2019年11月21日

【オールブラックス圧倒的勝利のマインドセット】今泉清 読書日記1094



《目次》
第1章 フィールドで体感した「勝利」のイノベーション
第2章 頂点に立つ男たちの「凡事徹底」というポリシー
第3章 [貢献]勝ちたければ、あえて組織の歯車になれ
第4章 [リーダーシップ]ラグビーのヒーローは、自己を犠牲にできるプレーヤーである
第5章 [コミュニケーション]粘り強く意思を交換せよ
第6章 [戦略]圧倒的な準備で、貪欲に勝利を求める
第7章[マインドセット]「無死の心」がビッグプレーを生み出す

 著者はラグビーの往年の名選手。早稲田大学の現役時代はよくテレビでプレーを観ていたものである。ラグビーのW杯が日本で開催され、予想外の人気を博していまだに余韻に浸る中であるが、そんな中でブームに便乗したかの如きタイトルの本であり、タイトルだけで判断するなら絶対に手にしなかったであろう。それを手にしたのは、まさに著者が今泉清その人であったからである。

 著者は、早稲田の現役時代にオールブラックスのコーチに指導を受けたことをはじめとして、卒業後にはニュージーランドに留学もしていたという。そして自身が経験したオールブラックスの様々なことをビジネスにも通じるエッセンスとして紹介しているのが本書である。その内容は、ラグビーファンとしてもまたビジネスマンとしても興味深いものである。

 オールブラックスの強さの秘訣の1つは、「当たり前のことを愚直にやりきる凡事徹底」だという。パス、キャッチング、キック、タックルなどの基本スキルに徹底して磨きをかけるのだとか。これはラグビーをやる上でも大変参考になる。そして各人が意識しているのは、「勝つために自分の持っているスキルをいかにチームプレーに適合させるか」だという。自分だけとにかく頑張るというスタンスではないようである。

 基本はラグビーの試合に臨むスタンスであるが、ビジネスにも通じる考え方がいろいろと紹介される。
1. 自分が活かされたいと思うならば、まずは周りを活かす
2. ハードワークが成功のもと、努力は裏切らない
3. 絶対的な目標を持てば、ハードワークがハードワークに感じなくなる
4. 有言実行、リーダーが自ら手本を示す

 特に「キャプテン」と「リーダー」の違いが目からウロコである。すなわち、「キャプテン」はチームに1人だが、「リーダー」は誰がなってもいいということ。いつでもリーダーを引き受けられる、そういう準備を全員が整えていることでチームは最終的なゴール=勝利へと導かれていくとする。確かにその通りだと思う。

1. 指示されたメニューを受け身にただ寡黙にやる練習、目的も定めずに根性でやる練習はなんの意味もない
2. 強いチームは対話から生まれる
3. 自分の意見をはっきり主張しないと周りから評価も信頼も得られない
4. Under-Standなコミュニケーション
 Under-Standとは、まさに下から目線とでもいうべきものであろうか、うまいことを言うなと思う。

1. 論理的に筋道を立てて自分の持っている情報を相手と交換するコミュニケーション
2. できない理由でなく、できる理由を探せ
3. チームメイトを尊重できない人間はいざという勝負どころでチームに貢献できない
4. 型があるから型破りができる、型がなければかたなし

 技術論は少なく、コミュニケーションや考え方の説明が大半である。そしてタイトルにある「マインドセット」とは、「ものの見方や考え方の基本的な枠組み」だとする。これはビジネスにおいても最も根本的なことだと思う。個人的にはこれに「パッション」と「創意工夫」がビジネスマンの三種の神器だと思う。

 ラグビーの本であるかのようなタイトルだが、ビジネスにも十二分に通じる考え方が記されている。ラグビーファンならずとも、ビジネスマンにとっても有意義な一冊である・・・


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2019年09月11日

【挑む力 桑田真澄の生き方】桑田 真澄 読書日記1070



《目次》
桑田真澄の原点
メジャーリーグへ
早稲田大学大学院へ
野球を愛する皆さんヘ

一読してなんとなく既視感のある本だなと感じたが、野村監督の本もそうであるように著書が多くなるとあちこちで同じような話が出てくるものである。それゆえにこの本もそうかと思っていたら、実は『野球の神様がくれたもの』を改題し、大幅な加筆修正と再編集を行ったものだという。何となく損した気分になるが、それはそれでよしとしたい。

