2015年02月27日

【暗殺の年輪】藤沢周平



黒い繩
暗殺の年輪
ただ一撃
溟い海


直木賞受賞作品である「暗殺の年輪」を含む、藤沢周平の時代劇短編集である。
15年ほど前に読んだ本であるが、印象深く記憶に残っており、もう一度読みたくなって手に取った次第。

『黒い繩』の主人公は出戻り女のおしの。
実家に戻っているが、ある日庭仕事をしにきていた元岡っ引きの地兵衛に、何気なく数日前に会った幼馴染みの宗次郎の話をする。
すると、その宗次郎は今江戸を追われて逃げているはずだと地兵衛に言われる。
それからおしのと地兵衛と宗次郎の物語が綴られる。

出戻りとなったおしのの事情。
宗次郎と地兵衛との知られざる関係。
何とも言いようがないラスト。
3者3様の人生が物悲しい。

『暗殺の年輪』の主人公は馨之介。
父親は幼い頃、政争に巻き込まれて切腹している。
ある時期から周囲の目に蔑みが入るように感じられていたが、原因はわからない。
そんなある日、かつて仲が良かったが、今は距離を置かれている貝沼金吾から呼び出しを受ける。

出掛けて行った金吾の家で引き合わされた藩の重鎮。
そこで藩の柱石と言われている中老暗殺を持ち掛けられる。
断った馨之介に金吾が語ったのは、父の死に際し、母がどうやって自分を守ったかという話。
真実を知った馨之介は暗殺を引き受ける。

親子二代にわたって政争に巻き込まれる馨之介。
そして知りたくなかった母の過去。
そして結局は捨て駒でしかない馨之介の運命。
何とも言えぬラスト。

『ただ一撃』は、個人的には一番のお気に入り。
仕官を望んで兵法の試合に臨んだ男が、藩の者たちを次々に倒してしまう。
藩主の不興を買い、再試合となる。
相手として白羽の矢が立ったのは、今やすっかり老けこんだ感のある刈谷範兵衛。

息子に家督を譲り、嫁の三緒の世話を受ける日々。
それが試合の指名を受けて、姿を消す。
かつては合戦の経験もあり、その腕を買われて仕官したと言われている範兵衛。
その範兵衛が見せた行動。
嫁の三緒とのやり取り。
いかにも藤沢周平らしい物語。

『溟い海』は葛飾北斎を描いた作品。
安藤広重の台頭に危機感を抱く北斎。
ネットで両者の作品を見ながら読むと臨場感が伝わってくる。

『囮』は下っ引きの甲吉の話。
彫り物師の下働きをしながら、十手を預かる甲吉は、ある日おふみと言う女の見張りを言いつけられる。
そして見張るはずのおふみと、ふとしたきっかけで会話を交わし、深く惹かれるようになる。

長編は長編で良さがあるが、短編も味わい深い。
直木賞の選定基準など素人にわかるわけもないが、賞を取っていてもいなくても、面白さに変わりはない。
特に“取っていない”『ただ一撃』は心に深く残っている作品である。

藤沢周平の作品の中では、短編集としては、間違いなく「1」に挙げたい一冊である・・・


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2014年08月29日

【凶刃〜用心棒日月抄〜】藤沢周平



『用心棒日月抄』シリーズの第4弾。
前作で見事嗅足組の危機を救い、佐知を江戸に残し、後ろ髪を引かれる思いで主人公の青江又八郎は帰藩する。
それから16年の歳月が流れる。

かつて嗅足組の陰の頭領だった谷口権七郎は既に亡く、榊原造酒が跡を継いでいる。
そしてその榊原から、嗅足組の解散が宣告され、解散式が行われる。
藩主命によるものであるが、青江又八郎は密かに榊原に呼び出され、江戸の嗅足組についても解散する旨、伝達を命じられる。

一方、幕府の隠密も不穏な動きをし、榊原も何者かに殺害される。
今度は藩から正式な命令を受けての江戸出府となる又八郎であるが、又八郎自身何者かに襲われるなど、不穏な空気が漂う。
そして又八郎は、4度目となる江戸への旅に出る・・・

シリーズ第4弾として、そして最後の「用心棒」。
又八郎も40代半ばで、腹も出てと同年代としては共感度が高くなる。
江戸の口入屋の相模屋も年を取り、娘も結婚して子供までいる。
前作の終わりに仕官したはずの細谷源太夫は、なぜか再び浪人生活。
しかも妻を亡くし、子供たちも独立しての一人暮らしであるが、そのせいか酒に溺れ、荒んだ生活を送っている。

ハッピーエンドだった前作であるが、歳月の流れは厳しい。
前3作はいずれも相模屋を通しての用心棒家業で糊口をしのいだ又八郎も、今回はその必要がない。
そして前3作はいずれも短編スタイルだったが、今回は長編。
用心棒に雇われるのも、酒と寄る年並みで腕の衰えを隠せない細谷を助けた一度だけである。

厳密に言えば「用心棒日月抄」ではないのであるが、登場人物は同じだから仕方あるまい。
物語は、幕府隠密の動きあり、嗅足組にも別働部隊がいたりと、面白さは前3作に劣らない。
そして再会した又八郎と佐知。
二人のつつましい物語は、清涼剤として働く。

表向きの藩命は6カ月であり、時が来れば又八郎は帰藩する。
その時が近づくにつれ、佐知は寂しさを訴えるが、それは最後のページが近づく読み手の気持ちでもある。
そしていよいよ最後の剣劇となる・・・

藤沢周平の作品の中では、このシリーズはやはりベスト3に入る傑作だと思う。
今回改めて読みなおしてみたが、その思いは変わらない。
またしばらく時を置いたら、三度読みなおしてもいいかもしれない。
主人公の青江又八郎は4度江戸へ行った事だし・・・
そういう意味で、いつまでも手元に置いておきたい4冊である・・・




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2014年08月23日

【刺客 用心棒日月抄】藤沢周平



陰の頭領
再会
番場町別宅
襲撃
梅雨の音
隠れ蓑
薄暮の決闘
黒幕の死

藤沢周平の『用心棒日月抄』シリーズ第3弾である。
前2冊とも脱藩した主人公が、無事帰藩してハッピーエンドとなっており、おそらくそれで完結するはずが、好評に押されてシリーズ化されていったのではないかと思っていたが、解説を読むとどうもそんな感じのシリーズ第3弾である。

前回、無事間宮中老から託された任務を果たし、帰藩した青江又八郎。
今は妻の由亀と母と静かに暮らしている。
又八郎の働きにより、寿庵保方による陰謀も一件落着かと思われた。
仕官の口をあっせんした細谷源太夫は、結局又八郎の仲介を断ってくる。
そんなある夜、又八郎は斬り合いの現場に出くわす。
しかし、役人を呼ぶ間に斬られて死んだはずの男の死体が消えてしまう・・・

間もなく、又八郎は元筆頭家老の谷口権七郎から呼び出しを受ける。
そこで又八郎は、谷口こそ嗅足組頭領であり、かつ佐知の父だと知る。
谷口が言うには、寿庵保方は藩主の座をいまだ狙っており、その邪魔になる嗅足組をなきものにしようとしているとの事。
そして既に江戸の嗅足組抹殺のため、刺客を送ったらしいと教えられる。

谷口は、事情を知る又八郎に対し、密かに江戸へ行き嗅足組に警告するとともに、5人の刺客から嗅足組を守るように命じる。
刺客の筆頭は、貫心流の名手筒井杏平。
『用心棒日月抄〜孤剣』で佐知をはじめとする嗅足組に助けられた恩義もあり、又八郎は谷口の命を受ける。

命令とはいえ、密命につき表向きは脱藩。
こうして三度脱藩という形で又八郎は江戸へ向かう。
重要な藩命を受けているとはいえ、秘匿性から藩の江戸屋敷には行けない。
資金は谷口より得ていたが、泥棒に入られる失態により生活の糧は自ら稼がなくてはならなくなる。
そこでまた、又八郎は口入屋の吉蔵の元へと行く。

佐知の協力により刺客を捜索する一方、用心棒仲間の細谷と相模屋吉蔵に紹介された仕事をこなす日々が繰り返される。
一人、また一人と刺客が現れる。
又八郎の剣の腕は健在。
国元には由亀という妻がおり、娘も生まれた身ではあるものの、佐知との親密な関係も続く。

剣劇とラブストーリーとがうまく絡み合い、シリーズ第3弾も実に面白い。
藤沢周平のベスト3を挙げよと言われれば、『蝉しぐれ』『暗殺の年輪』とこのシリーズを挙げたいと思う。

今回もハッピーエンドとなるが、シリーズは第4弾へと続く。
一度読んだとはいえ、ワクワクしながら何度でも読もうと思うところである・・・



    
    
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2014年08月02日

【用心棒日月抄−孤剣】藤沢周平



剣鬼
恫し文
誘拐
狂盗
奇妙な罠
凩の用心棒
債鬼
春のわかれ

藤沢周平による時代劇。
中でもシリーズモノとなっている『用心棒日月抄』シリーズ第2弾である。
前作で無事、藩に復帰した青江又八郎。
許嫁の由亀と再会し、自宅で母と共に3人で暮らしている。

平穏な日々だが、長く続かない。
権力を手にした間宮中老から呼び出された青江又八郎は、藩内にまだ旧大富派の勢力が残っている事、そしてその筆頭は前藩主の異母兄である寿庵保方であるらしいと聞かされる。
その証拠となる連判状を大富家老の一族である大富静馬が持っているらしい。

証拠を持って藩外に逃れた大富静馬を公儀隠密が追っているらしいことも判明し、事は藩内の対立に留まらず、お家取り潰しのリスクも出てきている。
かくなる上は、大富静馬を追い連判状を取り戻すべしと間宮中老は、青江又八郎に命じる。

せっかく取り戻した穏やかな生活。
しかし、藩の一大事とあれば断る事もできず、又八郎は再び江戸へと向かう事になる。
前回はやむなき脱藩だったのに対し、今回は藩命。
手厚いサポートを期待したいところだが、藩内対立と財政難から又八郎は金銭面でのサポートを受けられず、自ら糊口をしのぎながら大富静馬を追うことになる。

かくして再びの用心棒家業。
口入屋の吉蔵や浪人仲間の細谷源太夫も再登場。
さらに今回は米坂八内という浪人もメンバーに加わる。
そして前回、又八郎が助けた佐知が、実は藩内で嗅足組と呼ばれる忍者のメンバーであり、その関係で又八郎を助けることになる。

江戸での用心棒家業をこなしながら、佐知のもたらす情報を元に、大富静馬を追う又八郎。
用心棒としてのエピソードを交えながら物語は進む。
やはり何度も読んで楽しめるところがある。
故郷に由亀を残してきているとはいえ、佐知の存在も大いに気になる又八郎。

武士モノらしい剣劇の面白さと、佐知を登場させロマンスの香りも漂わせ、最後まで一気に読ませてくれる。
藤沢周平の作品の中ではトップ5に入れたいシリーズである。
残りの2巻も早々に読みなおしたいと思うところである・・・



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2014年07月14日

【用心棒日月抄】藤沢周平



犬を飼う女
娘が消えた
梶川の姪
夜鷹斬り
夜の老中
内儀の腕
代稽古
内蔵助の宿
吉良邸の前日
最後の用心棒

藤沢周平の作品はもうかなり読んでいる。
まだ読んでいない作品もかなりあるが、もう一度読みたいと思う本も少なくない。
この「用心棒日月抄」シリーズはその筆頭であり、今回改めてシリーズ第一作を手に取った。

主人公の青江又八郎は浪人。
かつてはさる北国の藩で仕官し、城下の道場では師範代をも務める腕前であったが、藩主謀殺の計画に巻き込まれ、やむなく許嫁のお由亀の父親を斬って脱藩している。
江戸に出てきた又八郎は、食うために長屋に住み、口入屋の相模屋に仕事を世話してもらいながら糊口をしのいでいる。
相模屋の主人吉蔵の下には求人情報が集まり、吉蔵は又八郎や同じ浪人の細谷源太夫などの求職者に仕事を世話しているのである。

最初の仕事は犬の用心棒。
「生類憐みの令」の世の中、田倉屋の妾宅の飼い犬が何者かに狙われる。
万が一の時には責任が本家に及ぶ事を恐れた田倉屋が、犬のために用心棒を雇うことにしたのである。

そして次がやはり商家の娘の護衛。
犬や娘の護衛と言った仕事に、武士のプライドにちくりとくるものを感じながら、それでも時には人足仕事しかない事もあり、贅沢は言えない。
そうして次第に又八郎は江戸での暮らしに慣れていく。

そんな又八郎の日常生活を描きつつ、国元からは藩主謀殺を主導した大富家老が、口封じのために刺客を送ってくる。
一方、世の中では、松の廊下で吉良と浅野の刃傷事件が起きる。
そして又八郎の身の回りで、復讐に燃える赤穂浪士の暗躍が始る。

口入屋の吉蔵や、六人の子持ち浪人の細谷などとの交流を描きながら、物語は進んでいく。
赤穂浪士との絡みや、国元からの刺客との死闘があり、この手の武士モノとしての魅力を十二分に網羅したストーリーは読み応え十分。
結末を読むと、この物語は完結しているが、シリーズ化されたのは後から読者の支持が出てきたのだろう。

内容の面白さを鑑みればそれも十分頷ける。
久々に読み返してみたが、その面白さは全く色褪せていない。
これを機に、改めて全シリーズを読み返してみようと思わせられた。
藤沢周平の世界を語る時に、外せないシリーズであると強く思うのである・・・

 


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2013年09月26日

【風の果て】藤沢周平



方貝道場
わかれ道
太蔵が原
春の雷
暗闘
町見家
政変
陰の図面
天空の声

ちょっと読みモノに間が空くと、藤沢周平を手に取る事にしている。
やっぱり、藤沢周平の時代劇は、なんとなくほっとさせられるものがある。

主人公は、藩の主席家老桑山又左衛門。
ある日、又左衛門の許に1通の果たし状が届く。
差出人は、野瀬市之丞。
実は又左衛門と市之丞は、かつて同じ道場に通う仲間であった。

物語は、まだ又左衛門が上村隼太と名乗っていた時代と主席家老の桑山又左衛門となった後とを対比させながら進んでいく。
隼太、市之丞、杉山鹿之助、寺田一蔵、三矢庄六の5人は仲の良い道場仲間。
道場では対等に汗を流している。

しかし、やがて身分社会ゆえの分かれ道がやってくる。
杉山鹿之助は、失脚したとはいえかつて藩政に携わった名家の嫡男。
あとはみな次男坊以下。
それぞれの家に上士下士という差がある上、嫡男がすべて相続する時代。
次男坊以下は、婿の口に恵まれなければ、一生部屋住みの「厄介叔父」として子供も持てずに終わる時代。
そんな中、必然的に話題は「婿養子の口」となる。

一方、江戸藩邸の出費を中心に支出が嵩み、藩の財政は苦しい。
そんな中、新田開発が一縷の希望としてある。
されど期待される太蔵が原の開墾は、水の確保が至難の業。
自分に出来る事はないかと、一人その地を訪れた隼太は、郡奉行の桑山孫助と出会う。
実は以前、隼太は桑山の娘との縁談を断った経緯があった・・・

武士の中にも上士と下士という身分の差がある。
下士の次男坊であった隼太がどうして筆頭家老にまで上り詰める事ができたのか。
そして冒頭での、かつての友市之丞からの果たし状の行方は?
興味をそそられながら、物語を読み進めて行く事になる。

武士モノらしく、要所要所で剣戟の面白味を交えながら、藤沢周平独特の雰囲気を漂わせて物語は進む。
親しかった友人たちも、いつもずっと一緒というわけにはいかない。
物語を読み進めながら、そう言えば自分も小学校時代に仲の良かった5人が、今はバラバラで会う事もないと、ふと思う。
誰にでもありそうな、そんな物語。
江戸の世でも現代でも、同じなのだろうと思えた・・・


    
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2013年08月22日

【秘太刀馬の骨】藤沢周平




藤沢周平の本も随分と読んだのであるが、ふと再び手に取った一冊。
藤沢周平の描く江戸の世の物語の中でも、やはり剣戟モノが面白いと思うところである。

主人公は近習頭取浅沼半十郎。
ある日、派閥のボスでもある家老の小出帯刀に呼び出しを受ける。
要件は、6年前に家老望月が暗殺された際、使われたと言われている「馬の骨」と呼ばれるまぼろしの剣法を探せというもの。
捜索は甥の石橋銀次郎が行うゆえ、半十郎にはその案内が命じられたのである。

こうして始った幻の剣探し。
まずは、その昔「馬の骨」の使い手であった矢野仁八郎の道場を訪ねる。
ところが、子息の藤蔵は、秘太刀の伝授を受けていないという。
さればと立ち会った銀次郎だが、藤蔵との立ち会いでその言葉に嘘はないとわかる。

そしてそれを皮切りに、技の伝授を受けていそうな高弟5人を訪ね歩く。
あの手この手で試合をしては、後継者を探すのであるが見つからない。
平行して描かれる半十郎の家庭不和。
長男を亡くして以来、妻杉江は心の病を患っている。

秘太刀の捜索と、江戸の世の人間模様。
相変わらず藤沢周平の世界は心地良い。
果たして秘太刀の後継者は誰なのか。
ラストでの謎かけ。
解説者が意外な後継者名を挙げているが、それはそれで疑問も残る。

どうなんだろう?
久々に他のものも読んでみたくなった・・・

    
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2011年04月22日

【春秋山伏記】藤沢周平

春秋山伏記 (新潮文庫) [文庫] / 藤沢 周平 (著); 新潮社 (刊)

時代劇の名手藤沢周平。
一口に時代劇と言ってもそこで展開されるドラマはさまざまだ。
武士や農民や町民など、身分や男女によって実に多くの物語ができる。
そして偏りなく、数々の物語を生み出しているのが藤沢周平とも言える。
この本での主人公は、タイトルにある通り「山伏」である。

例によって舞台は東北地方のある村。
はっきりと書いてはいないが、藤沢作品ではおなじみの海坂藩かもしれない。
そんな村にやって来た山伏。
大鷲坊と名乗るその山伏は、それまで村にいたモグリの山伏を追い出して、正式に着任する。

山伏は村々に派遣され、祈祷を上げたりして生計を立てていたのだろうか。
大鷲坊は病人が出れば行って祈祷を上げたりして、村の中で次第に地位を確立する。
そんな日々の中、村ではいろいろな事件が起こる。
貧しさに娘を売った男が、その金を飲んで使いはたしてしまい、困った挙句浮気をしていた男をゆすったり、かつて村人たちにひどい仕打ちを受けた家の息子が成長して戻ってきたり、嫁とりに苦労している男や、娘がさらわれた女房の話などが諸々綴られる。

特にドラマチックな盛り上がりがあるわけではない。
しかし大鷲坊を中心に描かれる村の人々の姿はしみじみと印象に残る。
これも藤沢作品ならではの味わいと言える。
全編にわたって庄内弁のセリフが続くのも特徴的だ。
田舎の村の様子が一段と雰囲気を増す。

山伏を主人公に添えたという点で、いままでとは毛色の違う作品となっているが、まあこういう作品も藤沢作品の幅の広さと言える一冊である。


     
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2010年03月03日

【暁のひかり】藤沢周平

藤沢周平といえば時代劇。
時代劇といえば藤沢周平。
かつては時代劇と聞くだけで避けて通っていたが、藤沢周平を読んでからはすっかり抵抗がなくなった。
これは久々に手にした藤沢周平の時代劇短編集である。

藤沢周平の時代劇の特徴としては武士から商人まで幅広い物語が楽しめるというところにある。
刀を振り回すだけが時代劇ではない。
市井に生きる人々のさり気ない日常生活も丹念に描かれていたりするのである。

ここに納められているのは6篇の短編。
壷振りの市蔵、裏店に住む馬五郎、商人の息子造酒蔵、壷振りの浅次郎、ヤクザ者の熊蔵、桔梗屋市兵衛と主人公はいずれも町人・商人である。
裏店に身を寄せ合って住む彼ら。
今と違って貧しい者たちには何の保証も無い、その日暮らしの生活。
それでも小さな幸せがあり、かと思えば無情な出来事が彼らを襲う。

今はもう姿を消した江戸の街に住む人々。
せめてこれぐらいの願いは叶えられてもいいのではないかというささやかな夢に敗れていく人々。
静かに、そして淡々と描き出される彼らの姿に、これが世の中なんだろうかと思わせられる。
いつもの通り、味わい深い時代劇である・・・



暁のひかり (文春文庫)

暁のひかり (文春文庫)

  • 作者: 藤沢 周平
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/02
  • メディア: 文庫



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