と名乗り、弟の明人と結婚したと告げる。そこから、伯朗と明人は異父兄弟であること、伯朗の父一清は画家であったが病死し、母禎子が明人の父矢神康治と結婚し明人が生まれたという事情が語られる。

さらに伯朗は、楓から明人が失踪したと告げられる。そしてその失踪には矢神家の人間が関与している可能性があり、まだ結婚の事実も告げていない楓の身では探ることも難しく、したがって伯朗に協力してほしいと求めてくる。実際に会った楓は、カーリーヘアの魅力的な女性で、伯朗は疎遠だったとはいえ弟の妻という身を忘れて惹かれていく。

こうして、伯朗は楓とともにかつて関わりを絶ったつもりでいた矢神家の人々と再び交わるようになる。矢神康治は病床にあって明日をも知れぬ身。医師であった康治は、かつて伯朗の父一清の治療をしていたこともあり、最後に描いていた不思議な絵が物語のキーとなってくる。

康治が研究していたのは、サヴァン症候群と呼ばれる精神疾患。映画『レインマン』でダスティン・ホフマンが演じて有名になったが、患者は時として不思議な能力を発揮する。『レインマン』では、ダスティン・ホフマン演じる男が床に落ちたマッチの数を瞬時に言い当ててみせたが、ここではフラクタルと呼ばれる全体の形と細部が相似となった不思議な絵として取り上げられる。こういう雑学も身について面白い。

物語は、伯朗の過去に触れつつ、それがもたらす謎に興味をもたせつつ、楓という若い女性のこれもまたどこか謎めいていて、読みながら作者の隠された意図を探り出してやろうと思わされるキャラクターに惹かれつつ、進んでいく。東野圭吾の作品はどれもこれも物語に引き込まれていく。電車の中で読めば、最低一度は乗り越してしまうこと確実である。

ラストに至る急展開は、さすがに素人に先読みさせるほど甘くはない。謎もすっかり解きほぐしてくれて、なるほどと唸らせてくれる。何を読んでもきっちり満足させてくれるところは、さすがだと思う。文句はないのだが、そろそろガリレオ先生か加賀恭一郎に登場してほしいと思うのは、私だけであろうか。

次をまた期待したいと思うのである・・・



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2017年03月23日

【雪煙チェイス】東野圭吾



東野圭吾の新作であるが、タイトルをみれば「スキー(スノボー)関係」だとわかる。そういえば、過去にも『カッコウの卵は誰のもの』『白銀ジャック』があったなと思っていたら、読み進むうちにこれは『白銀ジャック』の続編なのかと思うようになる。というのも、登場人物の名前が同じだからである。

冒頭、新月高原スキー場(『白銀ジャック』で舞台となったスキー場である)で主人公の脇坂竜実がスノーボードを楽しんでいる。そして一人の女性ボーダーの写真を撮ってあげる。これがのちに竜実のアリバイになるための重要な出来事になる。もちろん、この時点では本人も知る由も無い。ただ、その美人ボーダーを誘い損なったことを後悔するだけである。

東京に戻った竜実。しかしその頃、かつて犬の散歩のアルバイトをしていた家の主人が殺されているのが発見される。実はその前日、現地を訪ねていた竜実は近所の人に目撃されており、しかも隠し鍵に指紋が残っていたことから、重要参考人としてマークされる。友人からその事実を知らされた竜実は、法学部の友人波川のアドバイスで警察に出頭するよりアリバイを証明してくれる女性を探すことを選ぶ。

わずかな手掛かりから、里沢温泉スキー場へと向かう二人。一方、所轄署の刑事小杉は、同僚の白井とともに竜実ら二人のあとを追う。事件は殺人事件であり、警視庁捜査一課が捜査本部を設置して捜査をすることになるが、捜査一課の同期課長を出し抜きたいと考えた所轄の刑事課長が密かに小杉たちを動かす。警視庁と所轄の手柄の奪い合いが水面下で進行する。

そして舞台は、里沢温泉スキー場へと移動するが、ここでは町をあげてスキー場ウエディングの準備が進んでいる。そこでパトロール隊の隊長をしているのが、根津昇平。『白銀ジャック』に出てきた根津と同一人物なのだろうと思うが、長岡慎太、成宮莉央、成宮葉月、瀬利千晶と言った面々が絡んでくる。

迫り来る警察の捜査網、アリバイを証明してくれる「女神」を探し求める竜実と波川。その展開がスリリングである。例によって電車の中で読んでいたら乗り過ごしてしまった。後半では、自らを駒と諦めて命じられるままに動いていた小杉刑事が、刑事としての本来の職務に目覚める。後味の良さもある物語。最後まで一気に読んでしまった。

相変わらず、ハズレのない東野圭吾作品。読まないのは損失だと言い切れる作家らしい作品である・・・



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2016年09月14日

【人魚の眠る家】東野圭吾



第1章 今夜だけは忘れていたい
第2章 呼吸をさせて
第3章 あなたが守る世界の行方
第4章 本を読みに来る人
第5章 この胸に刃を立てれば
第6章 その時を決めるのは誰

東野圭吾の新しい本をまた一冊。この人の本を読まないという選択肢は私にはないと断言できる。しかし、今回の一冊は、ちょっと今までと違ったテイストである。
舞台となるのはある家族。一家の主人播磨和昌は、先端技術を開発している株式会社ハリマテクスの社長。ハリマテクスではBMI(ブレーン・マシーン・インターフェース)と呼ばれる脳と機械を繋ぐシステムを開発している。これを使うと、全盲の人が杖なしで歩けたり、義手でモノを不自由なく掴めたりできたりするものである。そして和昌には、妻薫子との間に娘の瑞穂と息子の生人がいる。

ある日、プールに遊びに行っていた瑞穂が溺れ、救急病院に緊急搬送される。治療の甲斐なく、医師は無情にも意識が回復することはないと告げる。そして呆然とする播磨夫妻に、瑞穂の臓器提供の意思を確認し、脳死判定のシステムを説明する。やがて臓器提供の意思を固めた夫妻だが、瑞穂の体のわずかな反応に、妻薫子は治療継続に方針転換する。

和昌の会社の技術で、瑞穂は意識が戻らないまでも、体の各部を動かすことにより健常児のように体は成長する。そして夫妻を取り巻く人々。薫子に密かに思いを寄せつつ、技術者としてBMIのシステムを瑞穂に利用する星野。播磨家に通う訪問学級の教師新章房子。背景に臓器移植の我が国の問題点が描かれる。

東野圭吾の小説というと、ついついミステリーをイメージしてしまうが、これはガチンコのドラマである。「人間の死を何によって定めるか」というテーマが根底に流れる。脳死は人の死と認められているが、では脳死した人間を刺して息の根を止めたらそれは殺人になるのか。死んでいる者なら殺すことはできないわけで、なかなか難しい問題である。

臓器移植によってしか助からない人たちがいて、特に子どもの臓器提供は我が国ではまだまだ少ない。提供があるということは、どこかで子供が死んだということ。提供を望むということは、どこかで子供が死ぬことを期待するということ。多くの国で渡航移植が禁止される傾向があり、今や日本から臓器移植で渡航できる国はアメリカぐらいであること。それにも5%ルールがあることなどがさりげなく語られる。読む者は、こうした問題を自然と考えさせられる。

この問題を早いうちに国民的な議論とし、解決をはからなければならないという著者のメッセージなのかもしれない。技術の進歩は、いずれハリマテクスのBMIを実現化するのだろう。それと合わせて、我々の倫理と意識の問題も解決しなければならないのだろう。意図的にメッセージとして発信しているのだとしたら、物語に姿を借りてなかなかうまいと思わせられる。

そうしたことを抜きにしても、ストーリーとして十分に面白い。やはりこれからも必読書たりうるだろう。次も楽しみにしたい一冊である・・・


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2016年04月11日

【ラプラスの魔女】東野圭吾



新作が出たら読まずにはいられない作家東野圭吾。
これはシリーズものではなく、単発もの。
どちらでもそれなりに楽しませてもらえるのがいい。

冒頭、竜巻が起こり、ある母子が巻き込まれる。
いつも意味ありげなスタートは変わらない。
所変わって元警察官の武尾が、ある人物のボディーガードに採用される。
ある人物とは、一人の少女円華。
円華は普通の少女ながら、不思議な現象を引き起こすのであった。

一方、赤熊温泉で一人の男が死亡する。
男は初老の映画プロデューサー。年の離れた二十代の若い妻との旅行に訪れていての出来事だったが、多額の生命保険にも加入しており、保険金殺人の疑いもある。しかし、死因は硫化水素中毒で、温泉地の火山性のものとも考えられ、単なる不運な事故とも言えるが、現場に窒死量の硫化水素が発生した痕跡もなく、専門家の学者青江に調査依頼がくる。

さらに赤熊温泉から遠く離れた苫手温泉でも、無名の役者が山中で硫化水素中毒により死亡する。やはり温泉地ではあるものの、窒死量の硫化水素が発生した形跡はない。調査に訪れた青江は、そこで赤熊温泉でも見かけた女性を目にする。偶然とは思えぬ遭遇に、思わず声を掛ける青江。女性は羽原円華と名乗る。

二つの硫化水素事故と謎の女性円華とその取り巻き。
事件を調査する青江。
途中で浮上した天才映画監督甘粕才生とその息子謙人。
少しずつ全てが絡み合いながら物語は進んでいく。
バラバラのピースが少しずつ組み合わされて行くがごときストーリー展開は、さすがである。

ちょっとSFチックなテイストが入るのは、『プラチナデータ』と似ているところがある。円華と謙人との「能力」がタイトルにもつながるのであるが、もしもこんな能力が身についたら、と想像は膨らむ。
物語以外にも楽しませてくれるところがある。

こうした単発ものも、読み終わってみれば「また次も」と自然に思える。
なかなか時間もない中、まだ読んでいない作品もあってもどかしいところもある。
まだまだ読み続けたい東野圭吾である・・・
   
   
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2015年07月13日

【マスカレード・イブ 】東野圭吾



それぞれの仮面
ルーキー登場
仮面と覆面
マスカレード・イブ

似たようなタイトルだと思っていたら、実はそれもそのはず、『マスカレード・ホテル』の続編だということであった。
「続編」と言っても、時系列からすると、この本は『マスカレード・ホテル』の前日譚にあたる物語である。
(だから、「イブ」なのだと思う)

『マスカレード・ホテル』で舞台となったホテル・コルテシア東京。
本作でもその舞台は同じ。
ホテル・コルテシア東京のフロントに立つのは、山岸尚美。
前作の主人公の一人である。

そんな尚美の前に現れた客は、かつて学生時代に付き合っていた男宮原隆司。
宮原はある大物芸能人のマネージャーをしているが、その夜、尚美の携帯に宮原から「大変なことになった」と電話がかかってくる・・・
(『それぞれの仮面』)

前作でのもう一人の主人公新田は、ホワイトデーの翌朝、彼女と二人でホテルでくつろいでいるところを殺人事件が発生し、呼び出される。
殺されたのは実業家の田所昇一。
さっそく、夫人の美千代に事情聴取に出掛ける・・・
(『ルーキー登場』)

三連休の前日、フロントに立つ尚美の前に、オタク風の男たちがやってくる。
男たちは、宿泊客の「タチバナサクラ」の部屋を教えてほしいと要求してくる。
「タチバナサクラ」は売り出し中の謎の女流作家。
尚美は、当然ながら答えられるわけもないが、男たちはそのままロビーで“張り込み”をする・・・
(『仮面と覆面』)

尚美はホテル・コルテシア大阪の新規オープンに際し、助っ人として派遣される。
一方、東京のとある大学の教授室で、ある教授が刺殺されているのが発見される。
容疑者の最有力候補は、准教授の南原。
生活安全課から回された婦警穂積理沙と組むことを命じられた新田が、しぶしぶと捜査にあたる。
やがて南原は、事件当夜ホテル・コルテシア大阪に宿泊していたとのアリバイを主張する・・・
(『マスカレード・イブ』)

前作でペアを組んだ尚美と新田は、それぞれ登場するものの、この本では二人に接点はない。
しかしながら、前作につながる推理の片鱗がここでも十分発揮される。
尚美は、フロント業務をこなしながら、さまざまな客の仮面の下の素顔を推理していく。
事件の推理とは違うものの、かのシャーロック・ホームズのごとき細かい観察による推理は、なかなか楽しませてくれる。

短編の形式をとりつつ、前作の前哨戦となっているわけで、そのあたりも“一粒で二度のおいしさ”を味わわせてくれる感がある。
こうなると、この『マスカレード』シリーズも継続するのかという期待を持ってしまう。
それならそれで、違った楽しみも味わえるかもしれない。

いずれにせよ、いろいろと幅広く楽しませてもらえる東野圭吾作品。
今回も期待通りであった・・・

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2014年09月05日

【虚ろな十字架】東野圭吾



次々に出版される東野圭吾の新作。
他にも読む本があって、なかなか追いつかないが、遅ればせながら読了。
例によって単なる事件の謎解きだけでなく、深い人間ドラマが味わえるストーリーである。

プロローグはある二人の中学生男女の淡い恋の物語。
このプロローグをよく覚えておくと、後で読みながら盛り上がるかもしれない。

そして主人公の中原道正が登場する。
その中原のもとに一人の刑事佐山が訪ねてくる。
佐山は中原に、中原の別れた妻小夜子が殺された事を伝える。
中原と小夜子は、かつて最愛の娘を殺されるという悲劇に遭遇しており、佐山はその時の担当刑事であった。

事件はやがて町村作造と名乗る一人の老人が自首してきた事で解決に向かうかと思われる。
一方、娘を殺され離婚して以後の小夜子を知らない中原は、小夜子がフリーライターの仕事をしていた事を知る。
そして取材記事を読み、密かに書き溜めていた原稿を目にする。
それは、死刑廃止論に反対し、死刑を支持する内容であった。

物語は被害者側と加害者側とを交互に描く形で進んでいく。
被害者側は、中原が小夜子が追っていたある人物とその物語を追う形で、そして加害者側は、町村作造とその娘夫婦を追う形で問題を問う。
小夜子はその原稿で、そして小夜子の両親はそれとは別に、「人を殺した者は死刑になるべし」と主張する。
読む者もその是非を問われる事になる。

一見、何の関係もなさそうで、通り魔事件のように思われた事件が、隠されていた姿を現してくる。
その過程はやっぱり東野圭吾的で、実に見事である。
探偵も名刑事も物理学者も登場しないが、素人の中原が辿り着く真実はなかなかである。

死刑の是非を問い掛ける部分もあるが、それは軽いジャブ的なもの。
本格的に問うならば、映画『悪人』のような犯罪者にもやむにやまれぬ事情や背景があった方が、迫力がある。
だが、ここではそこまでは問い掛けてこないし、その必要もないのだろう。

考えてみれば、一人の高校生がコンドームを買う勇気を持てていたら、後にいくつもの事件は起こらなかったものであり、フィクションではあるものの、そんな事を思わず考えてしまった。
若者には正しく導ける大人が必要であり、子を持つ親の立場としては、我が子を正しく導いてやりたいと思う。

例によって深い人間ドラマと、そして読んで楽しんで終わりではなく、付随していろいろと考えさせてくれる。
一味違うドラマをこれからも味わいたいと思う東野圭吾作品である。
  
    
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2014年07月07日

【夢幻花】東野圭吾


 
東野圭吾の作品は、出版されればまず読んでおきたいと思う。
そしてそれは大抵期待通りの結果となる。
だから安心して読む事ができる。
この作品は、ガリレオシリーズとも加賀恭一郎シリーズとも違う、「独立系」の作品である。

物語は、突然殺人事件のプロローグで始まる。
日本刀を持った男の無差別殺人である。
それに続くプロローグ2は、一転して中学生の淡い恋の物語。
この物語の主人公の一人である蒲生蒼太のひと夏の恋である。

翻って現在。
もう一人の主人公とも言うべき秋山梨乃の従兄である尚人が自殺したところから、物語は始まる。
遺書もない突然の自殺で、誰も原因に心当たりがない。
かつて水泳でオリンピックを目指していた梨乃は、ある日泳げなくなり、目標を見失った毎日を送っている。
葬儀で祖父と会い、やがて一人暮らしをする祖父の元に遊びに行くようになる。

祖父の秋山周治は、一人暮らしで花を育てる毎日。
ふとしたきっかけから祖父の花をブログにアップする手伝いを始めた梨乃。
しかし、ある時祖父から見せられた黄色い花の写真だけはブログにアップする事を禁じられる。
そのうち理由もわかると祖父は梨乃に語るが、その祖父が何者かに殺されてしまう。

タイトルにある「無限花」とは、ここに出てくる黄色い花のこと。
実は朝顔であるのだが、朝顔には黄色い花がないらしい。
と言ってももともと自然界に存在しないというものではなく、江戸時代には黄色い朝顔は存在していたらしい。
その点、もともと自然界に存在しない“青いバラ”とは違うようである。
そんな黄色い朝顔がキーワードとなって、物語は進んでいく。

主人公の蒲生蒼太は、原子力を専攻する学生。
そして秋山梨乃は、水泳でのオリンピック出場を目指していた学生。
蒼太の異母兄で警視庁に勤める要介。
ある事情があって、秋山周治殺人事件を粘り強く捜査する刑事早瀬。
一見、バラバラなエピソードが最後に一枚の絵に収まっていく様は、いつもながら見事なものである。

最後に物語はきれいに完結するのだが、福島第一原発の事故で自分が専攻していた原子力の将来に失望していた蒼太が、最後に希望を見出すシーンは個人的には心に残るものであった。
蒼太が見出した原子力を専攻する意義は極めて重要で、誰もそれを否定できない。
この点は若者たちへのメッセージのようでもある。

読んで損はない東野圭吾作品。
それをまた改めて確認する事となった一冊である・・・
   
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2014年06月18日

【変身】東野圭吾



東野圭吾のミステリーである。
東野圭吾の作品は、最新刊はもとより、暇があれば古いのも読んでいる。
この本も目についてはいたが、先送りしてきた。
というのも、実は 映画の方を先に観ていて、その映画が今一だったため原作に手が伸びなかったのである。
たまたま実家の本棚にあったのが、読むきっかけであった。

主人公は平凡な青年成瀬純一。
ある日、不動産屋を訪れた時、たまたま凶悪犯罪に巻き込まれ、銃で頭を撃たれてしまう。
生死の境を迷うも、世界初の脳移植手術によって一命を取り留める。
そして順調に回復し、退院する。

しかし、それもつかの間、純一は異変を感じ始める。
もともと画家志望で優しい性格だったが、絵を描こうとしても描けない。
恋人の恵に対しても、自分の愛が本物かわからなくなる。
職場に復帰するも、それまで何でもなかった同僚たちの怠惰な態度が我慢できなくなる。
自分でもおかしいと感じた純一は、移植された脳のドナーの事が気になり始める・・・

ガリレオシリーズや加賀恭一郎刑事シリーズが魅力的な東野圭吾のミステリーだが、こういった単発モノも結構好きである。
そんな単発モノには、近未来モノとでも言うべき一群( 「プラチナ・データ」 「パラドックス13」)があるが、“世界初の脳移植”を扱ったこの作品も、そんな一群に整理されるだろう。

ストーリーは脳移植によって次第に性格が変わっていく主人公を描いていくもの。
と言っても、良い方向に変わっていくなら問題はないが、移植されたのが凶悪犯の脳で、自分の性格が悪い方向へ変わっていくとなれば、これはなかなか恐ろしいものである。
それと同時に、ここでは一つの大きな問題が提起される。
「脳が入れ替わった場合、それはどちらの人間なのか」という問題である。
Aという人間の脳が、Bという人間の脳に入れ替わった場合、その人物は果たしてAなのかそれともBなのか。
かなり哲学的な問題である。

かつて『秘密』では、母と娘の中味が入れ替わってしまった事が描かれたが、ここでは脳移植によって少しずつ凶悪犯のドナーに心を乗っ取られていく恐怖が描かれる。
かつてあった「トワイライトゾーン」というシリーズでも同様な内容のものがあったが、実に面白いと思う。

読み始めると途中でやめられなくなるのは、東野圭吾作品の特徴。
この本もその調子で一気に読んでしまった。
まだまだ読んでいない作品は多いし、 加賀恭一郎刑事シリーズ ガリレオシリーズだけでなく、これからも片っ端から読んでいこうと考えている。
次は何にしようかと迷う楽しさを味わえのが、ありがたいところである・・・

   

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2014年06月03日

【祈りの幕が下りる時】東野圭吾



“ガリレオ”シリーズと並んで東野圭吾作品のもう一つのキャラクターである“加賀恭一郎刑事”の最新作である。
このシリーズ、どちらもハズレがなく安心して読めるところが良い。

物語は仙台で始まる。
スナックを経営する宮本康代の元に友人から電話がかかってくる。
一人雇ってほしい、と。
そしてやってきた女性が、田島百合子と名乗る女性。
以後、百合子は康代のスナックで働き始める。

一方、東京の葛飾小菅で女性の他殺体が発見される。
捜査にあたるのは警視庁捜査一課の松宮。
シリーズを読んでいればすぐにわかるが、松宮は加賀恭一郎の従兄弟である。
被害者を調べていた松宮たちの捜査線上に浮かんできたのは、元舞台女優で今は演出家・脚本家の角倉博美。
折から日本橋明治座で新たな舞台が始まろうとしていた。

一見、何の関わりもなさそうに始まった二つの物語。
捜査は警視庁捜査一課を中心に行われるが、そこに日本橋署の加賀刑事が意外な形で絡んでくる。
「新参者」 「麒麟の翼」と読んでいると、加賀と日本橋のつながりもスムーズに入ってくる。

事態は意外なつながりをもって展開していく。
例によって単に「誰が誰を殺した」というだけでなく、深い人間関係が描かれていく。
その底辺には、「哀しさ」が漂う。
こうした人間ドラマも加賀恭一郎シリーズの魅力と言える。

シリーズモノの良さは、それまでのシリーズで登場人物たちの背景が描かれており、その世界にスムーズに入っていけることが挙げられる。
単発で読んでも悪くはないが、シリーズを通して読んだ方がより深い味わいが得られる。
これからまだまだ続くのだろうが、読み続けていきたいシリーズである。


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