2019年04月16日

【沈黙のパレード】東野 圭吾 読書日記1018



 前作『禁断の魔術 ガリレオ8』から大分間が空いたが、久しぶりのガリレオシリーズである。読む前からワクワクさせられてしまうのはそれほど多くないので、個人的には貴重なシリーズである。

 冒頭、東京郊外の菊野市にある食堂『なみきや』。そこでは看板娘だった娘が3年前から行方不明になっている。それが突然、静岡県警から連絡があり、失踪した娘の遺体が発見されたと連絡が来る。そこから物語が進んでいく。遺体が発見されたのは、とあるゴミ屋敷。そこから容疑者として1人の男が挙がる。男の名は蓮沼寛一。そして捜査は捜査一課の係長となっている草薙と内海のチームに任される。

 実は蓮沼寛一と草薙には因縁があり、草薙が刑事デビューした時に起こった少女殺害事件の容疑者が蓮沼寛一であったが、蓮沼は徹底して黙秘し、結果として無罪となっていた。今度こそと容疑を固めて送検するが、蓮沼はまたしても徹底黙秘によって処分保留として釈放されてしまう。実際に黙秘はどこまで通用するのだろうかとちょっと関心が湧く。

 肝心のガリレオこと湯川学はアメリカに4年間行っていたということで登場する。偶然にも菊野市にある大学の研究施設に通うことになっている。草薙から話を聞いた湯川は、なみきやにも食事に行くようになる。そして処分保留で釈放された蓮沼は、菊野市の知り合いのところに居着き、なみきやにも現れて関係者の神経を逆撫でる。そんな折、蓮沼が変死するという事件が起きる。

 ガリレオシリーズの見所は、物理学者である湯川が事件を推理して解決して行くところ。初めは蓮沼の起こした事件を推理するのかと思いきや、なんとその蓮沼が殺されてしまう。時に菊野市では街を挙げての祭りを迎えるが、そのメインが仮装パレード。蓮沼を恨む者が多数いる菊野市では容疑者も多数。誰がどうやって蓮沼を殺したのか。殺されたのが、殺されても当然な男だけに、どうしても湯川の推理によって殺人犯が明らかにされるのには抵抗感もある。そんな思いを抱えながら物語を読み進める。

 殺された少女となみきやの娘佐織とその家族の物語。丁寧に描かれて行くが、事件の真相は終盤で二転三転する。これが真相かと納得すると、さらにその先があるという感じで、読み終える最後まで着地点が見えないし、最後の1ページまで読ませてくれる。久しぶりではあるが、深い満足感を与えてくれる。やっぱりこのシリーズは、加賀恭一郎シリーズとともに他の東野圭吾作品とは一線を画する面白さがある。

 期待通り、大満足の一冊である・・・





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2018年08月09日

【素敵な日本人 東野圭吾短編集】東野圭吾 読書日記943



正月の決意
十年目のバレンタイン
今夜は一人で雛祭り
君の瞳に乾杯
レンタルベビー
壊れた時計
サファイアの奇跡
クリスマスミステリ
水晶の数珠

いつものは長編が多い東野圭吾の短編集である。
「正月の決意」は、ある夫婦が初詣に行き、神社の境内で町長が下着姿で倒れているのを発見する。警察が駆けつけて来て捜査を開始するが、妻が推理を働かせて意外な真相が明らかになる。ちょっとヒネったラストが面白い。
「十年目のバレンタイン」は、昔の彼女から突然会いたいと連絡を受けた作家が、レストランで女と会う。男なら誰でも期待してしまうが、意外な結末に思わずニヤリとさせられる。

「今夜は一人で雛祭り」は、妻亡き後、一人娘を育て上げた男にとうとう娘が結婚したいと男を連れてくる。しかし、その姑の態度に嫁いだ後の娘の苦労を思い浮かべる。自分の妻が苦労したのと同じ苦労を娘にはさせたくない。しかし、意外な真相を男は知ることになる。
「君の瞳に乾杯」は、場外馬券売り場で旧友に会い合コンに誘われた主人公。行った先でアニメ好きの女性と親しくなり、付き合い始める。しかし、どうもなかなか関係が進展しない。とうとう業を煮やした主人公の前で、女はメイクを落とす・・・

「レンタルベビー」は、ちょっと進んだ近未来社会。母親を疑似体験できるロボットベビーが開発される。何から何まで本物の赤ん坊そっくりのベビーで、女は子育てを始める・・・
「壊れた時計」は、金のために怪しげな仕事を引き受けた男。指定されたマンションの一室に入るが、突然知らない男が部屋に入ってくる。そしてアクシデントで相手を死なせてしまった男は、死んだ男の腕時計が壊れていることを知って考える・・・

「サファイアの奇跡」は、毛色がブルーという珍しいペルシャ猫のサファイアをめぐる話。一儲けしようと何人もの人間がブルーの毛色の子猫を生ませようとするが、なかなか上手くいかない。しかし、そこにある少女が現れる・・・
「クリスマスミステリ」は、女性脚本家と付き合っていた俳優が相手と別れたいと望むがウンと言ってもらえそうもなく、一計を案じて相手を殺そうとする。計画は失敗してしまうが、男の知らないところで女は死亡する。ほっと胸をなでおろした男の下に刑事がやって来る・・・

「水晶の数珠」は、父親に勘当されアメリカで役者になることを夢見る男に、実の姉から電話がかかってくる。仲違いしていた父親が癌で余命幾ばくもなく、誕生日パーティーに帰国しろと。気の進まないままに帰国すると、空港に着いた途端、父親から電話がある。そして再び喧嘩となり男はアメリカに帰ってしまうが、やがて父の訃報が届き、男は一族に伝わる水晶を受け取ることになる・・・

どれもこれも短い話の最後に意外なオチがつく。これがなんとも言えずにキラリと光るヒネリが効いている。読み終えて唸らされること、しばしばである。個人的には、「水晶の数珠」がいろいろと考えさせてくれる内容であった。1日だけ過去に戻れる力を持った不思議な水晶。祖父はその力で富を築き、父もそうだったのだろうと思っていたら、主人公はあることに気がついて愕然とする。事業をどういう気持ちでやって来たのか。そこを考えると、ストーリーとは外れたところで考えさせられる。なかなかいい話だと思う。

やはり面白い長編を次々に生み出す作家は、短編であっても変わらないと言える。
名手の妙技に思わず唸らされてしまう一冊である・・・





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2018年07月13日

【マスカレード・ナイト】東野 圭吾 読書日記937



『マスカレード・ホテル』『マスカレード・イブ』と続いてきたマスカレード・シリーズの最新作である。今回も舞台となるのは、ホテル・コルテシア東京。

都内で女性の死体が発見されるが、それはそもそも匿名通報ダイヤルに連絡があったもの。さらに匿名通報ダイヤルには、犯人に関する情報が寄せられる。それは犯人を特定するものではなく、犯人が12月31日の午後11時にホテル・コルテシア東京のカウントダウン・パーティ会場に現れるというもの。警視庁捜査一課はこの情報に基づき、ホテルに刑事を配置しようとする。となると、フロント・クラークもこなせる新田刑事に白羽の矢が当たる。こうして新田は再びホテル・コルテシア東京に行き、今はコンシェルジュとなっている山岸尚美と再会する。

被害者は自分の部屋で一人で死んでおり、交友関係からも男の姿は浮かび上がらないが、実は妊娠している。そして部屋にはロリータの服装が残されている。そんな状況証拠だけで、犯人の手掛かりになるようなものはない。そして匿名通報ダイヤルにかかってきた電話も、犯人の行動がわかるのなら、なぜ犯人を特定しないのかも謎が残る。なかなか今回も期待を持たせられる内容で物語が進む。

ホテル・コルテシア東京に潜入した新田ら捜査員。犯人が現れるとされるカウントダウン・パーティは、お客さんが仮装することになっていて、通称「マスカレード・ナイト」と呼ばれている。今回もホテル・クラークとして業務をこなそうとする新田だが、補佐についた敏腕ホテルマンの氏原は、ホテルマンとしてのプライドから新田に顧客対応業務をさせようとしない。これも東野作品ではお馴染みであるが、後々に伏線として描かれることになる。

一方で、ホテルだから様々なお客さんがやってくる。そして山岸尚美の肩書であるコンシェルジュは、お客様の要望に対して、「できない」とは言わないことになっている。美味しいレストランの場所を聞かれるくらいならまだしも、今回はプロポーズの演出を頼まれ、さらにその相手方からそのプロポーズを断る依頼まで受けることになる。新田刑事も事件捜査のかたわら、山岸がどう対応するのか興味を持つが、それは本を読む者も同じ気持ちである。

様々に散りばめられた伏線が、ラストで1つにまとまっていく。前作までは品川警察署の刑事であった能瀬も、いつの間にか警視庁捜査一課の刑事になっていて、ここではまたその捜査能力を発揮する。張られた伏線をつなぎ合わせ、謎を解き明かして、物語は大円団を迎える。このあたりはいつもながらさすがである。余すことなくすべてのピースが埋め込まれて1つの物語が完成する。

気になるのは、やはり今後であろう。果たしてまた新田がホテル・コルテシア東京に潜入することはあるのだろうか。
ご本人が望むかどうかは別として、またあって欲しいと願いたくなるシリーズ第3弾である・・・



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2017年04月12日

【恋のゴンドラ】東野圭吾 読書日記785



ゴンドラ
リフト
プロポーズ大作戦
ゲレコン
スキー一家
プロポーズ大作戦 リベンジ
ゴンドラ リプレイ

東野圭吾の「ゲレンデ」シリーズとでも言える一作。というのも、舞台となっているのが『雪煙チェイス』で舞台となった里沢温泉スキー場であり、『白銀ジャック』と合わせて両作品で登場したパトロールの根津が出てくる(といってもこの作品では脇役である)からである。

しかし、両作品とちょっと雰囲気が異なるのは、この作品は東野圭吾得意のミステリーではないのである。「誰も殺されない」のである。その代わりに展開されるのは男女8人の恋模様。今までの東野圭吾とは一味違うものである。

最初の「ゴンドラ」は、里沢温泉スキー場のゴンドラが舞台。広太は美雪と同棲していて、結婚の話も出ているが、知り合った桃実と二人で一泊のスキー旅行に来ている。美雪との付き合いが描かれる一方で、広太の思いは早くもその夜におよぶ。そして2人で乗り込んだゴンドラに女性4人のグループが乗り込んでくる。そして広太は、そのうちの1人に気がつき愕然とする・・・これはなかなか男の心理としては恐ろしいシチュエーションで、読みながら背筋が寒くなった。

「リフト」は、ゲレンデにやって来たホテルの同僚5人の物語。水城直也は密かに木元秋菜と付き合っている。そして日田栄介は、土屋麻穂に好意を抱いている。女性の扱いがうまい水城は下手な日田のためにひと肌脱ごうとするが、肝心の麻穂は・・・水城も日田もこういうタイプいるよなぁと思わせられる。

「プロポーズ大作戦」は、日田がようやく付き合い始めた美雪に、わずか3ヶ月で早くもプロポーズしようとする。それにふさわしいシチュエーションを水城に相談し、水城はゲレンデを舞台に一計を案じるが・・・
「ゲレコン」は、水城と日田が「ゲレンデでの合コン」に参加する。そこで知り合ったのは、高校時代の友人同士である弥生と桃実。4人はゲレコンのイベントの中で知り合い、ゲレンデで楽しいひと時を一緒に過ごすが・・・

「スキー一家」は、結婚した月村春紀と麻穂が、麻穂の両親とスキー旅行に参加する。麻穂の父親は大のボーダー嫌い。自らボーダーであることを隠して春紀は慣れないスキーをする・・・「プロポーズ大作戦リベンジ」は、日田と桃実を「くっつけ」ようと企む水城と弥生。しかし計画は思わぬ展開をみせる・・・

「ゴンドラリプレイ」は、日田と桃実の関係が接近していく様子が描かれ、そして冒頭と同じように広太らと一緒になる。そしてまた同じようなシチュエーションとなっていく・・・どれもこれもがゲレンデを背景に爽やかな若者たちの有様が描かれる。死者は出ないものの、やはり先を読ませず意外な展開を見せてくれるのは、どこか東野圭吾的である。こういうのもいいかもしれない。

それにしても、東野圭吾はスノーボードが好きなんだろうなと感じさせる。それが何より証拠の「ゲレンデ・シリーズ」であり、描写の1つをとってみてもそう感じさせる。こういうのもアリではないかと思う。今後、こういうテイストの作品が増えるのかどうかはわからないが、これはこれで読んでみたいと思う。

いずれにせよ、これからも東野圭吾作品の感想が増えていくことは間違いないと思うところである・・・



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2017年03月28日

【危険なビーナス】東野圭吾 読書日記778



東野圭吾の作品をまた一つ。今回の主人公は、獣医の手島伯朗。町の医院の雇われ先生で、助手の蔭山元美と二人で細々と診療を行なっている。そこへある日突然、若い女性から連絡がある。女性は矢神楓と名乗り、弟の明人と結婚したと告げる。そこから、伯朗と明人は異父兄弟であること、伯朗の父一清は画家であったが病死し、母禎子が明人の父矢神康治と結婚し明人が生まれたという事情が語られる。

さらに伯朗は、楓から明人が失踪したと告げられる。そしてその失踪には矢神家の人間が関与している可能性があり、まだ結婚の事実も告げていない楓の身では探ることも難しく、したがって伯朗に協力してほしいと求めてくる。実際に会った楓は、カーリーヘアの魅力的な女性で、伯朗は疎遠だったとはいえ弟の妻という身を忘れて惹かれていく。

こうして、伯朗は楓とともにかつて関わりを絶ったつもりでいた矢神家の人々と再び交わるようになる。矢神康治は病床にあって明日をも知れぬ身。医師であった康治は、かつて伯朗の父一清の治療をしていたこともあり、最後に描いていた不思議な絵が物語のキーとなってくる。

康治が研究していたのは、サヴァン症候群と呼ばれる精神疾患。映画『レインマン』でダスティン・ホフマンが演じて有名になったが、患者は時として不思議な能力を発揮する。『レインマン』では、ダスティン・ホフマン演じる男が床に落ちたマッチの数を瞬時に言い当ててみせたが、ここではフラクタルと呼ばれる全体の形と細部が相似となった不思議な絵として取り上げられる。こういう雑学も身について面白い。

物語は、伯朗の過去に触れつつ、それがもたらす謎に興味をもたせつつ、楓という若い女性のこれもまたどこか謎めいていて、読みながら作者の隠された意図を探り出してやろうと思わされるキャラクターに惹かれつつ、進んでいく。東野圭吾の作品はどれもこれも物語に引き込まれていく。電車の中で読めば、最低一度は乗り越してしまうこと確実である。

ラストに至る急展開は、さすがに素人に先読みさせるほど甘くはない。謎もすっかり解きほぐしてくれて、なるほどと唸らせてくれる。何を読んでもきっちり満足させてくれるところは、さすがだと思う。文句はないのだが、そろそろガリレオ先生か加賀恭一郎に登場してほしいと思うのは、私だけであろうか。

次をまた期待したいと思うのである・・・



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2017年03月23日

【雪煙チェイス】東野圭吾 読書日記776



東野圭吾の新作であるが、タイトルをみれば「スキー(スノボー)関係」だとわかる。そういえば、過去にも『カッコウの卵は誰のもの』『白銀ジャック』があったなと思っていたら、読み進むうちにこれは『白銀ジャック』の続編なのかと思うようになる。というのも、登場人物の名前が同じだからである。

冒頭、新月高原スキー場(『白銀ジャック』で舞台となったスキー場である)で主人公の脇坂竜実がスノーボードを楽しんでいる。そして一人の女性ボーダーの写真を撮ってあげる。これがのちに竜実のアリバイになるための重要な出来事になる。もちろん、この時点では本人も知る由も無い。ただ、その美人ボーダーを誘い損なったことを後悔するだけである。

東京に戻った竜実。しかしその頃、かつて犬の散歩のアルバイトをしていた家の主人が殺されているのが発見される。実はその前日、現地を訪ねていた竜実は近所の人に目撃されており、しかも隠し鍵に指紋が残っていたことから、重要参考人としてマークされる。友人からその事実を知らされた竜実は、法学部の友人波川のアドバイスで警察に出頭するよりアリバイを証明してくれる女性を探すことを選ぶ。

わずかな手掛かりから、里沢温泉スキー場へと向かう二人。一方、所轄署の刑事小杉は、同僚の白井とともに竜実ら二人のあとを追う。事件は殺人事件であり、警視庁捜査一課が捜査本部を設置して捜査をすることになるが、捜査一課の同期課長を出し抜きたいと考えた所轄の刑事課長が密かに小杉たちを動かす。警視庁と所轄の手柄の奪い合いが水面下で進行する。

そして舞台は、里沢温泉スキー場へと移動するが、ここでは町をあげてスキー場ウエディングの準備が進んでいる。そこでパトロール隊の隊長をしているのが、根津昇平。『白銀ジャック』に出てきた根津と同一人物なのだろうと思うが、長岡慎太、成宮莉央、成宮葉月、瀬利千晶と言った面々が絡んでくる。

迫り来る警察の捜査網、アリバイを証明してくれる「女神」を探し求める竜実と波川。その展開がスリリングである。例によって電車の中で読んでいたら乗り過ごしてしまった。後半では、自らを駒と諦めて命じられるままに動いていた小杉刑事が、刑事としての本来の職務に目覚める。後味の良さもある物語。最後まで一気に読んでしまった。

相変わらず、ハズレのない東野圭吾作品。読まないのは損失だと言い切れる作家らしい作品である・・・



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2016年09月14日

【人魚の眠る家】東野圭吾 読書日記707



第1章 今夜だけは忘れていたい
第2章 呼吸をさせて
第3章 あなたが守る世界の行方
第4章 本を読みに来る人
第5章 この胸に刃を立てれば
第6章 その時を決めるのは誰

東野圭吾の新しい本をまた一冊。この人の本を読まないという選択肢は私にはないと断言できる。しかし、今回の一冊は、ちょっと今までと違ったテイストである。
舞台となるのはある家族。一家の主人播磨和昌は、先端技術を開発している株式会社ハリマテクスの社長。ハリマテクスではBMI(ブレーン・マシーン・インターフェース)と呼ばれる脳と機械を繋ぐシステムを開発している。これを使うと、全盲の人が杖なしで歩けたり、義手でモノを不自由なく掴めたりできたりするものである。そして和昌には、妻薫子との間に娘の瑞穂と息子の生人がいる。

ある日、プールに遊びに行っていた瑞穂が溺れ、救急病院に緊急搬送される。治療の甲斐なく、医師は無情にも意識が回復することはないと告げる。そして呆然とする播磨夫妻に、瑞穂の臓器提供の意思を確認し、脳死判定のシステムを説明する。やがて臓器提供の意思を固めた夫妻だが、瑞穂の体のわずかな反応に、妻薫子は治療継続に方針転換する。

和昌の会社の技術で、瑞穂は意識が戻らないまでも、体の各部を動かすことにより健常児のように体は成長する。そして夫妻を取り巻く人々。薫子に密かに思いを寄せつつ、技術者としてBMIのシステムを瑞穂に利用する星野。播磨家に通う訪問学級の教師新章房子。背景に臓器移植の我が国の問題点が描かれる。

東野圭吾の小説というと、ついついミステリーをイメージしてしまうが、これはガチンコのドラマである。「人間の死を何によって定めるか」というテーマが根底に流れる。脳死は人の死と認められているが、では脳死した人間を刺して息の根を止めたらそれは殺人になるのか。死んでいる者なら殺すことはできないわけで、なかなか難しい問題である。

臓器移植によってしか助からない人たちがいて、特に子どもの臓器提供は我が国ではまだまだ少ない。提供があるということは、どこかで子供が死んだということ。提供を望むということは、どこかで子供が死ぬことを期待するということ。多くの国で渡航移植が禁止される傾向があり、今や日本から臓器移植で渡航できる国はアメリカぐらいであること。それにも5%ルールがあることなどがさりげなく語られる。読む者は、こうした問題を自然と考えさせられる。

この問題を早いうちに国民的な議論とし、解決をはからなければならないという著者のメッセージなのかもしれない。技術の進歩は、いずれハリマテクスのBMIを実現化するのだろう。それと合わせて、我々の倫理と意識の問題も解決しなければならないのだろう。意図的にメッセージとして発信しているのだとしたら、物語に姿を借りてなかなかうまいと思わせられる。

そうしたことを抜きにしても、ストーリーとして十分に面白い。やはりこれからも必読書たりうるだろう。次も楽しみにしたい一冊である・・・


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2016年04月11日

【ラプラスの魔女】東野圭吾 読書日記647



新作が出たら読まずにはいられない作家東野圭吾。
これはシリーズものではなく、単発もの。
どちらでもそれなりに楽しませてもらえるのがいい。

冒頭、竜巻が起こり、ある母子が巻き込まれる。
いつも意味ありげなスタートは変わらない。
所変わって元警察官の武尾が、ある人物のボディーガードに採用される。
ある人物とは、一人の少女円華。
円華は普通の少女ながら、不思議な現象を引き起こすのであった。

一方、赤熊温泉で一人の男が死亡する。
男は初老の映画プロデューサー。年の離れた二十代の若い妻との旅行に訪れていての出来事だったが、多額の生命保険にも加入しており、保険金殺人の疑いもある。しかし、死因は硫化水素中毒で、温泉地の火山性のものとも考えられ、単なる不運な事故とも言えるが、現場に窒死量の硫化水素が発生した痕跡もなく、専門家の学者青江に調査依頼がくる。

さらに赤熊温泉から遠く離れた苫手温泉でも、無名の役者が山中で硫化水素中毒により死亡する。やはり温泉地ではあるものの、窒死量の硫化水素が発生した形跡はない。調査に訪れた青江は、そこで赤熊温泉でも見かけた女性を目にする。偶然とは思えぬ遭遇に、思わず声を掛ける青江。女性は羽原円華と名乗る。

二つの硫化水素事故と謎の女性円華とその取り巻き。
事件を調査する青江。
途中で浮上した天才映画監督甘粕才生とその息子謙人。
少しずつ全てが絡み合いながら物語は進んでいく。
バラバラのピースが少しずつ組み合わされて行くがごときストーリー展開は、さすがである。

ちょっとSFチックなテイストが入るのは、『プラチナデータ』と似ているところがある。円華と謙人との「能力」がタイトルにもつながるのであるが、もしもこんな能力が身についたら、と想像は膨らむ。
物語以外にも楽しませてくれるところがある。

こうした単発ものも、読み終わってみれば「また次も」と自然に思える。
なかなか時間もない中、まだ読んでいない作品もあってもどかしいところもある。
まだまだ読み続けたい東野圭吾である・・・
   
   
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2015年07月13日

【マスカレード・イブ 】東野圭吾 読書日記563



それぞれの仮面
ルーキー登場
仮面と覆面
マスカレード・イブ

似たようなタイトルだと思っていたら、実はそれもそのはず、『マスカレード・ホテル』の続編だということであった。
「続編」と言っても、時系列からすると、この本は『マスカレード・ホテル』の前日譚にあたる物語である。
(だから、「イブ」なのだと思う)

『マスカレード・ホテル』で舞台となったホテル・コルテシア東京。
本作でもその舞台は同じ。
ホテル・コルテシア東京のフロントに立つのは、山岸尚美。
前作の主人公の一人である。

そんな尚美の前に現れた客は、かつて学生時代に付き合っていた男宮原隆司。
宮原はある大物芸能人のマネージャーをしているが、その夜、尚美の携帯に宮原から「大変なことになった」と電話がかかってくる・・・
(『それぞれの仮面』)

前作でのもう一人の主人公新田は、ホワイトデーの翌朝、彼女と二人でホテルでくつろいでいるところを殺人事件が発生し、呼び出される。
殺されたのは実業家の田所昇一。
さっそく、夫人の美千代に事情聴取に出掛ける・・・
(『ルーキー登場』)

三連休の前日、フロントに立つ尚美の前に、オタク風の男たちがやってくる。
男たちは、宿泊客の「タチバナサクラ」の部屋を教えてほしいと要求してくる。
「タチバナサクラ」は売り出し中の謎の女流作家。
尚美は、当然ながら答えられるわけもないが、男たちはそのままロビーで“張り込み”をする・・・
(『仮面と覆面』)

尚美はホテル・コルテシア大阪の新規オープンに際し、助っ人として派遣される。
一方、東京のとある大学の教授室で、ある教授が刺殺されているのが発見される。
容疑者の最有力候補は、准教授の南原。
生活安全課から回された婦警穂積理沙と組むことを命じられた新田が、しぶしぶと捜査にあたる。
やがて南原は、事件当夜ホテル・コルテシア大阪に宿泊していたとのアリバイを主張する・・・
(『マスカレード・イブ』)

前作でペアを組んだ尚美と新田は、それぞれ登場するものの、この本では二人に接点はない。
しかしながら、前作につながる推理の片鱗がここでも十分発揮される。
尚美は、フロント業務をこなしながら、さまざまな客の仮面の下の素顔を推理していく。
事件の推理とは違うものの、かのシャーロック・ホームズのごとき細かい観察による推理は、なかなか楽しませてくれる。

短編の形式をとりつつ、前作の前哨戦となっているわけで、そのあたりも“一粒で二度のおいしさ”を味わわせてくれる感がある。
こうなると、この『マスカレード』シリーズも継続するのかという期待を持ってしまう。
それならそれで、違った楽しみも味わえるかもしれない。

いずれにせよ、いろいろと幅広く楽しませてもらえる東野圭吾作品。
今回も期待通りであった・・・

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2014年09月05日

【虚ろな十字架】東野圭吾 読書日記464



次々に出版される東野圭吾の新作。
他にも読む本があって、なかなか追いつかないが、遅ればせながら読了。
例によって単なる事件の謎解きだけでなく、深い人間ドラマが味わえるストーリーである。

プロローグはある二人の中学生男女の淡い恋の物語。
このプロローグをよく覚えておくと、後で読みながら盛り上がるかもしれない。

そして主人公の中原道正が登場する。
その中原のもとに一人の刑事佐山が訪ねてくる。
佐山は中原に、中原の別れた妻小夜子が殺された事を伝える。
中原と小夜子は、かつて最愛の娘を殺されるという悲劇に遭遇しており、佐山はその時の担当刑事であった。

事件はやがて町村作造と名乗る一人の老人が自首してきた事で解決に向かうかと思われる。
一方、娘を殺され離婚して以後の小夜子を知らない中原は、小夜子がフリーライターの仕事をしていた事を知る。
そして取材記事を読み、密かに書き溜めていた原稿を目にする。
それは、死刑廃止論に反対し、死刑を支持する内容であった。

物語は被害者側と加害者側とを交互に描く形で進んでいく。
被害者側は、中原が小夜子が追っていたある人物とその物語を追う形で、そして加害者側は、町村作造とその娘夫婦を追う形で問題を問う。
小夜子はその原稿で、そして小夜子の両親はそれとは別に、「人を殺した者は死刑になるべし」と主張する。
読む者もその是非を問われる事になる。

一見、何の関係もなさそうで、通り魔事件のように思われた事件が、隠されていた姿を現してくる。
その過程はやっぱり東野圭吾的で、実に見事である。
探偵も名刑事も物理学者も登場しないが、素人の中原が辿り着く真実はなかなかである。

死刑の是非を問い掛ける部分もあるが、それは軽いジャブ的なもの。
本格的に問うならば、映画『悪人』のような犯罪者にもやむにやまれぬ事情や背景があった方が、迫力がある。
だが、ここではそこまでは問い掛けてこないし、その必要もないのだろう。

考えてみれば、一人の高校生がコンドームを買う勇気を持てていたら、後にいくつもの事件は起こらなかったものであり、フィクションではあるものの、そんな事を思わず考えてしまった。
若者には正しく導ける大人が必要であり、子を持つ親の立場としては、我が子を正しく導いてやりたいと思う。

例によって深い人間ドラマと、そして読んで楽しんで終わりではなく、付随していろいろと考えさせてくれる。
一味違うドラマをこれからも味わいたいと思う東野圭吾作品である。
  
    
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