少年野球の頃は、練習では理不尽なイジメのような仕打ちを受け、それが原体験となって野球の指導のあり方を考える。PL学園では良き指導者に恵まれて頭角を現し、1年ながら甲子園のメンバー17人に選ばれる(ここでも妬んだ先輩からイジメを受ける)。この時、短時間のメンバー練習で「長時間練習すればいいというものではない」と合理的な練習に目覚める。

清原は初めから実力があり、上級生からも一目置かれていたという。しかし、桑田は雑用係の日々。こうしたスタートの違いが「謙虚に研究努力する」というその後のスタンスにつながったのかもしれない。人間やはり天狗になってはいけないということだろう。桑田は「学ぶ姿勢が大事」と気付き、「考えること」の重要性を認識する。理不尽な指導も「当時はあれが正しかった」と意に介さない。

読売ジャイアンツを退団し、メジャーに挑戦する。今は普通になっているが、桑田はジャイアンツでは事実上の戦力外扱い。そのまま引退すれば指導者への道もあったのかもしれないが、桑田はメジャー挑戦を選ぶ。読売ジャイアンツを退団して新しい挑戦をするにあたり自分自身に問いかけたのは、「野球が好きなのか、それともレギュラーやエースの座が好きなのか」ということ。これはなににでも当てはまることなのではないかと思う。

「ライバルは誰ですか」と問われると、「自分自身」と答えているという。その理由は「自分に勝てない人間が他人に勝てるはずがないから」だとする。このあたりはいろいろな考え方があるからなんとも言えないが、「気持ちで負けたら終わり」というのは間違いないと思う。「自分らしさが一番大事、自分には自分なりの長所があり、持ち味がある」という言葉には気づかされるものがある。

さらにバランスの大事さも説く。野球においては、「トレーニング・食事・休養」のバランス。若い選手には「野球・勉強・遊び」のバランス。自分に置き換えてみれば「仕事・勉強・趣味」だろうか。一度読んでもその時々で心に引っかかる言葉は違うものなのかもしれない。そういう意味では、二度読んでも損をしたとは思えないところがある。

やはりどんな分野であれ一流になるだけの人の言葉には、学ぶべきことが多いと実感させられる一冊である・・・

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2019年04月18日

【決断=実行】落合 博満 読書日記1020



 野村克也元楽天監督の本も良く読んだが、それに次いで「出たら読みたい監督の本」として挙げられるのが、落合元中日監督の本であろう。数えてみれば、読むのはこの本で6冊目である。
 落合監督と言えば、中日の監督就任時に「現有戦力で戦う」と言って補強せずに優勝してしまったことがまず挙げられるが、「初めから特別な能力を持っている人などいない」と語るのは、その表れかもしれない。プロで成功した選手でも「素質だけに頼った人よりも死に物狂いでプレーした人が圧倒的に多い」とする。凡人には励みになる言葉である。

 冒頭では、「ただひたすらに仕事に取り憑かれろ」と語る。「どんな仕事でもそのうちに経験が生きることがある」とする。要は「若いうちの苦労」ということだろうが、みんなおんなじようなことを言っている。それゆえに真実だと思うが、働き方改革喧しい咋今の風潮はちょっと心配な気がする。監督になって「自分ができることを伝えるのではなく、できなかったことを勉強」したというが、こういうスタンスも大いに学びたい。

 監督は、現場では独裁者であり、次々と決断しなければならない。したがって野球を深く勉強するが、その際自分と異なる意見や考えを否定せず、なぜそう考えるのだろうと分析しておくことが大事だとする。落合ほどの大選手でもまだ勉強し、さらに人の考えも否定しないというスタンスは、自分のような凡人はよく学ばねばならないところである。

 1. 諦めた者が負け、諦めさせた者が勝ち残る
 2. 選手やチームを客観視できる目
 3. 大切なのはいかに基本的な練習に根気強く取り組むか
 4. 好奇心は自分を成長させ、感性を豊かにする
 野球について語っていても、気がつけば野球以外にも当てはまりそうなことである。

 野球と言えば「チームプレー」であるが、9対10の敗戦の話は大いに心に残った。そのようなケースでは、9点も取った打線は「なぜ10点も取られるのか」と投手陣に反感を持つ。勝てないチームは点が取れている時は打撃陣が、抑えている時には投手陣が大きな顔をするからいつまで経っても「試合に勝つ」という根本的な問題を解決できない。投手陣は9点取ってもらった試合は8点に抑える、野手陣は5点取られたら6点取り返してやろうとプレーするのが勝てるチームだとする。

 当たり前のようであるが、チームプレーとはそういうことだと思う。チームで勝つということを考えた時に当たり前の理屈である。これは会社の組織でも大いに言えることだろう。
 一流の監督の言葉には、野球のことを語っていても、ビジネスマンに大いに当てはまることが多い。学ぶべきところが読むほどに出てくるから、次々と手にしてしまう。「また次も」期待して手にしたいと思わせてくれる一冊である・・・





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2018年08月28日

【落合博満バッティングの理屈−三冠王が考え抜いた「野球の基本」−】落合 博満 読書日記949



第1章 野球は理屈で考えよう
第2章 目とバッティング
第3章 軸足の使い方
第4章 下半身のメカニズム
第5章 上半身のメカニズム
第6章 スタンスについて考える
第7章 大きく速いスイングを身に付けよう
第7章 大きく速いスイングを身に付けよう
第9章 野球選手のためのトレーニングとは
第10章 いくつかの“どうすればいいか”を解決する
第11章 写真で確認する正しい技術と動き
第12章 腕とバッティング
第13章 バッティング技術が向上する練習法
第14章 相手バッテリーを丸裸にする
第15章 机の上でも野球をやろう
第16章 技術も上達させる野球の考え方
第17章 選手と指導者は二人三脚でレベルアップを目指そう

 何の分野であれ、成功者には学ぶべき点がいろいろあると考えているが、特に野球選手の本は得るものが多いと感じている。野村監督の本はその最たるものであるし、落合の本もしかり。そしてこの本は、その落合が書いたガチガチのバッティングの本であるが、別に今から野球が上手くなりたいと思うわけではないが、何か得るところがありそうな気がして手にしたものである。場合によっては、野球をやっている中学1年の息子に読ませてもいいかと考えたのである。そしてやっぱり一読してその考えは間違っていなかったと実感したのである。

 はじめに「野球は理屈で考えよう」とくる。何でもそうであるが、「考えてやる」ことはとても重要であると考えている。「考えてやる」とはすなわち「理屈通りにやる」ことに他ならない。最初にこの言葉が来る時点で、さすがだと思う。そして「バッティングの基本はセンター返し」なのだそうである。これは、「ボールを打つ時は両肩を結んだ線と平行に打ち返すことがもっとも理に適っている」というもの。ノックを例に説明されるとわかりやすい。

1. 両目でボールを捉え、正しいコンパクトなスイングで打とう
2. ティーバッティングや素振りも実戦に即して行う
3. バッティング練習とは、ボールを打つことではなくひたすらバットを振り込むこと
4. いいバッティング評論家を目指そう
5. スランプになったら基本に戻る。基本とは食事と睡眠
すべて技術的なことではあるが、難しいことは何1つない。私はラグビーをやっているが、技術に関しては相通じるものがあると感じる。

 「肘を抜く」なんてちょっと意味のよくわからない言葉も出て来るが、意外な考え方を知ることも多い。例えばカーブの打ち方は、特別なものはなく、ただカーブを「ストレートよりも遅い球」として「ストレートを待ってスピードの遅いボールを打つ」としている。その前提として、「どんなスピードのボールに対しても自分のミートポイントで打つ」という基本があるのだが、こういう考え方は自分にとっては初めてである。

 さらに大魔神佐々木のボールをどうしたら打てるかと聞かれ、落合の答えも目から鱗。それは「どうせ打てないならフォークはすべて見逃す。それで3球続けてフォークを投げられたらごめんなさい。ストレートだけを狙ってそれを確実に打つことを考える。」なるほどであるが、私だったらどうやったらフォークを打てるのかだけを考えてしまう。

 一貫して感じるのは、「野球に対してストイックである」ということ。徹底的に、それこそ本が一冊書けるくらい考えて工夫し、バッティングについて極めている。だからこそあれだけの実績が残せたのであろう。このスタンスはビジネスでも応用できるものである。「野球人生は常にオン。本当のオフはユニフォームを脱いだ後に一生味わえる」という言葉も深いと思う。自分も自分の生きていきたい分野において、かくありたいと思う。

 純粋にバッティングの本なのに、バッティング以外にも学びの多い一冊である・・・




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2018年08月15日

【ラグビーをひもとく】李 スンイル 読書日記945



序 章 フットボールとレフリーをひもとく
第1章 オフサイドをひもとく
第2章 スクラムをひもとく
第3章 ラック、モールをひもとく
第4章 タックルをひもとく
第5章 ラインアウトをひもとく
終 章 「ラグビー憲章」をひもとく

若い頃、ラグビーをやっていて、最近シニアチームで再びラグビーをやるようになって感じていることは、「ラグビーは進化している」ということ。それゆえに、「もう十分わかっている」とは思わずに、積極的に本を読んだりして知識のアップデートをしているが、そんな矢先に紹介されたのが本書。著者は、自身ラグビー経験もあり、今は関東ラグビーフットボール協会の公認レフリーでもあるライター。読んでみて目から鱗の一冊である。

ここに書かれているのは、知っていそうで知らない事、よくわかっていない事の諸々。まずはラグビーの発祥伝説にスポットライトを当てる。それはよく知られた「エリス少年伝説」。曰く、「エリス少年が、サッカーの試合中に興奮してボールを持って走ってしまったことによって始まった」というもの。ラグビーをやる者であれば誰もが知っているエピソードであるが、実は事実は少々異なるらしい。

そもそも、原型の「フットボール」は村の祭りとして村全体の敷地を利用して行われていたものらしい。それが、祭りからゲームとして各地で行われるようになり、そうするとルール整備の必要が出てきて、それがサッカーになり、ラグビーへと進化したのだという。どうやらサッカーとラグビーは「親子」ではなく、「兄弟」関係が正解のようである。そんな「へええ」が続く。

ラグビーのルールはわかりにくいとはよく言われる。そのルールであるが、実は「ルール=規則」ではなくて、「ロー=法律」なのだという。事実、競技規則の英語版は「Laws of the Game」となっているという。そしてイギリスのLawは慣習法。すなわち慣習によって上書き保存されていく方式である。みんながラグビーというゲームをしながら不都合や新しいアイデアに際し、協議して変えていくもので、だからこそ毎年のように変わるのだとか。

ラグビーの審判がなぜ、アンパイアではなくてレフリーなのか。アンパイアは、白か黒かを判断するのが役目で、レフリーのそれは「仲裁」。だから白か黒かの判断ではない。ラグビーでも白か黒かを判断する役割もあって、それを担うのが「タッチジャッジ」。最近は「アシスタントレフリー」が登場しているが、外からメインレフリーが見えなかった反則を指摘したりしているのはそういうわけだと知る。だからラグビーには「アドバンテージ」があり、反則があったかなかったかを判断(ジャッジ)するアンパイアが裁くのではないのである。これも「へえぇ」である。

「オフサイド」はわかりにくい反則の1つ。ラグビーにおける「サイド」の意味から始まり、そこから派生して、なぜ得点を取ることを「トライ」というのかが解説される。それにはやっぱり「へえぇ」な理由があって、だからトライ後のゴールは「コンバージョン=転換」ゴールと呼ばれているのだとわかる。スクラムには5本のオフサイドラインがあるなんて、言われてみればなるほどであるが、意識しているプレーヤーは少ないと思う。

こんな調子で、スクラムやモール・ラック、ラインアウトが紐解かれて語られていく。わかっているつもりでわかっていなかったことがボロボロと出てくる。なぜラインアウトはラインから「投げ入れる」のに「アウト」なのか。言われてみればの世界が続く。ラグビー経験者でも知らない人がほとんどではないかと思う。

読んでわかるのは、ルール(ロー)に秘められたラグビーの精神。それは素人が読むより経験者が読むべき内容。理解することによって一層プレーが楽しめ、また観戦も楽しめる。「もう十分知っている」とは言わずに、経験者こそ読むべき必読の一冊である・・・



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2018年06月06日

【幸運な男 伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生】長谷川晶一 読書日記927



序 章 偽りの引退
第1章 萌芽 − 1993年・ユマキャンプ
第2章 覚醒 − 強心臓ルーキーデビュー
第3章 脱皮 − 高速スライダーができるまで
第4章 飛躍 − バルセロナ五輪出場
第5章 酷使 − 6月の全694球
第6章 暗闘 − 長引くリハビリ
第7章 復活 − カムバック賞獲得
第8章 異変 − 再びの手術
第9章 岐路 − 1年間の執行猶予
第10章 転身 − 第二の人生の始まり 
第11章 奮闘 − それぞれの、それから
第12章 幸運 − 彼は本当に「悲運」なのか?
終 章 最後の一日

その昔、「野球小僧」だった頃は、プロ野球の情報は隅々まで目を通していたと思う。贔屓のジャイアンツや阪急ブレーブス以外の球団でも、ある程度の選手名は把握していたと思う。それがラグビーの世界に転じてから、たまに新聞に目を通す程度になってしまい、以来ジャイアンツを含めて、野球選手については疎くなってしまった。この本の主人公である伊藤智仁についても、この本を手にするまで知らない有様だった。

その伊藤智仁の物語は、いきなり現役引退の日から始まる。引退イベントに向かうも、実は心の中で復活の夢を描いていたという。彼は一体、どんな投手だったのか。1993年のユマキャンプからそれは始まる。その年、社会人野球からドラフト1位で入団した伊藤は、野村監督の度胆を抜く。野村監督は、今でも先発ピッチャーの歴代No. 1に伊藤智仁をあげているという。このキャンプで野村監督は、伊藤を絶賛する。

そしてシーズンが開幕。伊藤は初登板で見事勝利投手となる。伊藤の武器は、「高速スライダー」。その切れ味は、名捕手古田も「No. 1」と絶賛し、名選手立浪をして「打てない」と語らしめるもの。その高速スライダーは、甲子園の夢破れて高卒で入社した三菱自動車京都製作所で、同僚にたまたま習ったという。もともと肩関節の可動域の広い体質に長い腕といった特徴が、うまくはまったようである。

高速スライダーという大きな武器を手に、伊藤はバルセロナ五輪に選出され、それがスカウトの目に止まってドラフト1位でヤクルトの指名につながる。デビュー以来、順調に活躍していたが、7月の登板時、肘に異変が生じる。それが暗転のきっかけ。それから長いリハビリ生活が始まる。活躍したのはわずか2ヶ月半だったにも関わらず、松井秀喜を抑えてこの年の新人賞を取ったのだからやはりすごいと言える。

一旦、カムバックしたものの、活躍は長く続かず、再び怪我の再発。結局、伊藤のプロ野球人生は怪我との戦いだったようである。投手成績としては、37勝27敗25Sであるから、大したものではない。しかしながらこうして本に書かれるということは、俗にいう「記録より記憶に残る」ピッチャーだったからに他ならない。

その勇姿は、今でもYouTubeで見ることができる。篠塚との対戦など、本で書かれているシーンを映像で確かめられる現代は、実にありがたい。人間の真価は、苦境にあるときにこそ出るのかもしれない。実力世界のプロにあって、ボールを投げられないと言うもどかしさはさぞかしだったであろう。その中で、「異常の正常」と言う考え方は、似たような状況にある人には参考になるかもしれない。

著者は、スポーツライター。たまたま伊藤のデビュー戦をスタジアムで観戦し、引退試合もその場にいたと言う。ぜひ、自分の手で伊藤智仁の物語を書きたいと言う気持ちがあったのだろう。それが全編にわたって行間に溢れている。つくづく、現役時代に見てみたかったと思う。知らなかった名投手の野球人生。ファンでなくともじっくりと味わえる一冊である・・・




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2018年05月23日

【日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう「観戦力」が高まる本 もっと楽しく観るためにあなたが持つべき視点とは!?】斉藤健仁 読書日記922



CHAPTER 1 戦術・システムから見る日本ラグビーの現在地
CHAPTER 2 「観戦力」と「駆け引き」を極めるために持つべき視点
CHAPTER 3 世界最高の指揮官に学ぶラグビーの戦術・システム

個人的にラグビーをずっとやって来たこともあって、スポーツの中では間違いなく一番好きなのがラグビーである。しかしながら、私が現役時代だった頃から20年が経過し、ラグビーも随分変化して来た。昔の古い知識をアップデートしたくて手にした一冊。内容はと言えば、タイトルにある通り日本代表を手本にした現代のラグビーの戦術・システムの解説である。

日本代表と言えば、2015年のW杯で強豪南アを破り、史上最大の大番狂わせと言われ、予選では何と3勝を上げ、残念ながら決勝トーナメント進出はならなかったものの、それ以前の成績から比べると奇跡のような結果を出したのも記憶に新しい。その立役者であるエディー・ジョーンズヘッドコーチは日本代表を辞め、今はイングランドのヘッドコーチに転身している。新しいヘッドコーチはジェイミー・ジョセフ。著者による解説はジョセフHCについての説明から始まる。

ジョセフHCは、スーパーラグビーのハイランダーズを率いて優勝を成し遂げたプロコーチで、日本代表の戦術はハイランダーズも取り入れていた「キッキングラグビー」になるとする。キッキングラグビーは、世界のラグビーの動向の1つであり、体格に劣る日本代表には適しているとする。ニュージーランド流の「ポッド」と合わせることで、効率的に進められるとする。

この「ポッド」なるものも現代流の1つで、20年前には当然なかった考え方。「2-4-2」の「3ポッド」、「1-3-3-1」の「4ポッド」がある。これに「9シェイプ」とか「10シェイプ」とかのスタイルが加わるのであるが、用語からしてオロオロしてしまう私などからすると、丁寧な解説が有難い。さらには「T-システム」と呼ばれるアグレッシブに前に出るディフェンスシステムのことなど、目新しい概念の解説が有難い。

そうした基本概念の解説の後、日本代表の実際のゲームにおいてこれらが解説されていく。ゲームは2016年のテストマッチから昨年の対世界選抜、ワラビーズ、トンガ、フランスらとの試合が振り返られる。それらは昨年11月の試合もあり、事例が湯気が出るほど新しいのも有難い。さらに基本解説として、「トライの定義」から始まり、各プレーに渡る基礎講座もあるので、初心者にとっては「観戦手引き」にもなるかもしれない。

それらの基礎講座は素人向けではあるものの、我々のようなオールドタイマーにとっては、例えば「ブレイクダウン」「チョークタックル」などの新しい概念の説明もあるから、密かに学び直すのに持ってこいとも言える。昔は膝から下に行く「チョップタックル」と抱えて倒す「スマザータックル」しかなかったから、ターンオーバーを狙うチョークタックルなんてものは実に目新しい。昔はタックルと言えば、「チョップタックル」であったから、これも時代(というよりルール)の流れである。

最後に奇跡の大番狂わせの南ア戦が振り返られる。考えてみれば、エディーさんはやっぱり大したものだったんだと改めて思わされる。ラグビー初心者にもまた再学習者にも程よい内容の教科書である・・・





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2017年05月02日

【ハードワーク−勝つためのマインド・セッティング−】エディー・ジョーンズ 読書日記791



第1章 日本人独自のやり方で勝つ
第2章 どう戦略を立てるか
第3章 何が勝敗を分けるか
第4章 成功は準備がすべて

 著者は、2015年のラグビーW杯で日本代表ヘッドコーチを務めた人物。すでにW杯前に出版された本(『コーチングとは「信じること」−ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話−』)を読んでいるが、この本は著者自らがW杯後に執筆した一冊。

 「自分はどうせダメだ」というマイナス思考が成功を阻んでいるといきなり著者は語る。著者が日本代表監督に就任した時点での代表選手のスタンスだったそうである。「それを取り除きさえすれば、誰でも成功を手に入れることができる」と続く。そしてメッセージはシンプルにが鉄則。今本当に伝えたいことを一つに絞るのだという。これらは、ビジネスの世界でも通じる考え方である。

・課題を一つ一つ明確にする
・言葉をたくさん使い、口うるさく指導するより潜在意識に働きかける
・全ての選手や部下は公平に扱わなければならない
・コミュニケーションは一対一で弱いマインドセットを変えるには褒めることが一番
・同じメッセージを繰り返すと人はそれに即した行動をとるようになる
・教わる立場で教える:自分が部下だった時にどう教えて欲しかったか、
 どう扱って欲しかったかを思い出す
・口うるさく指摘したり命令したりするのではなく、自身を変える機会を与えてあげる
さすがコーチらしい言葉は、ビジネスの現場でも部下に対する態度として参考にすべきものと思える。

 一方、自分自身が実践するのに良い言葉もある。
・向上心のない努力は無意味
・正しい想定と十分な準備
・与えられたものをこなすだけでは本当の力は生まれない。
 自分で考えたり決断したりすることから大きな力が生まれる
・ミスは必ず起きる。ミスをしないのではなくどうカバーするか
・すべてを考え尽くして勝負に臨め
・感情で人を評価するな
・勇気とは慣れ親しんだ自分を捨てること
・成功は十分な準備がもたらす自分が呼び込む
・言い訳が成功を阻む
・何かを良くしようと思えば、まず自分を客観的に見つめることが大事
・心配ほど無意味なものはない。心配が何かを変えることはない

 一つ一つメモをしていると、気がつけばそれが膨れ上がっていく。日本代表が南アフリカに勝利したのは、決してフロッグではないと改めて思う。と同時に、これだけの人物をイングランドに取られてしまったのは、日本にとって大いなる損失ではないかとも思う。ラグビー好きにはもちろんのこと、ビジネスでも広く応用できる考え方に満ち溢れている。
 部下を持つ人ならば、是非とも一読すべき一冊だと思うのである・・・


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2017年02月23日

【参謀−落合監督を支えた右腕の「見守る力」−】森繁和 読書日記766



序 章 投手会の夜
第1章 なぜしぶといチームは完成したのか
第2章 教えるより考えさせるコーチ術
第3章 落合博満監督の凄さ
第4章 参謀の心得
終 章 選手への愛情は決してなくさない

 著者は、元中日ドラコンズのヘッドコーチ。落合監督の下で8年間苦楽を共にした方で、サブタイトルにある通り、「右腕」としての8年間から得たものを語った一冊である。
プロ野球をほとんど見なくなって久しく、したがって著者の現役時代(1979年〜1988年)はもちろんのこと、そのすぐ後のコーチ時代(西武→日本ハム→横浜)のことも中日に移ってからのこともほとんど知らない。まさに、「落合監督の下でこれを支えた」という一点に興味を持って本を手にした次第である。

 落合監督といえば、やはり2007年の日本シリーズの完全試合目前のピッチャー山井を変えた采配が印象深い。著者はまずそれを冒頭で語る。「非情な采配」と言われたが、実は交代を決めたのは著者だという。山井はマメを潰しており、本人から「岩瀬さんでお願いします」と言われたという。本人が「投げる」と言えば、著者はたとえ監督が反対しても投げさせたというが、本音は「交代」であったため、本人の申し出はありがたかったという。のちに落合監督も「山井に救われた」と語ったそうである。実に興味深い裏側である。

 著者は、横浜のコーチをしているシーズン終了間際に、落合監督から電話をもらい誘われたという。落合監督は、そうして誘った著者の契約期間を3年とし、報酬も球団と交渉して相場よりも高くしたという。そんな裏事情も興味深い。そして「ピッチャーのことはわからないから」と言い、著者にすべてを任せたという。著者はそんなやり方に、意気を感じたようである。だから、日本シリーズの采配に際しても、落合監督が批判にさらされたことを悔やんでいるのである。

 本の表紙に写る著者は、顔もそうだが、コーチとしては怖いのだと言う。しかし、落合監督からは、「絶対に手を上げるな」と言われたらしい。それは「選手が監督やコーチの顔色や機嫌を見て動くようになってはいけない」と言う考えらしい。落合監督自身、若い頃暴力的な指導に反発した経験があるからのようで、こう言う監督の側面は、『采配』には出てこなかったと思うが、別の角度から見た落合監督の姿として興味深い。

 そんな監督の下で、組織づくり体制づくりをした経験から、そのポイントは3つあるとしている。
1. すべてを任せられるトレーニングコーチ
2. 1軍と2軍の情報共有、コミュニケーションをよく取れるようにしておくこと
3. シーズン中も練習をしっかり欠かさないこと
1は意外や意外と言う気がする。選手は調子が悪くても、それを言わないことがあるらしいので、選手の管理という面で大事だということである。2はどんな組織でもやはりそうなのだと思う。3をわざわざ挙げるということは、出来ていないところが多いということだろう。

 著者は投手の起用を一任され、監督からそれを覆されたことはなかったという。こうした権限移譲は、今の自分の仕事でも参考になる。そしてやはりコーチとしての最大の責務は選手の指導育成だと思うが、自分は選手を「育てた」というより「潰さなかった」のだと語る。謙遜しているのかもしれないが、選手としっかりコミュニケーションを取り、「こうやれ」ではなく「こういうやり方もあるよ」と「教えるより考えさせるコーチング」を実行したという。サラリーマンでも、部下の育成にも言えることではないだろうか。

 落合監督が成功した要因は、すべて自分でやるのではなく任せることの重要性を理解していたことだという。そして判断基準は、「優勝のために是か非か」で組織づくりをしており、そのシンプルさが良かったとする。指導に際しては、「監督の言葉を借りるだけの指導は簡単だが責任逃れ」とし、「自分が任されているなら部下にもしっかり任せて責任を取る」としたらしい。こういうやり方は、サラリーマン社会でも効果があるのではと思う。

 プロ野球関係者の本は、読んでいても興味深く、そして得られるものも多い。野村監督の本などはその最たるものであるが、こういう自分が全く知らない人でも同様である。
『采配』とセットで読みたい一冊である・・・


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2016年03月24日

【不動心の魂】五郎丸歩 読書日記641



プロローグ 日本代表最多得点記録更新
第1章 福岡から佐賀 少年時代
第2章 早大時代
第3章 ヤマハ時代
第4章 エディー・ジャパン
エピローグ 不動の魂

著者は、ラグビー日本代表のフルバック。
昨年のワールドカップ・イングランド大会で、「五郎丸ポーズ」ですっかり有名人になってしまったのは、今や誰もが知るところ。
ワールドカップ人気で出版かと思いきや、先日読んだエディーさんの本と同様、ワールドカップの前年に出版された本であると知ってちょっと驚く。
よく出したなと出版社の英断を称えたい気分である。

内容は、五郎丸本人による半生記。
3人兄弟の末っ子で、兄の影響もあって3歳の時からラグビースクールに通う。
小学校時代は一時サッカーに行くも、1歳上の次兄の強い引きでラグビーに戻り、ともに地元佐賀工のラグビー部に進む。
そして兄弟で花園に出場する。

その花園で五郎丸は大きなミスをし、結果的にチームは敗北。
次兄にとっては高校最後の試合になってしまう。
ラグビーエリートにもそうした過去はあるものである。
それでも変な癖がつくこともなく、徹底して基礎を鍛えられた佐賀工時代の恩師にはその教えに感謝している。

そして大学は天下の早稲田へ。
次兄は当時早稲田と日本一を争っていた関東学院大学へ行き、兄弟は袂を別つ。
今はすっかり当時の輝きを失ってしまったが、関東学院と早稲田の戦いは観ていて面白かった。
フルバックの五郎丸のことも覚えている。
何せ変わった苗字だったせいであるが、今はすっかり帝京大学の陰に隠れてしまっている早稲田が輝いていたこの頃の印象が、今も強く残っている。

すでに早くも日本代表入りし、19歳で初キャップを獲得する。
元木や大畑、小野澤ら当時のジャパンの主力メンバーの中でのデビュー。
なんだか懐かしい気がする。
本を読んでいるだけで、試合を見ているような気分になる。

早稲田を卒業してヤマハにプロ選手として入社。
大学時代に引き続き、清宮監督と一緒になり、そして日本代表の監督がエディーさんに変わる。
清宮監督は早稲田時代に大きな影響を受け、そのためヤマハに清宮監督がくることになって、五郎丸も喜ぶ。
監督の影響はやはり大きなものなのだと思う。

そしてエディー・ジャパンの猛練習。
最初のエディーさんのプレゼンで、五郎丸はすっかり「世界トップ10入り」という目標に燃え立つ。
最近では、ストレングス&コンディショニング(S&C)という言葉を使うそうであるが、ウェートトレーニングとハードな練習で成果を上げていく。

昨年のワールドカップは、大して期待もせずに観戦していたが、この本を事前に読んでいたら、初戦の南アフリカ戦はかなり期待して観戦していたと思うと、ちょっと残念な気がする。
そして一躍日本中で有名になった「ルーティン」。
そこにもしっかりとページが割かれている。
つくづく、ワールドカップ前にこの本を出版した先見の明を称えたい気分である。

ラグビー好きには大変興味深い内容であるのはもちろん、にわかファンにも十分楽しめる一冊である・・・


posted by HH at 21:24| Comment(0) | TrackBack(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする