2017年02月02日

【潮騒】三島由紀夫



 三島由紀夫の本は、一時期凝っていて集中して読んだものである。何となくもう一度読んでみたくなって、あまりヘビーなものより軽いものとして本棚から取り出したのがこの一冊。三島由紀夫の本の中では、ちょっと他と違って異彩を放つ恋愛小説である。

 舞台となるのは伊勢湾にある歌島。人口1,400人、周囲一里に満たない小島であるという。その島に住む18歳の若者久保新治がこの物語の主人公。新制中学(今の高校)を出た後、島の多くの若者がそうなのであろう、親方の船に乗り漁に出ている。父親は戦争中に敵機の機銃掃射を受けて死んでおり、母親が女手一つで海女をしながら新治と弟を育て上げたのである。

 そんな新治が、漁の後ヒラメを燈台長のところに届けるべく歩いて行くと、浜で見知らぬ少女を見かける。のちに村一番の金持ち宮田の照爺が呼び戻した娘初江だとわかるが、新治は初江に心を動かされる。金持ちの娘と貧乏人の男の恋物語という構図は、いかにもありふれている。そうしてそういう物語の大概がそうであるように、主人公には名門の息子安夫というライバルが登場する。

 自分には縁のないものと考えていた新治だが、ある日偶然山の中で道に迷って泣いている初江と出会う。道案内をしつつ、ほんの短いひと時を新治は初江と過ごすが、このひと時を新治はこの上なく幸せに感じる。何の娯楽もない島で、しかも戦後間も無くで初江はモンペを履いている。そんな時代の若者の純情が伝わってくる。

 どちらともなく、新治と初江は惹かれ合い、やがて密かに逢瀬を重ねるようになる。ある嵐の日、待ち合わせした二人は密かに観的哨(戦時中、砲弾の着弾地点を見極めるための軍施設)で合う。互いに裸になり濡れた服を乾かすが、清らかな関係のままである。これも時代であろうか。時代といえば、昼食を中食(ちゅうじき)と表現しているなど随所に古い言葉が使われていて、時代を感じさせるところである。昭和30年に発表された作品であることを考えると、不思議ではない。

 村で二人の関係が噂になると、初江の保護者である照爺は初江に新治と会うことを禁ずる。これも王道ストーリー。禁断の恋はますます二人の気持ちを盛り上げる。田舎の小さな島の戦後間もない頃の話であるが、純粋に心が洗われるような爽快感が漂う。夏目漱石もそうであったが、昭和の文豪たちの小説には独特の味わいが含まれていて、妙な懐かしさを覚えるのは自分が若い頃に読んだという影響もあるのだろうか。

 ビジネス書もいいけれど、こういうかつて読んだ小説を時を経てもう一度読んでみるというのもいい気がする。三島由紀夫の小説はまだ本棚に並んでいるから、折を見て手にとって見たいと改めて思う。忘れかけていた純情を思い出させてくれるかのような一作である・・・



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2017年02月01日

【師弟】野村克也/宮本慎也



第1章 プロセス重視
第2章 頭脳は無限
第3章 鈍感は最大の罪
第4章 適材適所
第5章 弱者の兵法
第6章 組織
第7章 人心掌握術
第8章 一流とは

野村監督の本の面白さは、単に野球の裏話的なところではなく、ビジネスの世界などにも十分通じる学びが多いところだと思っている。そんな監督本であるが、今回は教え子の元ヤクルトの宮本選手とのコラボとなっている。またこれも面白そうだと手にした次第。

野村野球とは、プロセス重視の野球だとする。かなり含蓄のある言葉である。プロ野球で優勝するには二つの条件があるそうである。
1. 手段を選ばずに選手をかき集め絶対的な強さを持つ
2. 優勝にふさわしい心を持ったチームにする
野村監督は当然後者の方であったが、「心を持ったチーム」という考え方が深い。

プロ野球の監督は、「個人の成績」と「チームの勝利」という一見矛盾するものを言葉によって結びつけるのが大きな仕事だという。チームが負けても個人の成績がよければ、年棒が上がるわけだし、それは実は会社にも当てはまらなくもない。監督の教養の深さではあるが、言葉を覚えれば覚えるほど、思考の範囲は広がっていくとして含蓄のある言葉がいくつも出てくる。
「生きるための目的を持っている人はほとんどどんな生き方にも耐えられる」(ニーチェ)
「無知を自覚することから進歩が始まる」
密かにメモしたい言葉である。

プロセス重視ということについて。
・プロセスがあるからこそ、結果が出たときに本当の力になる
・プロセスなき成功は失敗よりも恐ろしい
とかくビジネスでは結果がすべてという考えに支配されがち。それはその通りだと思うが、その結果を出すためにこそプロセスにこだわるというのも真実だと思う。

 さらに深みのある言葉が続く。
・無欲の勝利とは、欲を捨てたわけではなく、欲を超越したからこその精神状態
・人の値打ちは失敗するかしないかではなく、失敗から立ち上がれるかどうかで決まる
また、「とは理論」というのも興味深い。「野球とは」「守備とは」「攻撃とは」と考えていく。「哲学とは『考える』こと、さらに『考える』ということについて考えることである」というソクラテスの言葉が紹介されているが、このあたりは個人的に気に入っている。

宮本という選手は、派手なイメージはないが、脇役として一流に徹した選手だったようである。2000本安打を達成しているが、2000本安打と同時に400塁打を達成しているのは野村監督をはじめ15人いるらしいが、400犠打を達成しているのは宮本氏しかいないそうである。そんな一流の脇役が、「セールスポイントを1つ以上持つ」ことが「オール3」よりも大事だという。「オール3」人間だった自分には痛いほどよくわかる。

・習慣は才能より強し
・言い訳は進歩の敵
野球以外の世界でも、もちろんビジネスでも当てはまる言葉だと思う。「プロ野球で生き残るための15か条」が紹介されているが、それらはみんなプロ野球以外でも通用する言葉だと思う。

・人と同じことをやっていては人並みにしかなれない
・目的意識と目標意識を持つことが最も重要
・常に自信を持って臨む
・プロ意識を持ち続ける
・人真似(模倣)にどれだけ自分のαをつけられるか
・戦いは理を持って戦うことを原則とする
・状況の変化に対し、鋭い観察力、対応力を持っていること
・セールスポイントを1つ以上持っていること
・自己限定人間は生き残れない
・常に最悪を想定して対策を練り備えておく
・仕事が楽しい、野球が好きだの感覚を持て
・敗戦や失敗から教訓を学ぶこと
・反省とは未来に向けてやるもの
・イマジネーションのないところにクリエーション(想像力)は生まれない

 やっぱり今回も野村監督の本に裏切られることはなかった。教え子である宮本氏の考え方にも興味を持った。今後どこかの監督になられたら注目したいと思う。いつもながら学びの多い一冊である・・・



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2017年01月31日

【さらば価格競争】坂本光司



第1章 価格競争型企業の終焉
第2章 非価格経営に挑む中小企業21社
第3章 非価格経営実現のための8つのポイント

 著者は、法政大学の教授。『日本で一番大切にしたい会社』『ちっちゃいけど世界一誇りにしたい会社』などの企業紹介シリーズを手がけている方。今回はちょっと趣向を変え、「非価格経営」に取り組んでいる企業を紹介する一冊。

「非価格経営」とは、「価格が安いことを唯一の存立基盤とする経営」ということである。著者が、「非価格経営に関する実態調査」なるものを行なったところ、実に81%の企業が「価格経営型」の企業であったという。「他社より安い」はもはや続かない。ベトナムや中国の技術も高まってきており、人件費を抑える企業はもはや限界であり、消費者も価格より本物を求めている。生き残る道は価格競争からの脱却しかないと著者は訴える。

そんな非価格経営の代表的な企業が21社紹介されている。ビニール傘を初めて考案したホワイトローズは、美智子皇后も使用する宮内庁御用達企業。刀鍛冶で培った技術で包丁を作る盛高鍛治刃物、オンリーワン万年筆の万年筆博士、天体望遠鏡・双眼鏡製造のビクセン等は、ニッチの世界を開拓している。特にビクセンは、新たなターゲットを女性とし、カラフルな双眼鏡を開発し、「宙ガール」のブームを仕掛ける。こういう取り組みは、何か自分たちの仕事でもヒントが得られそうな気がする。

人形作りという衰退産業と思われる業界でも伝統は伝統としつつ、本当のお客様を見極め、そのニーズに応えることでふらここは1年先までの予約を抱えるまでになっている。古い職人には作ってもらえなかった新しい人形を苦心して作ってという経緯は、自分たちの業界は頭打ちだと思っているところにはいいヒントになると思う。

食品工場の建設に特化し、徹底的に研究し、顧客視点によるオーダーメイド志向で成功する三和建設。お茶屋のかき氷で成功しているしもきた茶宛大山、高品質な手仕上げ、24時間365日営業、社員の65%が障害者というプラスアルファ。テレビでも紹介されているパンの缶詰を製造するパン・アキモト。どの企業も一直線で成功したわけではなく、苦難の道を経ているようである。それを支えたのは経営者の信念だろうか。

非価格経営実現のための8つのポイントは下記の通り。
1. 企業経営の真の目的、使命を果たす
2. 価格は需給のバランスで決定する
3. 価格競争型経営からの段階的決別
4. 非価格経営の創造
5. 創造型人材の確保・育成
6. 外部有用経営資源の内部化経営
7. 適正価格経営
8. 先進企業に学ぶ

思うに、漫然と日々の業務に追われていたら、とてもできないであろう。非価格経営への転換を意識し、先進企業の事例から自分たちにも応用となるヒントはないだろうかと志向を重ね、考えて努力していくことが必要であろう。自分たちにもできると考え、大いにヒントにしたいと思う一冊である・・・


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2017年01月28日

【Q思考】ウォーレン・バーガー



原題 : A More Beautiful Question
Introduction 「美しい質問」だけが美しい思考を生む
第1章 「Q」で思考にブレイクスルーを起こす-次々と問いを重ねる思考法
第2章 子どものように「なぜ」と問い続ける-質問し続けるアタマをつくる
第3章 「美しい質問」を自分のものにする-Q思考の「3ステップ」をマスターする
第4章 ビジネスに「より美しい質問」を与えよ-あなたの仕事を劇的に変える「Q」
第5章 「無知」を耕せ-問いであらゆる可能性を掘り起こす

 これまでにも例えば『パワー・クエスチョン』などのように、良い質問が問題解決につながるといった趣旨の本を何冊か読んできている。もう語り尽くされてきた感があるが、さらにまた同様の本かと思うとちょっと違う。原題は“A More Beautiful Question”、「美しい」というフレーズがなぜか気に入った本である。

 まずこの本で強調するのは、「思考」。「美しい質問だけが美しい思考を生む」としている。「良き質問が問題解決につながる」といった従来の本とはちょっと違う。世の中のルールを変えるほどの偉業を成し遂げた人たちの共通点は、「疑問を抱き質問をすることが抜群にうまい」ということだとする。アイデアは常に疑問から生まれ、質問によって脳にも負荷がかかるのだとする。

 そんな質問する能力をどうしたら伸ばせるのか。著者は3つのアプローチを説く。
「なぜ」
「もし〜だったら」
「どうすれば?」
これまでの「質問本」では、どうしたら的確な問いができるのかという問題があったが、この本ではそのヒントがふんだんに溢れている。

・自分で行動しなければ、疑問はボヤキになる
・正しい問いは「洗練された思考」になる
・イノベーションとは時間をかければ答えられそうな新しい疑問を見つけ作り出そうという行為のこと
具体的な問いとその成果たる企業の事例も数多く紹介されている。
・なぜこんな延滞料金を払わなければならないのか→ネットフリックス
・なぜ写真ができるまでこんなに待たないといけないのか→ポラロイド
・アニメはもっとかわいくできるのではないか→ピクサー

 まずは目の前にある問題を質問の形で明瞭にしてこれを認識し、系統立てて考え工夫する、そして文脈を掴んでいくとする。
Q(question)+A(action)=I(innovation)
Q(question)-A(action)=F(filosophy)
という公式は、なるほどである。

 小さい子供は、数多くの質問を口にする。だが、小学校に入り中高と進むにつれ、質問は減っていく。もちろんそれだけ多くの知識を得ているということもあるだろうが、それ以上に「こういうものだ」と教えられることにある。知識は押し付けても身にならないと著者は言う。確かにその通りである。

鋭い「なぜ」を生み出すには、「一歩後ろに下がる」、「知っていることをやめ不思議がる」ことが必要だと言う。デジャヴならぬ「ヴジャデ(自分がよく知っているものを見ている時に突然それを新鮮に感じてしまうこと)レンズ」で眺める訓練をすると新しい可能性が広がると言う。トヨタに習って「5なぜの法則」も効果的だとする。

そのほか、
・既存のアイデアからスマートな再結合わする
・他人に話してみる
・描いてみる
・人に見せる
・否定的意見を最大限利用する
といったことも効果的。

ビジネスにより美しい質問を与えるには、
・存在理由を問うところから始める
・定期的に「過去の理想」を振り返る
・誰がどのように使い、何を求めているかを知る
・今残っている「不都合」を解決する
・自分たちは何をしているのかを掘り下げる
ことがヒントになるとする。

 より美しい質問はどうしたらできるようになるのか、そのヒントも数多く記載されている。それらを一つ一つ自分の身の回りのものに当てはめていけば、かなり思考力は磨かれるのかもしれない。そんなヒントにあふれた一冊である・・・

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2017年01月24日

【これ、いったいどうやったら売れるんですか?】永井孝尚



第1章 腕時計をする人は少ないのになぜ腕時計のCMは増えているのか?
第2章 人はベンツを買った後どうしてベンツの広告を見てしまうのか
第3章 雪の北海道でマンゴーを育てる?-「商品戦略」と「顧客開発」
第4章 あの行列のプリン屋が赤字の理由
第5章 なぜセブンの隣にセブンがあるのか?-「チャネル戦略」と「ランチェスター戦略」
第6章 女性の太った財布には、何が入っているのか-「プロモーション戦略」と「マーケティングミックス(4P)」
第7章 きゃりーぱみゅぱみゅは、なぜブレイクしたのか?-「イノベーター理論」と「キャズム理論」
第8章 古本屋がふつうの本屋より儲かる理由-「マイケル・ポーター5つの力」と「競争戦略」

基本的に読書は、ビジネス系と小説系とに分けている。ビジネス系は仕事に役立てたいという理由からだし、小説系は純粋に趣味である。そんなビジネス系も、乱読のようでいてあるキーワードには黙って手が出るという傾向がある。その一つが「マーケティング」ある。そんなマーケティングについて、「身近なものからはじめて楽しみながらマーケティング理論がいつの間にか自然とわかるようにした」のが、本書だということである。そんな著者の肩書きは、「マーケティング戦略アドバイザー」となっている。

はじめに、「腕時計をする人は少ないのになぜ腕時計のCMは増えているのか?」というシンプルな問いがなされる。昔は時計といえば、「時刻を正確に知る」という理由であったが、今は「体力を強化する(ジョギング専用ウォッチ)」、「安全に登山する(登山専用ウォッチ)」、「グローバルでビジネスを成功させる(GPSソーラーウォッチ)」なのだという(個人的には「ファッション」だと思えてならないが・・・)。要は、時計によってどんな価値を得られるかということである。

それを「バリュープロポジション」というのであるが、それはまた「お客さんがお金を出す理由」であり、それを考えることが重要だとする。「徹底的にお客さんの立場に立って考えてみること」、「目を皿のようにしてまだ見ぬお客さんのニーズを見つけ出すこと」が必要だとする。この考え方は参考になる。自分の事業に当てはめてみるとどうなるであろうか、しばし考えて手が止まる。

続く顧客ロイヤルティの考え方は面白い。お客さんは何種類もいるとして、その種類を「潜在客」「見込客」「新規顧客」「リピーター」「贔屓客」「ブランド信者」としている。どのお客さんに価値を提供するかを考え、正しいお客さんを選びそのお客さんに常に期待を超える価値を提供し裏切らないこと、その蓄積がブランド価値を作るという。

また、南国のフルーツマンゴーを十勝で作っている例を挙げ、イノベーションを解説する。「真冬にトロピカルフルーツを食べたい」「口臭で人間関係を悪くしたくない」「加齢臭をなんとかしたい」というお客さん自身も気づかないニーズに対応することである。それを考える上で、商品中心のプロダクトアウトは失敗するとする。「お客さんの言いなりになると失敗する」という指摘は重要だ。

商売が収益を上げて継続でき、成功するかどうかは価格戦略次第、マーケティング次第だという。興味を持たない相手にいかに振り向いてもらうか。はなまるの他店期限切れクーポン作戦はなかなか鋭いと感心する。こうしたプロモーション戦略は異性と付き合うきっかけ作りと同じだという。それについては同感だ。

ビジネスで戦うためのたった3つの方法は、
1. 業界で最も低コストを目指す「コストリーダーシップ戦略」
2. 顧客の特定のニーズに対してベストを目指す「差別化戦略」
3. 狭い市場で徹底的な差別化を目指す「集中戦略」
だという。これらは戦略の基本事項として学んでいるが、改めて意識したいところである。

確かに著者の言う通り素人でもわかりやすい内容である。初心者にとっては手軽に基本を学べると言う利点がある。一方、ある程度の基礎がある人なら、自分の仕事に当てはめながら読むといいだろう。事実、自分もいろいろと事業を考えるヒントになったのは確かである。ビジネス系は、そう言うヒントになりそうなものを読みたいものだと改めて思わされる一冊である・・・



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2017年01月20日

【組織サバイバルの教科書韓非子】守屋淳



第1章 人は成長できるし、堕落もする-「徳治」の光と影
第2章 『韓非子』は性悪説ではなかった?
第3章 筋肉質の組織を作るための「法」
第4章 二千年以上も歴史に先んじた「法」のノウハウ
第5章 「権力」は虎の爪
第6章 暗闇の中に隠れて家臣を操る「術」
第7章 改革者はいつの時代も割に合わない
第8章 人を信じても信じなくても行きづまる組織のまわし方
第9章 使える権力の身につけ方

ここのところ中国の古典に興味を持っているのだが、そんなところに飛び込んできたタイトルに迷わず手を出した一冊。韓非子の名前は知っていたが、正直言ってその思想はよくわからなかった。改めてその内容を学びがてらの読書となる。

中国古典といえば、何と言っても日本では論語であろう。なんとこの韓非子はその論語と対極的なものらしい。論語的な組織観は、いわばムラ社会のような組織観で、それを成果の出せる目的を持った引き締まった組織に変えるのが韓非子だという。喩えれば日本型経営システムに対する成果主義の導入のようなものらしい。実にわかりやすい喩えである。

論語と韓非子の組織観は水と油。例えば、
1. 人のあり方
(論)人間志が重要だ↔(韓)しょせん人間は利益に目がくらむ
2. 政治において重視するもの
(論)上下の信用↔(韓)信用などあてにしていたら裏切られる
といった具合である。

韓非子は、国土は狭く、人口は少なく、国力では戦国の七雄国家の一つながら最弱国であった韓の国にあったという。国の生き残りという目的を掲げ、国中すべてがそこにベクトルを合わせた筋肉質の国家体制を作るという命題があり、それを背景にしていた。人の本性は弱さにあり、人は信用できないという考え方をベースにしているという。法の公平な適用、そして「恩賞」「厳罰」「名誉」という3要素によって共通の価値観というレールを敷き、組織を一つにまとめようとする思想である。

その中にあって名君は、「刑」と「徳」という「2本の操縦桿」によって臣下を統制する。国を富ませるのは農民、敵を防ぐのは兵士、利益を出すという目的のために全員が一つにまとまった組織を目指す。そこでは「恩賞」「報酬」を素直に欲しがり、「厳罰・不名誉」には心底怯えるという人間以外は不要とされる。そして完全成果主義の組織となる。論語の価値観と異なる様がよくわかる。そして論語の価値観を良しとする人からすれば、居心地の悪さを感じるものである。

法による統治を徹底することを主張するその思想は、「人はハカリやマスに文句はつけない」として、官吏がハカリやマスのように法を曲げず私益を求めなければ賄賂も横行しないとする。法と権力で組織をまとめ、それを「術」を駆使して維持する。今の中国社会も韓非子の思想が取り入れられていたら、汚職追放キャンペーンなども不要だっただろうと思えてならない。

中でも面白かったのは、「相手のためにやっているんだという気持ちがはさまれると、人は相手を責めたり恨んだりしたくなる。自分のためにやっているんだと思えばうまくいく」という考え方。なんとなく韓非子の思想から外れる気がするが、これは素直に同意できる言葉である。そこから「雇用関係とは、お互いに自分の利益だけを考えた結びつきだからこそ逆にうまくいく」とする。なるほどと思うところである。

昨今、日本の大企業で不祥事が続くが、その根底には論語的価値観の「世話になった先輩だから逆らいにくい」という考えがあるという。だからと言って、ガチガチの成果主義も居心地が悪い。著者も上に立つ人間には「覚悟」と「二重人格性」が必要と説く。論語的価値観と韓非子的価値観の療法を兼ね備えたものだが、そのバランスがいいように思う。最後に君子への説得の難しさをして、「意見を聞いてもらう難しさとは相手の心の内を知って自分の意見をうまくそこに当てはめていくことにある」とするところも心に残ったところである。

それにしても中国古典は、現代にも十分通じるところがある。他にも折を見て読んでみたいと思わされる。改めてそう感じさせてくれた一冊である・・・


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2017年01月19日

【つまをめとらば】青山文平



ひともうらやむ
つゆかせぎ
乳付
ひと夏
逢対
つまをめとらば

 著者のことはよく知らず、その作品を読むのも初めてであるが、江戸を舞台とした6編の短編集である。

 「ひともうらやむ」は、本条藩御馬廻り組の番士である長倉家の庄平と克巳の物語。本家の克巳がある時、庄平に相談を持ち掛ける。克巳は本家筋でありながら剣の筋もよく、おまけに好男子であり人も羨む存在であるが、藩内のお抱え医師の娘世津に恋をしていたのである。庄平に背中を押された克巳は、誰もが認める美女である世津と願い叶って祝言を上げる。だが、しばらくして庄平は克巳の深刻な相談を受けることになる。

 「つゆかせぎ」は、妻が亡きあと、実は妻が密かに戯作を書いていたと知らされた男の物語。父から受け継いだ俳諧が元で妻と知り合った男。妻は男に俳諧師として独立するように勧めていたが、食べていく自信のなかった男はその言葉を聞き流してきた。そんな男が勝手掛用人として知行地へ向かう途中の宿屋で女を買わないかと持ち掛けられる。雨が降るとその日の稼ぎを得られない女が、子供を養う為に身を売る。それが「つゆかせぎ」。

 「乳付」は、家格の違う家に嫁いだ民恵の話。初産で男子を儲けるが、熱に襲われ一命を取り止める。しばらくは負担を避けるべしと親戚の瀬紀が赤子に乳を与える。粉ミルクなどない時代である。自らが産んだ子に乳をあげられないもどかしさに襲われる民恵。しかし、やがて姑や瀬紀の過去を知ることになる。

 「ひと夏」は、高林家の次男啓吾の物語。当時の次男以下は、一家の厄介者としての存在。そんなある日、啓吾に新規お召出の話が来る。半信半疑で城に登城したところ、得られたのは杉坂村の支配所勤め。実はそれは幕領地内の飛び地であり、赴任したものは精神的に追い詰められて二年と持たずに鬱になると言われる仕事であった・・・

 「逢対」は、貧乏旗本の竹内泰郎の物語。ふとしたきっかけで泰郎は幼馴染の北島義人と出会う。実は二人とも武家であり藩から禄をもらっているが、無役である。そんな無役の者が、出仕を求めて登城する前の権力者の屋敷に日参することを逢対というのだそうで、真面目に逢対に励む義人の影響を受け、泰郎も義人に習って逢対に同行する。

 タイトルとなっている「つまをめとらば」は、すでに隠居している深堀省吾と幼馴染の山脇貞次郎の物語。ふとしたことで、貞次郎は省吾の家の敷地内にある家作を借りて共に暮らし始める。実は貞次郎は再婚を考えていたが、省吾との生活が心地よく、再婚に踏み切れないでいる。互いに女には恵まれなかったが、そんなある日、省吾の家にかつて省吾の元に奉公に来ていて、心中騒動を起こした里が訪ねてくる・・・

 こうした時代劇は、藤沢周平の影響ですっかり好きになっているが、やはりどこかのどかな雰囲気と、当時の文化を背景とした世界が良くて、よく読んでいる。この作家の作品は初めてであるが、どこか心に染み入る物語が心地よい。特に「逢対」はその制度のことは初耳で、生まれた時から身分が定められている武家の男の、定められてはいない世界への思いと友情とが特に心に響いてくる。読んでホッとできるところがあるのである。

 どの時代でも必死に生きている人々がいて、時に己の置かれた立場に違和感を感じながらも生きざるを得ないでいる。現代でも通じるような話だが、時代背景を超えて主人公たちの心情が伝わってくる。藤沢周平の新作が読めなくなった以上、こういう新しい作家との出会いは大切にしたいと思う。今後も動向に注目していきたい作者の作品である・・・


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2017年01月18日

【世界を変える100の技術−日経テクノロジー展望2017−】日経BP社編



1章 すべてが変わる
2章 交通が変わる
3章 住まいが変わる
4章 医療が変わる
5章 産業が変わる
6章 危険から守る
7章 もっと早く、もっと便利に
8章 今なお残る課題を見極める

技術の進歩は日進月歩であるが、2017年は技術立国日本の底力を改めて発揮する転機の年になるという。そんな考えを持つ日経BP社の技術専門誌の記者一同が分野を問わず最先端の技術を集めて紹介したのが本書である。中にはもう見聞きしているのもあり、また初めて知るというものもある。興味深く読んだ一冊。

まず初めに登場するのが、「チャットボット」。チャットするロボットということであるが、ネットで花を買おうとしている人が、サイト上であれこれとチャットでやり取りし、注文に至る経緯が紹介されている。このチャットの相手をするロボットのことである。こういう「人に寄り添う」テクノロジーは、これからどんどん広がっていくのかもしれない。腹立たしいお客様コールセンターの対応(「○○の方は△番を押してください」というアレだ)ももっとスムーズになっていくのかもしれない。

面白かったのは、電気味覚フォーク。舌先に電気を流し、例えば塩味を感じさせるという。これによって塩分を控えないといけない高血圧患者の食事療法に生かせるという。音声認識はテレビに内蔵し、高齢者が口頭で簡単に番組予約をできるようにするという。一人で録画ができない実家の母には便利そうだ。腸内の健康状態を匂いで検知するにおいセンサー、体内に埋め込むインプラント機器、半身麻痺でも漕げ、階段も登れる車椅子等々生活も便利になっていく。

VR(仮想現実)は一般化してきているが、ポケモンGOのようなAR(拡張現実)もますます拡大し、やがてMR(複合現実)により目の前に実写映像のように映し出せるものが実現する。SF映画がますます現実化してくるわけである。自動運転の開発については、あちこちで目にし耳にしているが、その性能の良し悪しは、ソフト次第なのだという。Googleが手を出すわけである。さらにEV車の走行中給電技術により、もはや充電作業そのものが不要になるようである。

そしてやはり気になるのが医療技術。自己の免疫力で癌を叩いたり、臓器の3Dプリンティングや、次世代手術支援ロボット、高齢者見守りシステムなどは、ますますの高齢化社会を招き、その良きサポートになりそうである。昨今、IoTという言葉が一般化してきている。しかし今後は新しい製品やサービスを始めようとすると、何らかの形でIoTになるのだという。問われているのはIoTを使って新しい何かを打ち出す構想力だという。

こうなると、何ができるかというよりむしろ「人間がやることは何か」が問われていくという。それもまた面白い変化だと思う。そういう世界にきっちりついていかないといけない。周りの年配の人は、スマホを敬遠し、パソコンすら決まった利用範囲でしか使わなかったりする。「若い人にはついていけない」と口癖のように言うのを聞き、自分はそうならないようにせねばならないと思う。何事も意欲と好奇心なのかもしれない。

来るべき時代に備えて、一読しておいた方がいいかもしれない一冊である・・・




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2017年01月15日

【ロケットササキ】大西 康之



プロローグ 孫正義の「大恩人」、スティーブ・ジョブズの「師」
第1章 台湾というコスモポリス
第2章 「殺人電波」を開発せよ
第3章 アメリカで学んだ「共創」
第4章 早川電機への転身
第5章 「ロケット・ササキ」の誕生
第6章 電卓戦争と電子立国への道
第7章 未来を創った男
エピローグ 独占に一利なし

 著者は、『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』『ファースト・ペンギン 楽天三木谷浩史の挑戦』を書いた方。どうやらこうしたビジネス系の書き物が得意な方のようである。そんな著者が、今回対象にしたのは元シャープの役員であった佐々木正。若き日の孫正義やスティーブ・ジョブズに力を貸した人物と知って興味を抱く。

佐々木は戦前の台湾で生まれ育つ。高校時代、成績は優秀だったが全校生徒を率いてストライキをやるなど破天荒であったという。卒業すると父の命で京都大学へ進学する。卒業後は学者になるつもりだったらしいが、在学中から逓信省の研究所に呼ばれて働き、軍の意向で川西機械製作所に送られレーダーの研究をする。戦時中はドイツへ行き、Uボートで帰国する。別便で帰国した同僚は、撃沈されたというから運も良かったのであろう。

戦後はGHQの命令でアメリカに行く幸運を得る。真空管、トランジスタ、時代の変化の中で、その時の最先端技術の世界で佐々木は生きる。この時以来築き上げた人脈と、教えあう『共創』という概念が佐々木の心に刻み込まれる。通産省に通って予算をつけてもらい、トランジスタの研究を始める経緯は、時代を感じることができる。この頃、のちにノーベル賞を受賞する江崎玲於奈を育てたというのも興味深いエピソードである。

そして佐々木が真骨頂を発揮するのが、早川電気(現在のシャープ)に入社したあと。初めは大学で教えるつもりであったものの、創業社長らから日参して口説かれる。そしてここからのドラマは日本のエレクトロニクス産業史そのものである。世はコンピューターの時代となり、早川電気は電算機の開発に着手する。佐々木は独自の人脈を生かし、技術と資金を確保する。

やがて始まる電卓戦争。各社騒乱状態となるも、小型化・低価格化の争いで早川電気とカシオが抜け出る。MOS-LSIなど専門用語はよくわからないが、佐々木はあちこちと自由に飛ぶ発想の豊かさから、米ロックウェルの技術者たちに「戦闘機のスピードでは追いつけない、ロケット・ササキだ」と言わしめる。これがタイトルの由来。

結局、最後に太陽電池を採用し、シャープは電卓競争で勝利する。自由な発想と「共創」という佐々木の信念のなせる技と言える。一人の頭よりもみんなの頭、考えてみれば当然であるが、アイデアを生み出すのには「共創」という保育器の役割は大きいのかもしれない。自分の仕事でも何か役立つことが多い気がする。

時代は下り、栄光のシャープも業績不振で台湾ホンハイ・グループの傘下に入った。そんな現状に対し、101歳になった佐々木は現社長にあるアイデアを授ける。ラストのエピソードは心温まるものであり、時代を走り抜けたシャープの再生を期待させるものがある。時代背景は違うものの、基本的な考え方ではまだまだ我々にも参考になるところが多い。

ビジネスの先人の教えとしてもよく、物語として読んでも面白い。さすが著者はよくこういう人物を見つけてきたものだと思う。著者の出版動向には、これからも注目していきたいと思うところである。



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2017年01月14日

【オー・マイ・ガアッ!】浅田次郎




浅田次郎の作品は数多く読んでいるが、その作品は大雑把に分けて「時代物系」、「中国系」、「不思議系」、「コメディ系」となる。この本は、「コメディ系」に分類できる一冊である。

舞台はラスベガス。主人公は3人。友人に裏切られ大きな負債を押し付けられた大前剛、エリート会社員から娼婦に落ちた梶野理沙、そしてベトナムでシルバースター勲章をもらうも今や落ちぶれたジョン・キングスレイ。それぞれ人生の底辺を漂いながらラスベガスにやってくる。そしてたまたまスロットマシンで隣り合って座り、嘘のようなシチュエーションで史上最大のジャック・ポッド(大当たり)を出してしまう。その額、5,400万ドル(1ドル100円で54億円)。

一方、そのジャック・ポッドを出したのは、ホテル・バリ・ハイ・カジノ&リゾーツにあるプログレッシブ・マシン「ダイナマイト・ミリオン・・バックス」(通称DMB)。6年間溜まった当たりがいっきに出たものであり、支払いをするのは運営会社のPGT社。PGT社の社長は、マイケル・ペスカトーレ。元マフィアのドン・ビトーの息子であり、ペスカトーレ・ファミリーのトップである。

映画『ゴッド・ファーザーPARTII』でも描かれていたが、ラスベガスもかつてはマフィアが支配していた町。ドン・ビトーとその息子マイケルは、名前からして『ゴッド・ファーザーPARTII』のコルレオーネファミリーそのままであるが、5,400万ドルも払うお金がない。ラスベガスには「メガバックスの呪い」と言われる大当たりをしたものが不慮の事故で死んでしまうというジンクスがあり、きな臭さが漂う。

タイトルは英語ではお馴染みだが、主人公の一人の名前がこれにかけており、梶野という名も含めてダジャレ的である。それぞれ人生の底辺を歩んできたのに、いきなり人生がひっくり返るような大金が転がり込んでくる。しかし、受け取りのルールは一括で受け取ると39.6%の税金が引かれた上に6割に減額されるという。25年の分割だと満額もらえるが、死んだら遺族は受け取れない。ここから「メガバックスの呪い」がでてくるのであるが、この受け取りルールは実際にそうなのかどうか興味のあるところである。

大前剛にも梶野理沙にもジョン・キングスレイにもそれぞれの人生模様がある。そこにペスカトーレファミリーが絡み、ホテル・バリ・ハイのオーナーであるアラブの大富豪も登場する。面白おかしく絡み合って物語は進み、そして最後は3人ともお金以上のものを手にして大円団となる。コメディではあるものの、最後はしっかりと心にインパクトを与えるところは浅田次郎らしい。ラスベガスに行ったのは、もう18年も前になるが、あの町並みとカジノの絢爛たる様を思い浮かべて楽しく読めた。

ラスベガスに行ったことがある人なら、楽しめる一冊である・・・


posted by HH at 18:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 浅田次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする